ワンオペ帰省 夏の陣
実家は、自宅から新幹線で片道5時間。
ヒップシートに載せた15キロの息子と、パンパンのリュックの鎧を纏った私。
秘策はたくさん用意してきた。
孤軍での戦いだが、息子の命を守り切るぞ。
家を出た瞬間に汗が噴き出す。
太陽が真上からジリジリ照らす中、のしのしと駅を目指して歩く。
のしのしなんてゾウかマンモスにしか使ったことがない。
息子は、降ろした瞬間に走り出す。
捕まえようと思うと、ぬるっと私の腕をすり抜けていく。
だから、簡単には降ろせない。
長期戦だ。
汗でツルツルになった、釣れたての魚のようにピチピチ動く15キロの息子を抱え続けながら歩くのは、修行と呼ばせていただきたい。
新幹線駅につくまでに、すでにふたりとも汗だく。
ホームでちょっと降ろすと、あっという間に遠ざかる小さな背中。
グミ!
ジュース!
アンパンマン!
用意していた秘策をどんどん放つ。
お願い。少しでもじっとしてて。
新幹線に乗り込み、さらに秘策を惜しみなく放つ。
シール!
しまじろう!
ネットフリックス!
総力戦だ。
もうすでに、帰りまであたためておく予定だったものも使っている。
しかし、息子は手強い。
席をすり抜けて、何車両もずんずん走っていってしまう。
私はそのうしろで
「スミマセン、スミマセン」ロボットだ。
乗り換えが、かなりの茨道。
1歳児はICカードを作れないので、紙切符で行くしかない。
なぜJRという同じ社名を掲げながら、切符のシステムが全く違うのだ。
お願いだから全部同じサイトから予約させて。
最寄駅で全部受け取らせて。
車内で別の孤軍を見かけ、お互いに会釈する。
「お互い頑張りましょうねええええ!」
そうテレパシーで送っておいた。
そうしてようやく、
ピンピンツヤツヤの息子と、ボロボロ濡れ雑巾になった母が、地元の駅に降り立つ。
やっと着いた実家。
よく冷えた甘い桃と、麦茶。
貝殻の柄のトイレットペーパー。
母の謎の鼻歌。
実家の夏だ。
今回も息子を守り切れた。
なんとか勝利かな。
乾き切った体に、麦茶が巡るのが分かった。
ただいま。
