源氏物語(五帖〜八帖)|紫式部|※ネタバレ注意※
五帖:若紫
五の一:源氏と若紫の出会い
源氏は瘧病に悩まされ、様々な加持祈祷も効果なく苦しんでいた。ある人の勧めで北山の寺にいる修験者を訪ねることにした。源氏は三月三十日の明け方、親しい家司数人を伴い、微行で北山へ向かった。都の桜はすでに散っていたが、山路の花はまだ盛りで、源氏は珍しい山歩きに心を奪われた。
寺で加持を受けている間に日が高くなり、源氏は周囲を散策した。そこで彼は、美しく整えられた僧坊を見つける。それは某僧都が引きこもっている場所だと知らされる。源氏がその庭を覗き込むと、美しい少女の姿が目に入った。源氏は、その少女が故按察使大納言の孫娘であると知り、深く心を惹かれる。
少女の面影が藤壺の宮に似ていることに気づいた源氏は、強い関心を抱く。彼は僧都を通じて尼君に手紙を送り、将来の縁談を持ちかける。しかし尼君は、孫娘がまだ幼すぎることを理由に難色を示す。源氏は諦めきれず、何度も手紙を送り続けるが、尼君の態度は変わらなかった。
```mermaid
graph LR
A[光源氏] -->|恋慕| B[藤壺の宮]
A -->|誘拐・養育| C[若紫]
B -->|叔母| D[兵部卿宮]
D -->|父| C
E[尼君] -->|祖母| C
F[少納言] -->|乳母| C
G[左大臣] -->|父| H[葵の上]
A -->|正妻| H
I[僧都] -->|弟| E
J[按察使大納言] -->|父| K[若紫の母]
K -->|母| C
A -->|恋慕| B
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class A main;
class B,D,H royal;
class C,K noble;
class E,F,G servant;
class I religious;
```五の二:源氏の恋煩い
源氏は藤壺の宮への思いに苦しみながらも、若紫への興味を失わなかった。彼は藤壺の宮との稀な逢瀬を重ねるうち、宮が懐妊の兆しを見せ始めたことに気づく。宮自身も、過去の過ちが繰り返されることを恐れ、深く悩んでいた。
源氏は不思議な夢を見て、夢占いを依頼する。占い師は吉兆を告げるが、その真意を完全には理解できない。やがて藤壺の宮の懐妊が明らかになると、源氏はますます逢瀬を求めるようになる。しかし、周囲の警戒が厳しくなり、以前のように会うことは叶わなくなっていった。
この間も源氏は若紫のことを忘れず、時折使いを送って様子を伺っていた。彼の心は藤壺の宮への思いと若紫への興味の間で揺れ動いていた。源氏は、若紫が藤壺の宮の血縁であることを知り、そのつながりに運命的なものを感じていた。
五の三:若紫の境遇の変化
秋になり、若紫の祖母である尼君が重病に陥る。源氏はこれを知り、見舞いに訪れる。彼は再び若紫への思いを語るが、尼君は依然として難色を示す。尼君は孫娘の将来を案じ、適当な縁談が見つかるまでは、軽々しく誰かに託すことはできないと考えていた。
やがて尼君は亡くなり、若紫は父である兵部卿の宮の元に引き取られることが決まる。源氏はこの知らせを聞き、若紫が宮家に移れば、自分との縁が遠のくのではないかと危惧する。彼は、この機会を逃せば二度と若紫を手に入れることはできないと考え、彼女を自邸に連れ去ることを決意する。
源氏は若紫の無邪気さと、藤壺の宮に似た面影に惹かれていた。彼は、若紫を自ら育て上げることで、理想の女性に仕立てられると考えていた。しかし、その行動が世間にどう映るかも懸念していた。
五の四:源氏による若紫の誘拐
源氏は早朝、わずかな従者を連れて若紫の邸を訪れる。彼は突然の来訪で邸の人々を驚かせ、まだ眠っていた若紫を抱き上げて連れ出す。少納言の乳母は困惑しながらも、源氏の強引な態度に抗うことができず、同行することになる。
二条院に到着した源氏は、若紫を西の対に住まわせる。彼は自ら若紫の世話を焼き、絵や遊び道具を用意して彼女の機嫌を取ろうとする。若紫は最初こそ戸惑い、泣いて抵抗するものの、次第に源氏の優しさに慣れていく。
