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サンタ新聞社を見つけたよ

 pixivのブックサンタ2024企画の参加作品です。
 パパの為にサンタの街へ行き、サンタ新聞社を見つけた男の子のお話。

サンタ新聞社を見つけたよ


 ある日、サンタ新聞社の記者サンタさんは悩んでいました。
「次の記事は何にしよう」
 おもちゃが上手く作れなかったサンタの記事、プレゼントを無くしたサンタの事件、間違って別の子供に渡してしまったプレゼントをこっそり取り戻して事なきを得た話。どれもよくあることで、真新しいものではありません。
「どれも毎年のことだしなぁ。何か新しいことはないだろうか」
「やっぱり人間界のことについて、特集してみたらいいんじゃないですか」
 同僚の記者サンタが言いました。
「私もそうしたいが、特集は組めてもどうやって新しい情報を得るというんだ。人間界に行けるのはクリスマスだけだぞ」
 サンタの掟の中に、サンタは自由に人間界に行ってはいけないという決まりがありました。自由に行き来してしまっては、クリスマスプレゼントの調査や製作期間、サンタの体力を保つためのエネルギー循環に影響が出てしまうからです。
「そうですよね。クリスマスが過ぎれば、また新しい情報が入ってくるんですけどね」
 人間界でプレゼントを配り終えた直後なら、サンタは何かしらのトラブルにあったり、ハプニングがあったりするので新しい情報があるのですが、クリスマスが近いこの時期は、溜めておいた記事は殆ど使い尽くしてしまっていて、いつも悩んでいるのです。
「うーん、どうしたものか」
 サンタさんは腕を組んで唸りました。
「仕方ない。今までと同じような記事になるが、今回もこれでいくか」
 サンタさんは、代わり映えしないけれど頑張って集めたなんとか記事になりそうな取材資料を見て、記事作成に取りかかりました。

