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子育て無理



2週間前、トム・ブラウンの単独ライブに行った。お笑い芸人の単独ライブに行くこと自体初めてだった。今池ガスホール。11歳(小6)の長男と二人で行った。長男と私はほとんどの時間喧嘩をしている。あのカフェオレ買ってきてと言われて買って帰ったら「これじゃないし」と睨むし「うるさい黙れ」が口癖だし(反抗期とかの問題じゃないひどすぎ)次男との兄弟喧嘩も絶えない。この日も今池に向かう車に乗るのを面倒くさがり、車内でも酔ったと言い(漫画読んでるからだろ)まじでなんで私はこいつと、これほど楽しみにしていたライブに、向かっているんだ……という思いを落ち着かせながら運転した。私と長男はかなり似ている。大人の揚げ足をとりまくり、嫌味を言い、頭の回転の速さを全部大人を言い負かすことに使って興奮していてそれが止められない、感情の浮き沈みは激しく常にイライラしたり嫉妬したり不安になったり勝ち誇ったり、という子供のころの私も、妹に意地悪しまくっていた。

そんなムカつく11歳と会場近くの駐車場につき、今池ガスビルまで歩いて到着、9階にあがるエレベーターを待つとき、真上の案内板に「トム・ブラウン」の文字があって、エレベーターに入り同じ空間にカップル2組が乗って、同じ階を目指し全員であがっていくとき「この人たちも(見た目普通なのに)ちんぽとか言いまくるpodcast聞いてるんだ!?」と急に実感した。トム・ブラウンのpodcastを聞き始めたのは1年前だった。ハマりすぎて1から全話聞いて今年春やっと追いついた。

9階に着くと、すぐ先の受付で「QRコード確認しまーす」と案内している男性がいて、それを見た長男が「え、もうお笑い芸人みちゃった……」とつぶやいた。その人は2022年キングオブコント決勝1番手のクロコップ荒木さんだった。(その年の決勝、O157で入院していた長男は病室から見ていた)

その辺から、長男の目は洗い流されたように澄んだ。グッズ買う?と聞いたら「買いたい...!」と売り場に吸い寄せられ、Tシャツと、みちおの顔面を握り潰せるボールを選んでいた。ホールに入り席を確認するとなんと前から3列目だった。前から3列目の左端。「ママ、え、え?ここ?!?!」と口と目を広げて小声で叫ぶ長男。どっちの席がいいか聞いたら一番左というのでそうなった。買ったばっかりのTシャツにすぐ着替えていた。

トム・ブラウンとは、髪の長い布川という人が、丸くハゲてるみちおという人の頭を「ダメーーーーーー」と叩くことでお馴染みなのだけど(ライブの内容はネタバレ全部禁止なので書かない)いよいよ開演時間になり、ライブがはじまり、ネタがはじまり、はじめての「ダメーーーーーーーーーー」が目の前で起こる瞬間。左隣の長男がびくっと揺れたので思わず横を見たら今まで一度も見たことない、顔面がクス玉になって感情がぶち割れ溢れるみたいな光の表情で“破顔”って感じ、声に出さずこちらを一瞬見て「すごい、やばい、すごい……!」と口だけを動かした。そのあとコントや漫才や映像や色々続いて一瞬休憩みたいな幕間のタイミングで長男が私にきらきらの興奮とうれしさを溢れさせたまま「汗が、つばが、すごい…!」と、すごさの内容を語ってくれた。わかる、わかるほんとすごいやばい、わたしも恐怖みたいな衝撃を受けつづけた。生の二人が現れただけでも現実と夢が繋がるうねりに驚いたけどやっぱり、布川さんがみちおを「ダメーーーーーーーーーーー」と叩いたその最初の瞬間に感情が割れた。肉体が肉体をえぐるほど巨大な地響きは会場中の脊髄と地球の中心を揺らす圧。すごかった、想像してない次元。殺す気でやってるのか、このハゲ頭を全体重と人生賭けてぶち倒すぞという気迫か、本気の本気の「ダメーーーーーーーーーーーーーーー」は生命の雄叫びとしてぶちかまされた。