源氏は若紫に手習いを教えたり、雛遊びをしたりして、彼女との絆を深めていった。彼は若紫の無邪気な反応や仕草に心を奪われ、彼女との時間を過ごすことが、自身の悩みを忘れさせてくれる唯一の慰めとなっていった。
五の五:兵部卿の宮の反応
兵部卿の宮は、約束の日に若紫を迎えに行くも、彼女の姿はなく、失踪したと告げられる。宮は困惑し、深く悲しむ。邸の女房たちは真相を知りながらも、源氏の指示により秘密を守り通す。
宮は様々な場所を探し、僧都の所にまで使いを送るが、若紫の行方を突き止めることはできなかった。宮は美しかった若紫の面影を思い出しては嘆き悲しんだ。
宮の妻も、若紫を我が子として育てる夢が破れたことを残念に思った。彼女は以前、若紫の母を妬んでいたが、時が経つにつれてその気持ちは薄れ、若紫を愛おしく思うようになっていた。突然の別れに、彼女もまた悲しみに暮れた。
五の六:二条院での生活
二条院の西の対には、若紫のための女房たちが集められた。源氏は若紫の教育に熱心に取り組み、手習いや遊びを通じて彼女との絆を深めていった。彼は若紫の字の上達ぶりを見て喜び、将来の成長を楽しみにしていた。
若紫も次第に祖母や父を思い出すことが少なくなり、源氏を第二の父のように慕うようになる。彼女は源氏の帰りを心待ちにし、彼が戻ると無邪気に甘えた。源氏はそんな若紫の姿に心を癒されていった。
二条院の美しい庭や、源氏が用意した様々な遊び道具に囲まれ、若紫は新しい環境に馴染んでいった。彼女の周りには同年代の遊び相手もおり、寂しさを感じることはほとんどなくなっていった。
五の七:源氏の心境
源氏は若紫との関係に新たな喜びを見出していた。大人の女性との恋愛関係に伴う複雑さや不安定さとは異なり、若紫との交流は純粋で心安らぐものだった。彼は若紫の無邪気な反応や、日々成長していく姿に心を奪われていった。
源氏は、この独特な関係性が他に例を見ないものであると感じていた。父娘のような関係でありながら、将来の妻としての期待も込められた複雑な感情が、源氏の心の中で交錯していた。
彼は若紫の成長を見守りながら、自分の理想とする女性に育て上げることを夢見ていた。同時に、この関係が世間にどう映るかという不安も抱えていたが、若紫との時間はそうした煩悶をも忘れさせてくれるものだった。
六帖:末摘花
六の一:源氏の恋の遍歴と常陸宮の姫君
源氏の君は夕顔を失った悲しみを、月日が経っても忘れることができずにいた。左大臣家の夫人も、六条の御息所も、強い思い上がりと源氏の他の愛人を寛大に許すことのできない気むずかしさがあって、扱いにくいことによっても、源氏はあの気楽な自由な気持ちを与えてくれた夕顔ばかりが追慕されるのであった。
源氏は、どうかして身分のない女で、可憐で、そして世間的にあまり恥ずかしくもないような恋人を見つけたいと思っていた。少しよいらしく言われる女にはすぐに源氏の好奇心は向いた。しかし、接近してみると、多くの女性は簡単に好意を示し、源氏はかえって失望を覚えた。
ある時、左衛門の乳母の娘である大輔の命婦から、常陸の太守であった親王の姫君の話を聞く。気の毒に思った源氏は、その人のことを詳しく尋ねた。命婦は姫君について、内気でおとなしく、琴が親友のようだと話す。源氏は興味を持ち、姫君の琴の音を聞きたいと言い出す。
十六夜の月の朧ろに霞んだ夜に、源氏は命婦を訪れ、姫君の琴の音を聞くために常陸宮へ向かう。源氏は邸の荒れ果てた様子に驚きながらも、姫君の琴の音に耳を傾ける。たいした深い芸ではないが、琴の音というものは他の楽器の持たない異国風な声であったから、源氏は聞きにくくは思わなかった。
```mermaid
graph LR
A[光源氏] -->|恋慕| B(末摘花)
A -->|恋慕| C(夕顔)
A -->|養育| D(若紫)
A -->|恋愛関係| E(左大臣家の夫人)
A -->|恋愛関係| F(六条御息所)
G[頭中将] -->|友人/ライバル| A
G -->|関心| B
