見出し画像

カノンアート 第十四話(最終話)

〈終わりと始まり〉
カノンは大規模魔法を唱え始めた。
これは私のアートだ。ずっと表したかったのはこれまでの気持ち。世界はこんなに広く、美しく、醜かったのか。カノンはマーテの言葉を思い出した。
『俺は見るに耐えない人間だ』
いつのまにか伸びている身長を見てカノンは微笑む。そんなことはなかった。人間らしく成長する、可愛い少年だった。
大規模魔法は大きく唸って暴れている。何しろ範囲が広過ぎる!想像して操ることは到底できない。
「マーテ、助けて…」
マーテの魔法が加わった。横を見ると、マーテが形を変える魔法を唱えていた。
「カノン、がんばれ!」
マーテは何度も助けてくれた。支えてくれた。とても勇敢な少年だった。彼が取る選択肢はたったの一つだった。カノンを助けるか助けないか。そんなの決まってるじゃないか。
ガタガタ…と、魔法が振動する。今にも跳ね返りそうだ。カノンは、腕についたブレスレットを空に向けてかざした。
二人が立っている場所はわずかの大きさしかない。もし倒れでもしたら、絶対に真空へと落ちてしまう。と、本がパタパタと飛んできた。『history』と『truth』。その中に、言葉が点滅している。
「七つの王の一つ!『氷』、我に力を与えよ!」
読み上げた瞬間、カノンのブレスレットが煌々と青く光った。神淵の光がだんだんと近づいている。賢者、ありがとう。沢山の魔法を教えてもらったおかげで、世界を救うことができるよ。
「全てを凍らせよ!いつかその時が来るまで!」
光は膨れ上がり、世界中に広がった。
カノンの口が小さく動いた。
二人は唐突に意識が薄れていくのを感じた。意識を失いつつある中で、カノンは笑った。
「これは…全ての人への…アートなんだ…」

果たして、大規模魔法は成功した。広範囲の魔法に、マーテの魔法が加わり、大きな氷のような、それでいてハーブのように優しいベールとなって星を包んだ。
全ての人が眠った。全ての動植物が眠った。歪みが永遠の時が過ぎるまでを待った。
カノンは最後の時にこう唱えただろう。
「これを全てのアートとして神へ献上いたす」
星は美しかった。オリオンの面は緑、如法暗夜の面は紫、水界の面は水、日月星辰の面は赤、スコルピオスの面は茶。とても大きい宝石のようなアートは、神々の創造を超える素晴らしいものとなって現れた。
だが、神々は待った。
繰り返される〈カノン〉の世界。
アートに終わりはない。
待った。
世界を待った。
待った
待つ
待つ
永遠の時を……
………………
…………
……

..
.







星はやがて、永遠の時を経て全ての時間を取り戻した。人々の意識はだんだんと戻っていく。
いつか、カノンとマーテは普通の少年少女として家に帰るだろう。
そして何も変わらない家族に満面の笑みでこう言われるのだ。
「誕生日おめでとう」
と。