舞台が丸く前に出ていたから、左端の私たちからトム・ブラウンは真横くらいの位置に感じられた。ふたりは奥からライトに照らされ、叩かれるみちおの肌茶色の頭から飛び散ったのは光のつぶ。ぱああああああああと散る汗、さらに2人の口からは唾も飛び散りまくり、ちょっと唾が出るとかじゃなく噴き出してる。あらゆる飛沫がぱああああああああと飛び散り何度か繰り返さる「ダメーーーーーーーー」はそのたび強く重く響いて、何回でも荒れる体液の桜吹雪って感じ、それを見ながらわたしは、わかった気がした。わかった!!!わかった!!!!私がなぜ、podcast『トム・ブラウンのニッポン放送圧縮計画』、略して『ニッ圧』を聞いてしまうのか。番組内で布川さんがよく「この番組は主婦の方がよく聞いてくださってるんですからね〜〜」と言ってるけどまさに私も主婦であるし、つまり【なぜ主婦がニッ圧を聞くか】わかった。わかった!!!!!!!!!


ちんぽと喧嘩と成長の記録

髪が長い方の布川さんは、ダ・ヴィンチwebで連載しているエッセイの中で、ご近所付き合いなど関係性が希薄になった日本において、それでも〈箱根駅伝が毎年異常に視聴率が高い〉理由として〈それは日本人の心の奥底に箱根駅伝の襷リレーのように人と関わっていたい気持ちがあるからなのかなと思います。そうじゃないと辻褄が合わないです〉と書いている。

つまり、生活の中で日本人が「なくしかけている」ものを、駅伝を見ることで「取り戻そう」としていると書いているのだが、私は、ニッ圧もまさにそういうことだと考える。どういうことかというと。

まずニッ圧の内容を簡単に説明するが……(聞いたことない人に1から聞いて欲しいので、podcastも極力ネタバレを避けます)


1話でみちおは恋に悩んでいる。好きな人がいて、その人に送るライン文面やデートを布川に相談する。そこから回が進むごとにどうアプローチするか返事はどうするか、全部真剣に話す。そうして混乱するみちおに、布川は「お前それはないわ」「お前それはキモいって」「それでも男か」など断言する。みちおはいつだって自分を守るため小さい嘘をついたりブリっ子をしたり過剰に疲れたふりをして構ってムーブをかましたり、こざかしく動き回るのだけど、それを布川は見破る。「おいお前またやったなあ?」「おいお前いま嘘ついたろ?」「はあ?ごまかすなよ」等と布川は絶対に見逃さない。ときに大喧嘩になり(かなり頻繁)言い負かされて悔しがるみちおは泣いたり、きまずくなって放送が大幅にカットされた回もある。それでも繰り返し、みちおはやらかし(放送中に鼻くそを食べたりする)布川は指摘し、どれだけきまずくなろうが喧嘩は起こる。

でも。みちおのやらかしを聞く我々は、呆れながらもどこかで「自戒」のようなものも感じる。なんていうか、そのどれもが他人事ではなく、私たちが若いとき一度はしたような失敗だったりする。つまり我々人間の惰性の集合体がみちお。忘れ物も遅刻も繰り返すみちお。

それに対し、まさにハッキリ「ダメーーーーーーーーーー」とするのが布川なのだ。漫才でやってるそれを、地でやってる。「お前それダメだろ」をリスナーにも言う。「お前へたれだろ。そんなもん男じゃねえぞ」「自分が悪いだろ」「そいつのせいだろ」「ふざけんなよ」「おいお前いい加減にしろよ?」