H[大輔の命婦] -->|仲介| A
H -->|仲介| B
I[常陸宮] -->|父| B
J[侍従] -->|世話| B
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class A main;
class B,C,D,E,F lady;
class G noble;
class H,I,J servant;
```六の二:源氏と常陸宮の姫君の出会い
源氏は姫君との初めての対面に期待を抱いていたが、姫君は極度に内気で、ほとんど言葉を交わすことができなかった。源氏は、寂しい境遇に置かれた姫君に同情を覚えながらも、その態度に戸惑いを感じていた。
翌朝、雪景色の中で源氏は姫君の姿を垣間見る機会を得た。しかし、その容貌に源氏は愕然とする。姫君は並外れて長い顔をしており、高く長い鼻は先のほうが下に垂れ、その先端だけが赤かった。顔色は雪以上に白くて青みがあり、額は腫れたように高かった。痩せぎすな体つきで、肩のあたりは痛かろうと思われるほど骨が着物を持ち上げていた。
源氏は姫君の容貌に失望しながらも、その境遇を哀れに思い、良人としての務めを果たそうと決意する。黒貂の毛皮でない絹、綾、綿、老いた女たちの着料になる物、門番の老人に与える物までも贈るようになった。源氏は姫君を「末摘花」と呼ぶようになり、生活費なども与えるようになる。
源氏は、灯影で見た空蝉の横顔が美しいものではなかったが、姿態の優美さは十分の魅力があったことを思い出す。常陸の宮の姫君はそれより品の悪いはずもない身分の人ではないかと思うと、上品であるということは身柄によらぬことがわかると感じた。
六の三:末摘花との関係の進展
年末になり、末摘花から源氏へ贈り物が届く。命婦を通じて届けられた手紙と衣裳箱に、源氏は戸惑いを隠せなかった。手紙には拙い歌が書かれており、衣裳箱には臙脂の直衣が入っていた。源氏は返事を書くものの、その内容に困惑している様子だった。
正月が過ぎ、源氏は再び末摘花を訪れる。七日の白馬の節会が済んでから、お常御殿を下がって、桐壺で泊まるふうを見せながら夜がふけてから末摘花の所へ来たのである。これまでに変わってこの家が普通の家らしくなっていた。女王の姿も少し女らしいところができたように思われた。
源氏は、すっかり見違えるほどの人にできればどんなに犠牲の払いがいがあるであろうかと思いながら、翌朝まで滞在する。朝日が差し込む中、源氏は末摘花の姿を再び見ることになる。髪の美しさは認めるものの、赤い鼻が目立つ様子に、源氏は再び失望を感じる。
源氏は末摘花に声を聞かせてほしいと頼むが、末摘花はわずかに「さへづる春は」と小声で言うだけだった。源氏は苦笑しながらも、二年越しにやっと言葉を聞けたことに満足げな様子を見せる。
六の四:若紫との対比
二条院に戻った源氏は、若紫の愛らしさに心惹かれる。半分だけ大人のような姿の若紫は、無地の桜色の細長を柔らかに着こなし、無邪気な身のこなしが美しくかわいらしかった。源氏は末摘花との対比を強く感じ、自身の女性関係について思いを巡らせる。
源氏は若紫と雛遊びをしながら、絵を描いて過ごす。源氏は鏡に映る自分の顔に赤い鼻を描いてみる。若紫がそれを心配そうに拭おうとする様子に、二人の若々しさと美しさが際立つ。源氏は冗談めかして、このまま赤い鼻が取れなかったらどうしようかと言い、若紫を楽しませる。
最後に、源氏は庭に咲く梅の花を見て、末摘花のことを思い出す。緑の階隠しのそばの紅梅はことに早く咲く木であったから、枝がもう真赤に見えた。源氏は赤い色の持つ意味を感じながら、「くれなゐの花ぞあやなく疎まるる梅の立枝はなつかしけれど」と詠む。そして、末摘花と若紫の今後について考えを巡らせるのだった。
七帖:紅葉賀
七の一:新皇子誕生と源氏の葛藤
藤壺の宮が皇子をお産みになったのは二月の十幾日のことであった。帝は新しい皇子を非常に御覧になりたがっておいでになった。源氏は人知れぬ父性愛の火に心を燃やしながら、伺候者の少ない隙をうかがって参上した。宮は若宮のお顔が驚くほど源氏に生き写しであることを苦痛に思っておいでになった。
