源氏物語(三十一帖〜三十三帖)|紫式部|※ネタバレ注意※
三十一帖 真木柱
三十一の一:大将の嫉妬と玉鬘の宮仕え
源氏は、大将が玉鬘を自分から引き離すことになったのを無情に感じていた。これほどはっきりと玉鬘を自分から引き放すとは思わずにいたため、人聞きも不体裁に思われ、自身のためにも残念であった。源氏は日夜玉鬘の面影を見て、恋しくてならなかった。宿縁は無視できないものの、自身の思いやりのあり過ぎたことからこうした苦しみを買うことになったのだと感じていた。
風流気の少ない大将と玉鬘が過ごすことを思うと、源氏は手紙で気持ちを伝えたくなったが、人目を引くことを恐れて躊躇していた。ある雨の降る静かな日、源氏は退屈な時間を紛らすことができた玉鬘との日々を思い出し、非常に恋しくなって手紙を書いた。右近の所へそっとその手紙は送られたが、怪しく思われないよう内容を抑えめにした。
玉鬘も源氏の手紙に涙し、返事を書いた。源氏はその返事を前に、涙が自分からこぼれ落ちる気がしたが、人に悪い想像をさせてはならないと思って、しいておさえていた。源氏は昔の尚侍を朱雀院の母后が厳重に監視していた時のことを思い出し、現在の苦しさがその時にもまさるものだと感じた。
一方、帝も玉鬘の美しさを忘れられずにいた。「赤裳垂れ引きいにし姿を」という古歌を口ずさみ、何通もの手紙を密かに玉鬘に送った。玉鬘は自身の運命を悲観し、こうした心の遊びも不似合いになったと感じ、帝の好意に感激したようなお返事は差し上げなかった。玉鬘は今になって源氏が清い愛で一貫してくれた親切がありがたくてならなかった。
三十一の二:源氏の恋心と大将の反応
三月になり、六条院の庭の藤や山吹が美しく夕映えの前に咲いているのを見て、源氏はまずすぐれた玉鬘の容姿が忍ばれた。源氏は東の町の西の対に来て、さらに玉鬘に似た山吹をながめようとした。竹のませ垣に自然に咲きかかるようになった山吹が感じよく思われ、源氏は歌を口ずさんだ。
こんなふうに徹底的に恋人として玉鬘を思うことはこれが初めてであった。源氏は雁の卵を籠へ入れて玉鬘へ贈り、手紙も送った。人目を引くことを恐れ、内容を唯事風に書いたが、その中に恋心を滲ませた。
大将はその手紙を見て笑いながら、女は実父の所へだって理由がなくては行って逢うことをしないものになっているのに、どうして源氏が始終逢えない逢えないと恨んでばかりよこすのだろうかと批評めいたことを言った。玉鬘はそれを憎く思い、返事を渋った。
大将が代わりに返事を書こうとしたが、玉鬘はそれを片腹痛く思った。大将の書いた返事は戯談風で、源氏はそれを見て笑ったが、心の中では玉鬘をわが物顔に言っている大将を憎んだ。
三十一の三:もとの大将夫人の境遇と玉鬘の出産
もとの大将夫人は月日のたつにしたがって憂鬱になって、放心状態でいることも多くなっていた。大将は生活費などをこまごまと行き届いた仕送りをし、子供たちをも以前と同じように大事がって育てていた。そのため、前夫人の心は良人からまったく離れず、唯一の頼みにしていた。
大将は姫君を非常に恋しがって逢いたく思うのであったが、宮家のほうでは少しもそれを許さなかった。少女の心には自身の愛する父を祖父も祖母も皆口をそろえて悪く言い、ますます逢わせてもらう可能性がなくなっていくのを心細がっていた。男の子たちは始終訪ねて来て、尚侍の様子なども話して聞かせた。
その年の十一月、玉鬘は美しい子供を産んだ。大将は何事も順調に行くと喜んで、愛妻から生まれた子供を大事にした。産屋の祝いは派手に行なわれた。内大臣も玉鬘の幸福であることに満足していた。大将の大事にする長男、二男にも今度の幼児の顔は劣っていなかった。
頭中将も兄弟としてこの尚侍をことに愛していたが、少し尚侍のその境遇を物足りなく考えていた。尚侍として君側に侍した場合を想像していて、生まれた大将の三男の美しい顔を見ても、もし皇子をお生み申し上げたらどんなに家門の名誉になることだろうかと、なおこの上のことを言って残念がった。
玉鬘は尚侍の公務を自宅で不都合なく執ることにして、もう宮中へ出ることはないだろうと見られた。それでもよいことであった。
三十一の四:近江の君の振る舞い
内大臣の令嬢で尚侍になりたがっていた近江の君は、そうした低能な人の常で、恋愛に強い好奇心を持つようになって、周囲を不安がらせていた。女御も一家の恥になるようなことを近江の君が引き起こさないかと、そのことではっとさせられることが多く、神経を悩ませていた。