「次の記事は何にしよう。何か新しいことはないかな」
 人間界のとある新聞社で働いているパパは、いい記事がないかと考えていました。そんなパパを見て、六歳の男の子は言いました。
「サンタさんのこと書けば? もうすぐクリスマスだし、クリスマス前のサンタさんはどんなことしてるのか、きっとみんな気になってるよ」
「そうだね。サンタさんに取材が出来ればいいんだけど、どこにいるかわからないし、連絡が取れないから難しいかな」
 パパにそう言われ、男の子は考えてみました。サンタさんと連絡を取るにはどうすればいいだろう。そうだ、サンタさんと言えばおもちゃ屋さんだ。
「パパ、ぼくサンタさんと会える方法探してみるね」
 そう言って、男の子は自分が知っている一番大きなおもちゃ屋さんに行きました。
「サンタさんと連絡を取るにはどうずればいいの?」
 カウンター越しに声をかけてきた男の子に、店主は笑いかけました。
「おやおや小さいお客さん。サンタさんに会いたいのかい?」
「うん。パパが記者でね、サンタさんの取材をしたくてもどこにいるかわからないって言うから、聞いてみようと思ったんだ」
「そうかい。だったらすぐそこの駅から三駅目の切符を買って電車に乗ってごらん。クリスマスが近いこの時期なら行けるかもしれない。歓迎されればサンタの街へ行けるよ」
「そうなの? ありがとう、おじさん。ぼく行ってみるね」
 男の子は言われた通り、三駅目の切符を買って、電車に乗ってみました。
 三駅目に着いて電車を降りてみると、窓から見えていたものとは違う景色が目に飛び込んできました。
 先ほどまで雪は降っていなかったのに、一歩電車から降りた途端、目の前に広がる雪景色。けれど寒くありません。そして駅のホームにいたはずなのに、今は道の真ん中に立っています。振り返ってみても今までの景色はありません。
 乗っていたはずの電車は路面電車になっていて、電車に乗っている人はみんなサンタの格好をしています。乗ったときは誰もサンタの格好をしていなかったのに、です。
 行きかう人々もみんなサンタの格好をしています。そして形も大きさもみんな違いました。
 細長いサンタさん、丸いサンタさん、メガネをかけたサンタさん。男の子の三倍もある大きなサンタさんもいれば、手の平に乗るような小さなサンタさんもいます。みんないろんな色の服を着ていますが、見たことのあるサンタさんの格好です。
 男の子は辺りをきょろきょろ見回しながら、歩いて行きました。暫く進んでいくと『サンタ新聞社』と書かれた看板の、レンガ造りの建物がありました。ここにも新聞があるようです。
 男の子は入口にある階段を上って、中に入って行きました。中ではサンタさん達が忙しそうにしています。
「おや、君は誰だい?」
 ひとりのサンタさんが男の子に気付き、声をかけてきました。
「ぼくのパパが記者で、サンタさんのこと取材したがっていたから、探しに来たんだ」
 男の子はおもちゃ屋の店主のことと、電車に乗ってきたことを話しました。
「そうかそうか。なるほど。迷い込んだわけだな。こりゃ丁度いい。こちらでも人間の取材をしたいと思っていたところなんだ。こちらへおいで」
 サンタさんは男の子を自分のデスクに連れて行き、椅子に座らせてくれました。
「私らに君たちの世界のことを教えてくれないかい?」
「いいよ。サンタさんの取材もさせてくれる?」
「いいとも。これで良い記事が書けるぞ」
「サンタさんも記者なの?」
「そうだとも。ここにいる私たち記者サンタは新聞を作ってる。読んでみるかい?」
 サンタさんは新聞を見せてくれました。最初に目に飛び込んできたのは『ケーキ担当サンタがケーキ失敗で大爆発』と書かれた見出しでした。
「ケーキ担当のサンタさんがいるの?」
「ああ、そうだよ。クリスマスパーティーはサンタの街でもするからね」
「どんなケーキを作るの?」
「いろいろさ。季節のフルーツいっぱいのタルトケーキ、生クリームいっぱいのデコレーションケーキ、ベリーがいっぱいのベリームースケーキ、チョコレートとナッツたっぷりのショコラシフォンケーキ。抹茶ケーキやアイスケーキもあるよ」
 ケーキ担当のサンタさんは、どうやら大きなオーブンでケーキを焼こうと張り切り過ぎて、温度を間違えてしまったようです。
「このサンタは、前にもクリームを爆発させたことがあってね。部屋中にクリームが飛び散って大変だったことがあるんだ。でもいつも美味しいケーキを作ってくれる、良い職人サンタだよ」
 サンタさんはそう教えてくれました。次の記事にはこうありました。
『配達担当のサンタが、配達するプレゼントを紛失して捜索中』
「プレゼント無くしちゃったの?」
「落としたみたいでね。みんなで探し回ってるよ。トナカイの背中とか、雪の中とか、ポケットの中とかね。前はツリーに間違って飾ってしまったこともあるんだよ。でもちゃんと見つかるから大丈夫さ。ほら、こんなのもあるぞ」
 サンタさんは次の見出しを指さしました。
『ホワイトツリー区域担当のサンタはよく寝坊するので、間に合うように今年もみんなで起こしてあげましょう』
「寝坊することがあるんだね。遅れたらどうするの?」
「そうならないように、みんなでなんとかするんだよ。間に合わないときはこっそり時間を戻すこともある。内緒だよ」
 サンタさんは人差し指を口の前で立て、片目をつぶって見せました。
「こんなこともあった」
 サンタさんの示した次の記事にはこうありました。
『クリスマスツリーの飾りつけ担当サンタが、飾りつけのし過ぎで木の枝が折れる』
「そんなにたくさん飾りがあるんだね」
「そうだとも。しかし重さを見誤るとこうなってしまうからね。なんでもやり過ぎはよくないな」
 今度は男の子が記事を指さしました。
『地図作り担当サンタが、コンパスをうっかり壊してしまい、位置がずれてしまった』
「コンパスが必要なの?」
「サンタの地図は特殊でね。地図にサンタ専用のコンパスをはめ込んで使うんだ。だからコンパスが壊れると別のところに着いてしまうんだよ」
「そうなんだ。大変なんだね、サンタさんも」
 男の子はその隣の記事を指さしました。
「これはどういうこと?」
『トナカイがお酒で大騒ぎ』
「トナカイにお酒を飲ませてはいけないんだがね、うっかり飲ませてしまったんだ。そうしたら暴れてしまってね。それはもう大変だった」
「それでどうなったの?」
「どうしようもなくてね。みんなで気を付けながらトナカイを自由にさせて、暫く見守っていたよ。そうしたらちゃんと大人しくなった」
「誰も怪我しなかった?」
「ああ、大丈夫だったよ」
 いろいろな話を聞いて、男の子は大満足でした。
「そろそろ帰らなきゃ。この新聞もらってもいい? パパに見せるんだ」
「もちろんだとも」
「サンタさんたちも、今度電車に乗ってぼくたちのところにおいでよ」
「いつでも自由に行けるわけじゃないんだ。サンタの掟があってね」
「じゃあ、パパを連れてくればいい?」
「そうだな。来られるかどうかはわからないが」
「電車に乗って三番目の駅で降りればいいんでしょ」
「それでもこちらに入れる人と入れない人がいるんだ」
「そっか。パパが来れなかったらどうしよう。あ、電話は出来るかな。借りてもいい?」
「いいとも」
 サンタさんのデスクにあった電話を借りて、パパの携帯電話にかけてみると繋がりました。
「パパ、今ぼくサンタさんと一緒にいるんだよ。サンタさんの街があるんだ。パパも取材に来ていいって」
「そうか。サンタの街とは初耳だ。今はちょっと忙しいから帰ったら話をきかせてくれ」
「わかった」
 電話を切ると、男の子はサンタさんを振り返りました。
「パパにここのこと教えてあげて、今度また一緒に来るね」
「ああ、待ってるよ」