帝は新皇子を抱いておいでになって、源氏の中将が音楽の遊びなどに参会している時などに、「私は子供がたくさんあるが、おまえだけをこんなに小さい時から毎日見た。だから同じように思うのかよく似た気がする」とお言いになった。源氏は顔の色も変わる気がしておそろしくも、もったいなくも、うれしくも、身にしむようにもいろいろに思って涙がこぼれそうだった。
宮はあまりの片腹痛さに汗を流しておいでになった。源氏は若宮を見て、また予期しない父性愛の心を乱すもののあるのに気がついて退出してしまった。源氏は稀に都合よく王命婦が呼び出された時には、いろいろと言葉を尽くして宮にお逢いさせてくれと頼むのであるが、今はもう何のかいもなかった。
```mermaid
graph LR
A[光源氏]
B[藤壺]
C[帝]
D[若宮]
E[紫の上]
F[頭中将]
G[左大臣]
H[左大臣の娘]
I[典侍]
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style B fill:#BAFFC9,stroke:#333,stroke-width:2px,color:black
style C fill:#BAE1FF,stroke:#333,stroke-width:2px,color:black
style D fill:#FFFFBA,stroke:#333,stroke-width:2px,color:black
style E fill:#FFDFBA,stroke:#333,stroke-width:2px,color:black
style F fill:#C9BAFF,stroke:#333,stroke-width:2px,color:black
style G fill:#FFE4E1,stroke:#333,stroke-width:2px,color:black
style H fill:#E6E6FA,stroke:#333,stroke-width:2px,color:black
style I fill:#F0FFF0,stroke:#333,stroke-width:2px,color:black
C -->|父| A
C -->|寵愛| B
B -->|密通| A
B -->|母| D
A -->|父| D
A -->|養育| E
G -->|父| H
G -->|父| F
A -->|妻| H
A -->|情事| I
F -->|情事| I
F -.->|ライバル| A
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class A main;
class B,D,E,H lady;
class C,G,F noble;
class I servant;
```七の二:紫の上の成長と源氏の愛情
源氏は二条の院の東の対に帰って、苦しい胸を休めてから後刻になって左大臣家へ行こうと思っていた。じっと物思いをしながら寝ていることは堪えがたい気がして、例の慰め場所西の対へ行って見た。紫の女王はさっきの撫子が露にぬれたような可憐なふうで横になっていた。非常に美しい。
源氏は琴を女房に出させて紫の君に弾かせようとした。小さい人が左手を伸ばして絃をおさえる手つきを源氏はかわいく思って、自身は笛を吹きながら教えていた。頭がよくてむずかしい調子などもほんの一度くらいで習い取った。何ごとにも貴女らしい素質の見えるのに源氏は満足していた。
灯を点させてから絵などをいっしょに見ていたが、さっき源氏はここへ来る前に出かける用意を命じてあったから、供をする侍たちが促すように御簾の外から、「雨が降りそうでございます」などと言うのを聞くと、紫の君はいつものように心細くなってめいり込んでいった。源氏は女王を起こして、「もう行かないことにしましたよ」と言うと慰んで起きた。
七の三:源氏と典侍の不釣り合いな関係