放送内だけじゃなく、ラーメン店とか日常でも「ダメだろ」を臆さず言う。ダメなもんはダメ、ダサいもんはダサい、許せないもんは許せない。現実のあらゆることにちゃんと「ダメーーーーーーー」を言う。かといって、布川は結婚しているけど風俗に行きまくっていたりするし、日常生活において「ちんぽ」とバレないように言ったりする。世間の誰かがダメと言いそうなそれに、別に番組内で誰も断罪しない。なぜなら布川の中にはっきり「自分の正義」があるから。覚悟を持ち正義を背負っている。「これは俺はいいと思うよ」「これはダメだと思うよ」をはっきり示してくれる。つまりつまりつまり話を戻す。なぜ私がニッ圧を聞いてしまうのか。それは、私たちがいま生活の中で避けてしまっている、はっきりとした審判を、布川が強く下しつづけるから、というのがまずある。(たまに敬称略)


許容ブーム、ダメと言わない育児


11年前はじめて子供を産んだ頃から「ダメをいわない育児」の空気があった。「否定しない」が基本で、あまりにダメなことをしてたら「よくないよ」という裏技みたいな注意でごまかす風潮があるようでない気がする。(これすら断言するのがこわい)とにかく育児をしていると、下手に断言することは命取りなので気を使う。それでも私はダメという方ではあると思う。

うちに遊びにきた小学生達が帰りに片付けもしてなかったりするとき私が「ちゃんときれいにして帰らないとダメだよ」とか言うと、よその家で怒られ慣れてないのか、その子達はびっくりした顔をする。かといって自分の子が面と向かってうざいとか言ってくるとめんどくさすぎてスルーしたりもしてしまう。ダメなものはダメなのに。


なんとなく学校に行きたくないという子供はサボらせてOKか?ゲームの時間を制限した方がいいか?制限しすぎも良くないか?小学生からスマホを持たせる方がいいか?早いか?自分のことならすぐ決められるのに、子育てしてると「自分じゃない人間」のことでの決断を迫られる。小さいことから大きいものまで大量。それなのにそのどれもに正解がない。日々迷う。今週なんて、大きな病院に行ってCTをとった長男の診断結果を説明してくれる医師から4つの選択肢を提示されたけどそのどれもが「お母さんがどう考えるか、お子さんの気持ちもどうか、という次第で……」だと言う。そうかもしれんがむずいって!と頭を抱える。子育ての大変さって、お金とか反抗期とか時間の使い方とか食育とかそういうことなんかと思ってたけど地味に「正解がわかんない」ことを扱い続ける(けど責任は大きい)っていう、置かれるこの状態の曖昧さ、が結構あるのかなと思う。


この一年、そういうことが特に何度もあった。我が家の場合、大きな引っ越しをして子供は転校して私は自分の父の会社を手伝うことになり、それに伴い習い事とか友達関係とか決断だらけで、そこに自分自身の選択肢もある。常に「なにを大事にするか」を考えないといけなくて、決め手を探しまくる日々だった。だけどこの一年がいままでと違うのは、頭の中で勝手に「いやそりゃダメでしょ」「お前それダサいぞ」「あーまたやってんなあ?嘘つくなよ」「おい、許さねえからな?!」という、あの声が流れることだった。


ある回で布川さんが「俺だってこんなロン毛やりたくてやってるわけじゃないからな」と言っていたのを聞いてびっくりした。当たり前かもしれないけど、そうかこの人も、やりたいことのために、やりたくないこともやってるんだ、と知った。自分の正義を決めて貫くのは簡単じゃない。でもごまかして半端にするのはやっぱりダサい。忘れそうになるそれを、ニッ圧はいつも思い出させてくれる。脳天を叩かれるように、覚悟を持って正義を決めて貫くんだと、勝手に思わされる。布川さんみたいに正義を貫いてダメと叫ぶ勇気。みちおみたいにダメと言われて変わろうとする勇気。断言を避ける時代に、わたしは決める勇気が欲しかった。だから主婦はニッ圧を聞く。


ふたりの共通点


もう一つ、このpodcastならではの光景がある。それは「こないだこんな仕事をしたんですけど」っていう話をどちらかがはじめるとき、必ず二人のどちらもが一言目に「いやありがたいねえ〜」などと感謝を表明するということだ。色々芸人さんのラジオを聞くけど、なにかの仕事を振り返るとき感想より先に感謝をはっきり出すのは二人の特徴だと思う。仕事、お客さん、スタッフさんへの感謝をなにより口に出している。