ある時、女御の所へ殿上役人などがおおぜい来ていて、選りすぐったような人たちで音楽の遊びをしていた。源宰相中将も来ていて、平生と違って気軽に女房などとも話していた。その時、近江の君は女房たちの座の中を押し分けるようにして御簾の所へ出ようとした。
近江の君は源中将のきれいであることをほめて騒ぐ声が外の男の座へもよく聞こえるほどであった。さらに、高く声を張り上げて歌を詠み、源中将に呼びかけた。源中将は異様なことであると思い、考えてみるとそれは噂に聞いた令嬢であることに気づいた。
源中将は返歌をし、そんなことをしては恥知らずだと諭した。女御の所には洗練された女房たちがそろっているはずで、こうした露骨な戯れを言いかける人はないはずであった。近江の君の振る舞いは、周囲の人々を当惑させるものであった。
```mermaid
graph LR
A[源氏] -->|養女| B[玉鬘]
C[内大臣] -->|実父| B
D[右大将] -->|夫| B
A -.->|恋慕| B
E[帝] -.->|恋慕| B
F[兵部卿宮] -.->|恋慕| B
G[式部卿宮] -->|父| H[もとの大将夫人]
D -->|元妻| H
I[頭中将] -->|兄| B
J[源宰相中将] -->|兄| B
K[紫の上] -->|正妻| A
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class C,G,I,J family;
class E,F imperial;
```三十二帖 梅枝
三十二の一:裳着の式の準備
源氏は十一歳の姫君の裳着の式を盛大に準備していた。東宮の元服も近く、姫君の入内も予定されていた。一月末、源氏は薫香の調合を思い立ち、大弐から贈られた香木や昔からの香木を比較した。六条院内の夫人たちや女友達にも香の調合を依頼し、源氏自身も承和の帝の秘法で熱心に調合した。
夫婦でも香の優劣を競い合い、各所で香の調合が行われた。二月十日、雨上がりの紅梅が美しい日に、兵部卿の宮が訪れた。前斎院から届いた香を試し、源氏は自作の香も取り寄せた。宮は審判者となり、各々の香を吟味した。
三十二の二:裳着の式と東宮の元服
裳着の式は西の町で行われ、源氏夫婦と姫君は午後八時に到着した。中宮も式に参列し、多くの女房が盛装して集まった。式は十二時に始まり、中宮は姫君の美しさに感心した。源氏は中宮の若々しく愛嬌のある様子を見て、幸福を感じた。
東宮の元服は二十日過ぎに行われた。源氏は姫君を東宮に入内させる意向だったが、他の貴族たちは躊躇していた。源氏は彼らを励まし、最終的に左大臣が三女を東宮に入れることになった。源氏の姫君の入内は四月に決まり、準備が進められた。
三十二の三:源氏の書道への情熱
源氏は姫君のために手道具類を新調し、特に書道に力を入れた。古今の名筆を集め、仮名文字の進化について語った。源氏は自身も書を認め、兵部卿の宮や左衛門督にも執筆を依頼した。若い人々にも蘆手や歌絵を書かせた。
兵部卿の宮が訪れ、書の品評会が行われた。宮は嵯峨帝や延喜帝の書を持参し、源氏に寄贈した。源氏は様々な階級の人々に書を依頼し、姫君のために書の箱を用意した。須磨での絵日記は、姫君がもう少し成長するまで渡さないことにした。
三十二の四:宰相中将と雲井の雁の恋の行方
内大臣は、源氏の姫君の入内準備を聞いて物足りなく感じていた。娘の雲井の雁は美しく成長したが、結婚の話がなく引きこもっていた。宰相中将は冷静な態度を保ち、内大臣は後悔の念を抱いていた。
源氏は宰相中将に他の縁談を勧めたが、中将は応じなかった。源氏は中将に人生の教訓を説いた。雲井の雁も父の心配を知り、恥ずかしく思っていた。中務の宮から宰相中将との縁談の話が出たという噂を聞いた内大臣は、娘に伝えた。雲井の雁は複雑な思いを抱きながらも、宰相中将からの手紙に返事を書いた。
```mermaid
graph LR
A[源氏] -->|父| B[姫君]
C[紫の上] -->|継母| B
A -->|夫| C
D[東宮] -.->|入内予定| B
E[兵部卿宮] -->|友人| A
F[前斎院] -.->|過去の関係| A
G[中宮] -->|義理の娘| A
H[内大臣] -->|父| I[雲井の雁]
J[宰相中将] -.->|求婚中| I
K[左大臣] -->|父| L[麗景殿]
D -->|入内| L
M[頭中将] -->|同僚| J
N[弁少将] -->|同僚| J
O[明石の君] -->|妻| A
P[太政大臣] -->|父| A
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class A main;