よほど年のいった典侍で、いい家の出でもあり、才女でもあって、世間からは相当にえらく思われていながら、多情な性質であってその点では人を顰蹙させている女があった。源氏はなぜこう年がいっても浮気がやめられないのであろうと不思議な気がして、恋の戯談を言いかけてみると、不似合いにも思わず相手になってきた。
ある夏の夜、源氏は温明殿あたりを歩いていると、典侍はそこの一室で琵琶を上手に弾いていた。源氏は御簾ぎわに寄って催馬楽の東屋を歌っていると、「押し開いて来ませ」という所を同音で添えた。源氏は勝手の違う気がした。自分だけを対象としているのではなかろうが、どうしてそんなに人が待たれるのであろうと源氏は思った。
源氏は女と朗らかに戯談などを言い合っているうちに、こうした境地も悪くない気がしてきた。しかし、頭中将がこの関係を知り、源氏を困惑させようと企んでいることは知る由もなかった。
七の四:源氏と頭中将の競争心
源氏と頭中将は互いに競争心を抱いていた。頭中将は源氏の隠し事はたいてい正確に察して知っている自分も、まだそれだけは気がつかなんだと思うとともに、自身の好奇心も起こってきて、まんまと好色な源典侍の情人の一人になった。
ある夜、頭中将は源氏と典侍の密会を偶然目撃した。頭中将はうれしくて、こんな機会に少し威嚇して、源氏を困惑させて懲りたと言わせたいと思った。源氏と頭中将は互いに相手の正体を知りながら、引き合ったり、冗談を言い合ったりした。
翌日、殿上の詰め所で二人は取り澄ました顔をしていたが、どうかした拍子に目が合うと互いにほほえまれるのである。だれもいぬ時に中将がそばへ寄って来て言った。「隠し事には懲りたでしょう」と尻目で見ている。優越感があるようである。源氏は「なあに、それよりもせっかく来ながら無駄だった人が気の毒だ。まったくは君やっかいな女だね」と返した。
七の五:藤壺の中宮昇進と源氏の想い
この七月に皇后の冊立があるはずであった。源氏は中将から参議に上った。帝が近く譲位をあそばしたい思召しがあって、藤壺の宮のお生みになった若宮を東宮にしたくお思いになったが将来御後援をするのに適当な人がない。そこで、藤壺の宮を中宮に擬しておいでになった。
儀式のあとで御所へおはいりになる新しい中宮のお供を源氏の君もした。后と一口に申し上げても、この方の御身分は后腹の内親王であった。全い宝玉のように輝やくお后と見られたのである。道理のほかまでの好意を持った源氏は、御輿の中の恋しいお姿を想像して、いよいよ遠いはるかな、手の届きがたいお方になっておしまいになったと心に歎かれた。
若宮のお顔は御生育あそばすにつれてますます源氏に似ておいきになった。だれもそうした秘密に気のつく者はないようである。何をどう作り変えても源氏と同じ美貌を見うることはないわけであるが、この二人の皇子は月と日が同じ形で空にかかっているように似ておいでになると世人も思った。
八帖:花宴
八の一:桜の宴と源氏の活躍
二月下旬、紫宸殿で桜の宴が開かれた。中宮と皇太子の御見物の間が設けられ、弘徽殿の女御も東宮席で陪観していた。青空の下、詩作が行われ、源氏は春の韻字を賜り、その声量で人々を圧倒した。頭中将も続いたが、他の人々は臆して声も態度もものにならなかった。
帝と東宮が優れた詩の作家であり批評家であったため、多くの人々は恥ずかしさを覚えた。音楽も特に優れた人々が選ばれ、春鶯囀の舞が美しく舞われた。源氏は東宮の要請で春鶯囀の一節を舞い、その巧みさは誰もが及ばないものだった。頭中将も柳花苑を舞い、御衣を賜るという珍しい光栄に浴した。
```mermaid
graph LR
A[光源氏] -->|息子| B[皇太子]
C[桐壺帝] -->|父| A
C -->|父| D[藤壺中宮]
E[左大臣] -->|父| F[葵の上]
A -->|夫| F
G[右大臣] -->|父| H[弘徽殿女御]
G -->|父| I[有明の君]
J[頭中将] -->|友人| A
K[若紫] -->|養女| A
A -->|思慕| D
A -->|密会| I
H -->|敵対| A
