「あなた、コロナにかかってますよ」3話
結局、熱が出はじめた夜から次の日も、また次の日も40度近い熱は下がらないままだった。
2日目からはそこに頭痛も加わった。それは、初めて味わう痛みで、右側の側頭部を針で(チクン、、、チクン、、、)と一定の時間をおいて刺されるようなもので、その痛みがもう、本当に本当に辛くて、発狂しそうになる。私は朦朧とする頭で何とかできないものか考えた。頭痛薬…と思ったけれど、ずいぶん前に購入したのはどうしたっけ?だって普段必要ないんだもの。時々頭痛がすることはあっても、薬を飲むという発想がそもそも欠けているので準備もしていないのだった。
まさか、こんなことになるなんて!!
なんで買っておかなかったんだ!!
私は自分の薬ギライをはじめて呪いつつ、祈るような気持ちで薬箱にしているカゴを漁ってみる。しかし初めて知ったのだけど、40度の熱がある人間って探しものなんかできないんである。起き上がるのさえしんどいのに、箱の中のモノをいちいち確認して文字をみて……なんて、普段はフツーにできていることができない驚き。
結局、頭痛薬はおろか、冷え〇タさえ見つからず、私は仕方なく手ぬぐいをハチマキのように頭に締めた(ああ、もう笑)。気休めでしかないだろうが、少しでも”チクンチクン”がそれで回避できないものかと思ったのだ。
今思うとそれは、よく時代劇に出てくる病に倒れた殿様の姿そのものだった。しかも偶然というべきか、使っていたのは紫の手ぬぐい……殿様はどうしてハチマキを縛っていたのかな。何かの願掛けかしら。それとも、私と同じ理由だったりして。
それにしても……そんなに頭が痛いなら、医者には行けなくても子どもたちに薬を買いに行ってもらうとか、すればよかったのに……。
いま思うと、バカみたいにすべてを自分でなんとかするつもりでいた。自分が動かないと家が回らない、って本気でそう思ってた。まだ幼子をかかえているならいざ知らず、相手はもうとっくに身長も抜かされた高校生と中学生。いくら普段はめんどくさがって何にもしなくても、そんなときくらい……そんなときくらいは、頼ったらいいのに。
思えば、ひとに頼るのがいつからかニガテになっていた。
人一倍他人の顔色をうかがう性格。最近ではよく”繊細さん”と言われる、おそらくその傾向があるのだと思う。記憶にはないけど、おそらく誰かに何かを頼んで、断られたとか実際はやってくれなかったとか、そんな経験があるのだと思う。断られることは自分にとって、ものすごく深い傷だった。自分そのものを否定された気分になり、もうその人にそれ以上のことを頼むことはできなくなった。そしていつの間にか、他のひとにも頼ることができなくなってしまったのだった。
元夫とも同じだ。頼れなくなって、それまで頼んでいた電球の交換なんかも自分でやるようになってしまった。
もっと、(本当は頼りたいんだよ)と伝えておけばよかったのかな、といまは少し思う。
この、40度の熱が出ている最中でさえ、私は少し調子がいいと思えば洗濯機を回していたのだ。調子がいいと言ったって、別に熱がさがったわけじゃない。単に体感的に(あ、今なら少し動けるかも……)程度のものである。そんな中でも、息子が部活で毎日使うからと、練習着やらジャージやらを洗濯して干していたのだから……そんなの、自分でやれってハナシだよね。

3日目になっても全然熱は下がらない。頭痛も引かず、相変わらずチクンチクンとピンポイントで執拗に攻撃してくる。私はもう、ただ横たわるのみ。ときどきご飯とかうどんとか、食べてた気もするけどもう、この頃の記憶はほとんどない。というのも、この辺りから脳内がおかしくなりだした。まったく下がらない40度の熱に浮かされているせいか、もう、夢か現実か妄想かわからないような状態になっていた。目をつぶれば目の前にサッとスクリーンが用意され、ある時はひたすら抽象画像がエンドレスで流れ、ストーリーがありそうでなさそうな支離滅裂な映像が無秩序に流れ消えていく。なんだか寝ててもものすごく疲れて夢と現実の区別がだんだんつかなくなってきて
(なんかもう、なんでもアリだなぁ。こっからここまでがリアルとか区別つけるのバカみたいだなぁ)
なんてことを思うようになっていった。
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