見出し画像

【旅行前に】サグラダ・ファミリア予習ページ④ガウディの思想編 〜機能は象徴〜

※このページは随時追記、編集しています。

多くの建築は、まず機能があり、それを成立させるための構造が考えられます。
屋根を支えるために柱があり、壁を安定させるために補強が施される。
装飾が加えられるのは、あくまで最後です。

この考え方は、合理的であり、現代建築の基礎にもなっています。

しかしガウディは、この一般的な順序をそのまま踏襲しませんでした。

彼は、機能だけを満たすことを目的とした構造に留まるのではなく、
機能そのものを、象徴として可視化することを目指した建築家でした。

例えば、構造を補うために目立たない補強材を追加するのではなく、
彫刻や形態そのものに意味を持たせることで、建築全体としての力の流れを整えていく。

その代表的な例が、生誕の門の扉口に施された聖書の彫刻です。

生誕の門の扉口は、鋭角的な構成を持ち、石造建築としては応力が集中しやすく、力が一点に集まりやすい部分でもあります。
そこに施された聖書の彫刻は、単なる装飾ではなく、形態に厚みと複雑さを与えることで力の流れを分散させ、構造的にも無関係ではない役割を果たしています。

同時にその彫刻は、誕生と生命を主題とする生誕の門にふさわしい象徴として機能し、構造と意味が切り離されることなく統合されています。

もう一つのよく知られた例が、生誕の門の柱の足元に置かれた亀の彫刻です。

生誕の門を支える二本の柱のうち、海側の柱にはウミガメ、山側の柱にはリクガメが配置されています。

この亀の彫刻は、柱脚部の機能と結びついた位置に置かれ、
構造・排水・象徴が重なり合う存在となっています。

亀に「建築をゆっくりでも休まず進む」「神の時間を尊重する」といった意味を意図的に持たせたという直接的な史料は確認されていません。

しかし、サグラダ・ファミリアの彫刻制作に長年携わってきた外尾悦郎氏は、そのような象徴的解釈が成り立つことを指摘しています。

ガウディ自身が「私の依頼主(神)は急いでいない」と語っていたことを踏まえると、この解釈は、後世の想像でありながらも、彼の思想から大きく外れたものではないと言えるでしょう。

さらに、この亀には実用的な役割もあります。

バルセロナは、地中海性気候で晴天の日が多い一方、海から水蒸気が運ばれやすく、スペインの中では比較的雨の多い地域でもあります。
ガウディはそれを考慮し、柱を螺旋構造とすることで、雨水が自然に柱の内部を通って下へ流れるよう設計しました。

亀の彫刻は、その雨水を内部に導き、口から吐き出す雨樋としての機能を担っています。

雨の日にこそ生き生きと感じられる生き物が、雨水を扱う役割を果たす。
そこには、自然の秩序を建築に重ね合わせる、ガウディらしい思想が表れています。

亀という生き物が選ばれている点も、象徴的であると同時に構造的です。
亀は、低く広がった姿勢とドーム状の甲羅によって、自らの重さを圧縮として受け止め、全身へ分散させる生き物です。
この性質は、柱脚部において最も支配的となる圧縮応力のあり方と重なります。
亀の彫刻は、荷重を「支える」という行為を、構造そのものではなく、形と象徴として可視化しているのです。

ガウディ建築において、機能と象徴は決して別々に存在していません。
構造は意味を持ち、意味は構造に支えられている。

サグラダ・ファミリアが「語る建築」と感じられるのは、
そのすべてが、自然と信仰と構造の必然として形づくられているからなのです。

ガウディにとって、装飾は付け足しではありません。

サグラダ・ファミリアの彫刻や形態は、ただ美しいから存在しているのではありません。

そこには必ず、構造的な理由と、象徴的な意味が重なっています。

機能は隠されるものではなく、語られるべきもの。

ガウディの建築において、機能とは、象徴そのものなのです。

そして、この「機能と象徴を切り離さない」という考え方は、ガウディ没後の建設においても受け継がれています。

サグラダ・ファミリアの彫刻制作に長年携わってきた外尾悦郎氏は、「もしガウディが生きていたら、どう考えるか」を常に問いながら制作にあたってきました。

その象徴的な例が、福音書家の塔に設けられた雨樋です。

例えば、マタイの塔では、雨水をどのような形で地上へ導くかが問題となりました。
柱の足元に彫刻を置く以上、そこには必ず何らかの象徴が必要になります。しかし、福音書家であるマタイ本人や、その象徴動物を、排水という役割を担う場所に置くことはふさわしくありません。

一方で、象徴を持たない造形も、ガウディ建築にはあり得ない。

そこで外尾氏が着目したのが、マタイが元徴税人であったという聖書の記述でした。

彼は、元徴税人であったマタイに結びつく散らばったコインと破れた金袋をモチーフとし、金袋の裂け目をそのまま雨水の出口として造形しました。

それは、排水という機能を果たしながら、マタイという人物の来歴を静かに語る彫刻でもあります。

ここでもまた、機能は沈黙することなく、象徴として建築の中に組み込まれているのです。

いいなと思ったら応援しよう!