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「ベランダの猫」第2話

飼い猫の家出

時々、飼い猫が外に出たがるから私は協力して窓を開けるけど、彼はこのことを知らないだろうな。私は小さな悪事に加担しているような気がしたけど、猫は犬みたいに散歩しないし、たまには外気を浴びることも健康に必要だろうと思うことにした。

出掛けていった猫を見送って、誰もいない室内を見た。
もし飼い猫と外見が同じだったら、どさくさに紛れて入れ替わってやるところだ。


昼寝して、起きたら夕方だった。室内を見ると彼が帰ってきている。

あれ、飼い猫の気配がないな。

飼い猫はいつもならちゃんと夕方には帰ってきてベッドでくつろいでるのに、まだ帰っていないようだ。
彼は心配そうにベランダを見つめ、私に気づいて何か言った後、少し残念そうな顔をした。
私は少し考えて、私が飼い猫じゃなくてがっかりしてることに気が付いた。
彼につられて、私の耳もひしゃげた。

なぜ私が落ち込まなきゃいけないんだ?
もう、私を飼えばいいじゃないか。
あいつ早く帰ってこいよ!
どうせ大した用事もないくせに。
でも、まさか逃げたりしてないよな?

私がムカついたり不安になったりして爪で地面をガリガリしていると、彼がまた私を見て、今度はベランダの窓を開けた。
私は怒られるって思って、いつでも去れるように姿勢を低くしたけど、彼は「おいで」と言った。

彼が私を呼んだ!
私はその瞬間、ひしゃげていた耳がピンと立ち
猫であることを忘れた犬のようなスピードで彼に駆け寄った。
彼は飼い猫にたまにやる上等そうなエサを持って「よしよし、美味しいやつあげるからなー」と言いながらそのチューブを絞り出す。

あ!
これ食べてみたかったやつ。

飼い猫がこれを出されたとき、いつもの餌とはまるで反応が違うのを見て、気になっていた。
私はそれを出されるがまま、一生懸命に食べた。
おいしいのはもちろんのこと、彼が構ってくれているので、私はにゃあにゃあ鳴いて喜んでしまった。
かわいいと思ってもらえたら飼ってもらえるかも、という淡い期待を膨らませながら、猫らしくすりすりと頬を寄せた。すると彼は私を撫でながら言った。

「探してきてくれない?うちのミケ。全然見つからなくてさぁ」

あぁ、にゃるほど。
交換条件か、と思いながら撫でられる喉をごろごろ言わせた私は、仕方なく彼から離れた。
彼は「頼んだよ、って言っても分かんないよなぁ」と言って何も期待していない様子だったが、私は「にゃあ」と叫び、気合十分にベランダを飛び出した。

猫のいそうなところ、マンションの塀の下、駐輪場、駐車場にあるすべての車の下を見たけどいなかった。

うん、こんなところにいるぐらいなら部屋に帰るよな。
じゃあ少し遠出しているのかもしれない。

私は公園の方向に走る。
夜でも探すことができるのは猫だからだ。
自分が猫でよかったと思った。
でも一向に飼い猫の気配がない。


猫1「おーい、こんな夜中に珍しいな。ベランダの見張りは良いのか?」
知り合いの黒猫が2匹、話しかけてきた。私たち黒猫はすっかり闇に溶け込んでいながら互いを認識できる。
目だけが暗闇に光っていた。

「飼い猫がいなくなって、彼が困ってるんだ」
猫2「あれ?お前、なんか美味しそうな匂いがするな」
黒猫が何かに勘づいて、私の口を舐めてきた。
猫2「うま!お前の口、美味しいぞ!」
目をまん丸に光らせて、べろべろと口を舐めてきた。
「やめろ。そんなことより、見てない?あの猫」

猫1「さぁ。皆、夜は活発だからね。いろんなのが走り回ってるよ」
「そうか...」
猫1「逃げたんじゃない?」
「まさか、あんな幸せな場所から?」
猫1「幸せかどうかは分からんだろ」

たしかに、と思った。
飼い猫は彼に対して不満がある。

彼は彼女がいない時は甘えてくるのに、彼女ができたら飼い猫を放置しがちになる。
最近は特にそうだったかもしれない。

そもそも飼い猫は彼の元カノが勝手に買ってきた猫で、名前をつける前に別れてしまった。
名前は彼の友人が適当に「ミケ」と呼んだのがきっかけで、勝手に定着してるってことにされて本当にミケになってしまったという、悲しい由来がある。

しかも、飼い猫は今の家を気に入っているのに、彼は最近できた彼女のために引っ越すかもしれないという。それに関しては私も不安だ。

こう考えてみると、彼も彼だな。


それでも、彼に頼まれちゃったし、美味しい餌も食べちゃったしな。
猫1「まぁ、適当に探してみるよ」
「本当か、ありがとう」

走り回って、気付いたら朝方になっていた。
少し空が明るくなり始めている。

猫1「探したけど、いなかったな」
現場には数匹の猫がかけつけて、報告してくれた。
手分けして探してくれていたようだ。

「ありがとう、すまんな...」
猫1「もう家に帰ってるかもしれないぞ。一度戻ってみたら?」

収穫なしで戻るのは気が引ける。
使えない猫だと思われたくない、と思うと二の足を踏んだ。
私が動かないでいると、黒猫が言った。
猫1「あいつのことだ。もう戻って呑気に寝てるかもしれない」
「そうだといいな」
私たちはマンションの下まで来ていた。
黒猫たちに見守られる中、べランダに戻る。
家の中をおそるおそる覗くと...



「なんだ、戻ってたー!」
マンションの下にいるみんなに向かって、にゃー!と叫んだ。

「よかったね」
「みんな、ありがとう」
「じゃあなー」

飼い猫はとっくに戻っていたらしく、彼と一緒に毛布にくるまって眠っている。
二人の寝顔に、私はほっとした。
まったく、人騒がせなやつだなぁ。私は深く伸びをした。
少し明るくなってきた空を見上げると、まだ仄かに浮かぶ月と星を見つけられた。
今きっと、彼は安心して夢の中にいるんだ。そう思うと嬉しかった。
寒いなぁと思いながら、少し震えている室外機の上で私も眠った。


第3話 : https://note.com/sumire0/n/na28bc41fbad6

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