私が息子ふたりを育てている、というのもあるかもしれない。あまりに性格の違ううちの子達が、この先どんな大人になるのかなと想像することがあるけど、そのとき、性格が違いすぎるトム・ブラウンの二人が感謝の声を重ねるのを聞くたび、どう育ってもいいけどこうなってほしいなあ、となんとなく感じる。それは表面的な「性格」とかよりもっと深い部分のことであり、だからこそ、どれだけ彼らが殴ったり揉めたりしててもなんか安心して聞きたくなる。


子育て無理


単独ライブのエンディングは写真撮影可能だった。そのときには左隣の長男は、すっかり大満足気な表情で、大きな口で身を捩らせて笑った。すべてが終わって会場を出るときもずっと、あのコントおもしろかったよねえとか、ママどれが好きだった?とか、クロコップおもしろすぎたとか、ずっと嬉しそうに喋っていた。帰りのエレベーターが混んでいて階段で1階まで降りるときもニコニコして、そのまま定食屋さんでからあげを食べながらもずっと「いやあ〜〜〜最高だった〜〜〜〜ママほんとありがとう……最高〜〜〜」と、トム・ブラウンと書かれたTシャツを着ながら繰り返していた。私と長男は似ていて、だからかなりぶつかる。私が大人になればいいのに、いちいち「いまの本当によくないよ?」と見逃さず言ってしまうときもある。でもそれに筋は通しているつもりだし、向こうは向こうで私の言うことに「それは良くないよね?」とかも言う。言い合いになる。疲れた日に料理を作って並べた直後ちょっとしたことで兄弟喧嘩が起こって二人とも機嫌悪くなってご飯全然食べなくてまじでほんとにやめてくれと思うし色々重なったとき台所とかで「子育て無理」としっかり思う。なんなら最近一番思う正直な感情が「子育て無理」「子育てむずい」「子育て最悪」とかでもある。それは書いちゃいけないことだろうか?私は「無理」と「大事にする」は共存できると思う。(会社無理、介護無理、学校無理、とかも同じかも)

感情に振り回されるだけでなく信念を持つ。大切にしたいことは決めて守る、を貫けば別にいいかと今は思う。誰かに評価されたくて毎日を生きてるわけじゃない。自分で「ダメ」と「いいね」をわかっていることが大事なのではないか?

次男が昨日寝る前に私に「ママ仰向けになったら?」と言おうとして「山折りになったら?」と言ったこととか、最近「や団」の単独映像をずっと見てる長男から「や団単独ライブの途中の映像がおもしろすぎる」と教わりそれを一緒に見て吐くほど笑ったこととか、長男がこないだ友達呼んで誕生日会したいというから開催したら21人の男子がきたこととか、そういうことを守るために、これからも毎週毎週毎週毎週ニッ圧を聞いて、毎週欠かさず滝行みたいに精神を鍛錬したい。感謝と気合いと正義と反省が進化を作る。

長男と私は似ていて喧嘩しまくるけど、似ていてふたりともトム・ブラウンを好きになってよかった。




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【追記】6/27(金)19:26
いま急いで、慌てて、急いで追記としてこれを書いてます。なんといまトム・ブラウンニッポン放送圧縮計画にて、私のアンケートが紹介されただけでなく、なんと布川さんが、このnoteを紹介してくださっていました……まさに息子と二人で聞いていて、ふたりで飛び上がって叫んで抱き合いました。信じられないありがとうすごいやばい、と言いながら息子は「これからも死ねって言うね!」と満面の笑みでした。これからも二人で聞き続けます。親子で金曜の夜に飛んで抱き合ったことを忘れません。





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参照:布川さんのダ・ヴィンチ連載↓「おもしろおかしくとんかつ駅伝」

推奨:オールナイトニッポンpodcast「ニッポン放送圧縮計画」↓





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