炙り焼きは、焼き台で完成しない。
杉の屋の名物のひとつだ。
炙り焼きは、焼き鳥とは少し違う。
ルーツを辿れば、宮崎の籠焼き。
そこに鍬焼きのような、塊肉を焼く発想も入っている。
串ではなく、肉そのものと向き合う料理だ。
多くの人は思う。
強火で焼くだけ。
豪快な料理。
焼き鳥より簡単そう。
実は逆だ。
炙り焼きは、焼き鳥より難しい。
強火で一気に焼くからだ。
火が強いほど、焼きムラが起きやすい。
よく焼けた部分と、火が足りない部分ができる。
すると食感が悪くなる。
同じ皿の中で、柔らかい部分と硬い部分が混ざる。
職人として一番嫌な状態だ。
だから炙り焼きは、焼き台で完成させない。
炭の上では八割。
そこで止める。
熱々の鉄板に乗せて提供する。
理由はひとつ。
最後の火入れをしたいからだ。
炭から下ろしたあとも、肉には熱が残っている。
鉄板にも熱がある。
その余熱まで計算している。
最初、鉄板の上では激しく音が鳴る。
ジュワーッ。
脂が弾ける。
音が鳴る。
油も飛び散る。
しかし、しばらくすると落ち着いてくる。
音が小さくなる。
油も跳ねなくなる。
その頃が食べ頃だ。
つまり杉の屋の炙り焼きは、
炭の上で完成する料理ではない。
お客さんのテーブルで完成する料理だ。
焼き鳥は串の上で火入れを完結させる。
炙り焼きは違う。
鉄板の余熱まで含めて火入れをする。
だから職人が見ているのは、焼き色だけではない。
温度。
音。
余熱。
その全部だ。
炙り焼きは豪快に見える。
だが実際は、
とても繊細な料理である。
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