 無事に帰ってきた男の子は、持って来たサンタ新聞をパパに見せました。パパは驚きましたが、とても喜んでくれました。
「パパも一緒に行こうよ」
 後日、パパは息子と共に電車に乗りました。三駅目で降りると景色が一変し、目を見開いていました。
「こりゃ驚いた」
「良かった。きっと歓迎されたってことだよ。入れない人もいるっていってたから」
 男の子はパパを連れ、この前行ったサンタ新聞社を訪れました。
「やあやあ、君か。この前迷い込んだ子だね」
「今日はパパも連れて来たんだ」
「おお、そうか。こっちに入れたんだな」
 最初こそ驚いていたパパでしたが、サンタさんと握手をし、話しているうちに次第に慣れたようでした。パパとサンタさんがお話している間、男の子は暇だったのでサンタ新聞を読んでいました。そこには落としたプレゼントが見つかった記事や、プレゼントをもらって喜んでいる人の写真もありました。ケーキのレシピコーナーもあれば、何かのイベントで優勝したトナカイの特集もありました。『今年一番喜ばれるプレゼントランキング』には、世代別、地域別など細かく分かれたアンケート結果が載っていました。
 互いの取材が終わったのか、パパとサンタさんが椅子から立ち上がりました。
「いやあ、まさかサンタの街があって、サンタ新聞社があるとは知らなかった」
「知っている人間もいるにはいるんだが、こちらに入れる人間は限られていてね」
「そうなのか。何故私は入れたのだろう」
「息子さんの純粋さが影響しているのではないかな」
「きっとそうだ」
 パパは男の子の頭を撫でました。
「サンタの街のことは書いてもいいのかな」
「ああ、書いてくれ。こちらでも人間界の特集が組めそうで助かるよ。我々は自由に人間界に行き来してはいけないから、誰か来てくれる人はいないかと思っていたんだよ」
「そうなのか。私で良ければいつでも力になるよ」
 男の子はパパと共にサンタさんに別れを告げ、電車に乗りました。

 やがて両方の世界で新聞が配られました。違う世界の日常はそれだけで刺激的です。どちらの世界でも新聞はとても好評でした。
 そして記事を読んだ人たちが、ちらほらとサンタの街と人間界を出入りするようになり、新聞にはそんな彼らの体験談が定期的に掲載されるようになりました。
 男の子のちょっとした思いつきで、二つの世界が今、少しずつ繋がり始めています。

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