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アイにまつわるエトセトラ

「あ、あい、、、」


「アイカワ!これなら、いける」




小学5年の、授業中。
夢見がちだった私の、妄想タイム。



思いつきを、窓の外に飛ばす。
細く長く、ゆっくりと息を吹きこんだシャボン玉みたいに。


いつもの妄想なら、地面に吸い込まれていったり
ぼんっとはじけたりするってのに。



その日のひらめきは、ふわんと風に乗って。
愛川欽也さんの笑顔が上空へ。




やっぱ、名案やん。

脳内パラダイスを、バスッと切り裂くチャイム。


胸に刻まれた、願い。


きっと忘れない。




私の出席番号は、真ん中より後ろだった。


健康診断は決まって、名字のあいうえお順。私が小学生だったころは、学校で注射もあった。
背の順なら前のほうだったのに。



終わった人から教室に戻れる。
私は、保健室の前で長々と待たされる。


最後の最後ではなかったけど。
生まれつきの名字で決められた順番が、どうにも気に入らなかった。



私の名字じゃ、絶対に早く戻れない。


「どうして私はあ行じゃないんだろ……」って、あ行のクラスメイトに嫉妬してた。


そこで、さっきの話よ。


「あいうえお順の早い人と結婚して、私の名字を変えればいい!」って。


アイカワさんなら、1番狙えるんじゃない?




時は変わり、高校時代のバイト先。


「アイちゃん」と皆から親しげに呼ばれる、タレ目の王子様にめぐりあう。


残念ながら、「アイちゃん」の名字はアイカワではない。それどころか「アイ」から始まらない。
あいうえお順でいうと、私の名字よりはちょっと早い出席番号になれる位。



好きというよりは、憧れの存在。
どんくさい私を優しくフォローしてくれる先輩。
彼とお付き合いだなんて、とても考えられない……


ただただ、背が高く、日焼けした肌がまぶしい小顔のアイちゃんを思い浮かべては、にやにやと妄想日記を書いていたっけ。






ある日、アイちゃんがめずらしく仕事でミスをした。
肩を落として、こっちに向かってくる。



「ドンマイです」って、言いたい。


近づいてくる。


……すれ違った。無言で。


「言えなかった」



勇気が足りなくて。
たくさん受けた優しさを返したかったのに。




あれから30年以上過ぎて。


この度、「アイちゃん」のフルネームを思い出した私。

名前を、インターネット検索してみた。


とある記事とともに、写真がでてきた。


年を経たのはお互い様だけれど。


アイカワらずの、優しげなeye。


変わらない!


本人を目の前にして「アイちゃん」なんて呼べなかった。妄想日記の中でだけ。


何を打ち明けるでもアピールするでもなく、バイト先が閉鎖してそれきりだけど、いい思い出。



もう検索しません。
陰ながら、ご活躍を祈ります!



結婚して、名字が変わった私。



夫は「アイちゃん」じゃない。
会社員時代に一目惚れした、タレ目だけど別の人。
アイカワさんでもない。



けれど。
あいうえお順では、わりと前の方になった。



昔の私、見てる?
でも大人の世界じゃ、恩恵はないかも。





そういえば!


子供たち。
出席番号が前のほうだ。




長男(小学高学年)に、期待をこめて聞いた。



「ねぇ、出席番号前のほうだよね、よかった?」





「どっちでもいい」


あぁ。



ゲームにいそしむ次男(小学1年生)にも一応聞いてみた。



「わかんない」


そうよね。




かつての私が、のどから手が出るほど欲しかった、早い出席番号を手にしている子供たち。



持ってる者はありがたみに気づかないのか。
それとも、心底どうでもいいのか。



思い返せば、学生時代に「出席番号が遅くて嫌だ」という話題が出たことはない。




みんな、受け入れているの?
小5の私って、未だに覚えてる私って、一体?!




「それより、今日の晩御飯なに?」


つれない愛の結晶たち。



でも、優しくするからね。


また公園で、シャボン玉とばそうね。


たくさんのアイをこめて。



(1500文字)


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