style A fill:#FFB3BA,stroke:#333,stroke-width:2px,color:#000
style B fill:#BAFFC9,stroke:#333,stroke-width:2px,color:#000
style C fill:#BAE1FF,stroke:#333,stroke-width:2px,color:#000
style D fill:#FFFFBA,stroke:#333,stroke-width:2px,color:#000
style E fill:#FFD9BA,stroke:#333,stroke-width:2px,color:#000
style F fill:#FFDFBA,stroke:#333,stroke-width:2px,color:#000
style G fill:#BAFFC9,stroke:#333,stroke-width:2px,color:#000
style H fill:#FFB3BA,stroke:#333,stroke-width:2px,color:#000
style I fill:#FFFFBA,stroke:#333,stroke-width:2px,color:#000
style J fill:#D0D0D0,stroke:#333,stroke-width:2px,color:#000
style K fill:#FFDFBA,stroke:#333,stroke-width:2px,color:#000
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classDef lady fill:#FF69B4,stroke:#333,stroke-width:2px,color:#000;
classDef servant fill:#90ee90,stroke:#333,stroke-width:2px,color:#000;
class A main;
class B,D,F,H,I,K lady;
class C,E,G noble;
class J servant;
```八の二:源氏の密会
宴が終わり、月が昇った夜、酔った源氏は中宮への接近を試みたが果たせず、弘徽殿の細殿へと向かった。そこで若く貴女らしい声で歌う人を見つけ、突然袖をとらえた。女は驚いたが、源氏と知ると少し落ち着いた。二人は親密になり、夜明け近くになって別れを惜しんだ。
源氏は女の正体を知りたがったが、女は明かさず、ただ扇を取り替えただけだった。源氏は女の美しさに心を奪われ、右大臣の娘のうちの誰かではないかと推測した。
八の三:源氏の煩悶と左大臣家訪問
源氏は密会した女の正体が気になりつつも、二条院の少女のことも気がかりだった。左大臣家を訪れた源氏は、夫人との関係に寂しさを感じながら琴を弾いていた。左大臣は花の宴の素晴らしさを語り、源氏の才能を称賛した。
一方、密会した女(有明の君)は、その夜のことを思い悩んでいた。東宮の後宮入りが決まっていることが苦悶の原因だった。源氏も女の正体がわからないまま、弘徽殿の一族に関わることへの躊躇いから煩悶を重ねていた。
八の四:右大臣邸の催し
三月下旬、右大臣は自邸で弓の勝負と藤花の宴を催した。源氏の不在を残念に思った右大臣は、使者を送って招いた。帝の許可を得た源氏は、美しく装って遅れて参加した。その姿は桜の美しさをも凌ぐほどだった。
八の五:源氏の好奇心
酒に酔った源氏は、中央の寝殿にいる女一の宮と女三の宮の居所に近づいた。そこには多くの女房たちがいて、源氏はその様子を見て藤壺のことを懐かしく思い出した。源氏は酔いを装いながら、妻戸の御簾の下から顔を覗かせた。
八の六:源氏と有明の君の再会
源氏は女房たちの中に密会した女がいないかと探った。ついに、あの夜と同じ声の女を見つけ、手を取って歌を詠みかけた。女も歌で返した。源氏はその声が弘徽殿の月夜に聞いたものと同じだと確信し、喜びを抑えきれなかった。