class B,C,I,L,O wife;
class H,K,P family;
class D,G imperial;
class E,J,M,N,F noble;
```三十三帖 藤裏葉
三十三の一:宰相中将と雲井の雁の結婚
六条院の姫君が太子の宮へ入る準備で皆が忙しい中、宰相中将は物思いにふけっていた。自分でも自分がわからない気がするほどであった。雲井の雁への思いは執拗なほどで、伯父の内大臣が二人の恋愛を認めようとしているのを聞いていながら、昔の関係を復活させることができなかった。
内大臣も甥の価値を認めようとせず、結婚問題には冷淡な態度をとり続けてきたが、雲井の雁の心が今も変わらず宰相中将に傾いているのを知り、親心として他家の息女との結婚を見過ごすに忍びなくなった。大臣は自分から負けて出ねばならないと決心するに至った。
やがて、大宮の御忌日に極楽寺で法会があり、内大臣は宰相中将に和解を申し出た。その後、内大臣は宰相中将を自宅に招き、藤の花を愛でながら二人の仲を認めた。こうして長年の苦難を経て、宰相中将と雲井の雁は晴れて結ばれることとなった。
三十三の二:姫君の東宮入内
源氏の姫君が太子の宮へ入ることが決まり、紫の上は上賀茂神社へ参詣した。六条院の他の夫人たちも女房を祭りの見物に出した。源氏は中宮の母である六条御息所の車が押しこわされた昔の葵祭りを思い出し、権勢をたのんでそうしたことをするのは良くないと紫の上に語った。
姫君が東宮へ上がる際、紫の上は母として付き添うことになっていたが、明石の君を姫君につけることを考えた。紫の上も同じ考えを持ち、源氏に提案した。明石の君は長年の願いが叶う思いで準備を始めた。
姫君の入内の日、紫の上が最初に付き添い、その後明石の君と交代した。二人の夫人は東宮の御息所の桐壺の曹司で初めて面会し、友好的な関係を築いていった。姫君は東宮から寵愛を受け、桐壺には華やかな空気が漂った。
三十三の三:源氏の栄達と宰相中将の出世
翌年、源氏は四十歳を迎え、三十九歳で準太上天皇の位を得た。六条院には院司が任命され、源氏はより自由に振る舞えるようになった。しかし、帝はなお世間をはばかって位を譲ることができないことを歎いていた。
一方、内大臣は太政大臣に昇進し、宰相中将は中納言となった。中納言となった宰相中将は、お亡くなりになった祖母の宮の三条殿へ引っ越した。かつての恋の思い出の場所で、雲井の雁との新生活を始めた。
ある日、太政大臣が三条殿を訪れ、若夫婦の様子を見て感慨深げであった。中納言の乳母である宰相の君は、昔の大臣の処置を恨めしく思っていたが、今では得意な気持ちで大臣に歌を詠んだ。
三十三の四:六条院への行幸
十月二十日過ぎ、六条院へ行幸があった。朱雀院も招かれ、珍しい盛儀となった。六条院では万全の準備が整えられ、馬場殿から南の寝殿へと帝が移動する道筋には錦が敷かれ、池には鵜飼いの様子も見られた。
御前では管絃の合奏が行われ、楽器の音色が夜更けまで響いた。朱雀院は「宇陀の法師」の昔ながらの音色を懐かしく聞いた。帝の容貌は六条院と瓜二つになっており、源中納言の顔までもが似ているように見えた。
合奏は非常に興味深く進み、歌の役を務める殿上人の中でも弁の少将の声が際立っていた。この日の行事に参加した人々は、まるで前世からの善果を持って生まれてきたかのような、恵まれた人々であった。
さらに、源氏は姫君を東宮に奉り、宰相中将も結婚して幸福になったことに安心し、もう出家をしてもよい時が来たと思うようになった。また、源氏は紫の上のことを気にかけつつも、養女の中宮の存在が大きな支えになると考えていた。
```mermaid
graph LR
A[光源氏] -->|父| B[姫君]
C[紫の上] -->|養母| B
A -->|夫| C
D[東宮] -->|婚約者| B
E[宰相中将] -->|新婚| F[雲井の雁]
G[内大臣] -->|父| F
G -->|伯父| E
H[太政大臣] -->|昇進| G
I[明石の君] -->|実母| B
A -->|夫| I
J[中宮] -->|義理の妹| A
K[頭中将] -->|兄弟| E
L[弁少将] -->|同僚| E
M[朱雀院] -->|兄| A
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class A main;
class B,C,F,I wife;
class G,H family;
class D,J,M imperial;
class E,K,L noble;
```