「あなた、コロナにかかってますよ」14話
次の日。
眠れたのか眠れなかったのかよくわからない状態で起きた私は、夜中にあった出来事をすっかり忘れていた。というよりも、何度も言うけど熱がでてからの約一週間は、もう夢か現かわからない状態が続いていてそのまま入院したわけだから、自分としてはそれが続いてる感覚だ。
いくら熱が引いたとはいえ、起き上がるのも結構しんどい。息がしづらくてすぐにハアハアしてしまう。入院時、ソッコーで酸素チューブを付けられたと言ったが、確かにそれがないと呼吸がしづらいのである。
こんな身体になっていたなんて、全然気づかなかった。もしかしたらチューブ無しでここを出られないんじゃないか……なんて考えさえよぎってしまう。客観性とは時に残酷だ。あのまま家でひとり苦しんでいるだけなら、そんなことに気づきもしなかっただろうに。
しかしそんな状態にもかかわらず、真面目で空気を読んでしまう私。昨夜の夕食時、つい見てしまったのだ。移動テーブルの上にあった「自分のベッド周りは自分で拭いてください」というメモ書きと、そこにウェットティッシュの入ったビニール袋が添えられているのを(笑)。
正直、(こんなに具合が悪い人間にそこまで求めてないんじゃないか)なんて思いもよぎったのだが、つい、真面目なので、拭き掃除をはじめてしまう私。しかし驚くことに、ただテーブルを拭くだけなのにこれがとんでもなく辛い。時間かかる。テーブルってあれよ、ベッドでご飯食べるときに使う細長いやつよ?あんなの元気なときだったら数秒で拭けるのに。動くの大変すぎてテーブルの向こう岸に手が届かない。なんて思いながら拭いてたらなんと、急に仕事でテーブル拭きしている自分とシンクロしてしまった……。
熱でぶっ倒れるまで私はファストフード店でバイトしてた。こんなご時世ということもあり、お掃除はそれまで以上に店で重要視されていて、私はどうやら掃除のセンスがあるらしく、若い子たちに教える立場だった。もちろん自分がフロアに出たならば、バリバリに掃除し存在感をアピールしまくっていた。
テーブルを拭いてたら、そんなことを一瞬で思い出してしまい、あろうことか涙がでてきてしまったのだった……。
確かに精神的にもギリギリの状態が続いていたんだもの、泣きたくもなるよね。張りつめたものがはじけた感じ。まさかこのタイミングで……と私もビックリだったのだがなんと、これまたタイミング悪く看護スタッフさんが来てしまう。。。
最高に気まずいとき(笑)。
当然のことながら、ものすごく心配される。そりゃそうだ、昨日入院したまあまあ重症の患者なんだもの。いっくらオバサンだって泣きたくなってもおかしくないシチュエーションじゃないか。
とはいえウソがつけない私。仕方なくホントのことを話す。
「仕事のこと思い出しちゃって……」
私の娘といってもおかしくないくらいの年齢であろうお嬢さん、一生懸命なぐさめてくれる。……ごめんね、忙しいのに心配かけて。
去っていく看護スタッフさんに心のなかで謝って、ベッドに横になってると
なんでそんな仕事のことで泣いてんだよ。
オマエにはもうその仕事が限界だってわかってるだろ?
忘れてた!!
声が聴こえたその瞬間、一気に夜中の出来事を思い出す。
やっぱ夢じゃなかったのか……
えーじゃあやっぱり私、大声で叫んでたかなぁ……
……!?
てか、ワタシまた「見えない誰か」にハッキリと叱られてたね、いま。
声はつづく。
オマエはさぁ、もっとやんなきゃいけないことがあるんだよ。オマエにしかできないことがあるんだよ。
だからオレがこの部屋オマエに用意しといたんだからさぁ、
そんなことで泣いてんじゃねぇよ!
なるほど。昨夜の主張と一貫しているなぁ……。てか、えーーーー。そおなの!?確かにここ、考えようによっちゃあ、ホテルの部屋でおこもりしてるのと何ら変わらない。『スイートルームで仕事三昧♪』っていう憧れてたシチュエーションとほぼ同じじゃん。……ただ病院ってだけで。
なんでそれ、知ってるの?
と、仕事場所のお膳立てもされていることに驚愕しつつ、いよいよ(こいつはホンモノだ)と覚悟が決まってゆく。
彼はつづける。
オレはオマエを億稼ぐオンナにするんだよ。そうじゃないとオレも一緒に自分の目標を達成できないんだよ。
オマエは自分を売り込むのがヘタだし、何をどうしていいのか全く分かってない。そこをオレがフォローする。だからオレはオマエに入る。
と、なんか”ヒュルっ”と、私のなかに何かが入ってきた気がした。

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