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青くやわらかな送辞 第4話

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3限、柊也は文化人類学の講義を受けながら、昔のことを思い出していた。

小学校5年性の時に柊也の両親は離婚した。
「柊也、これからあんまりお父さんに会えなくなるけど、柊也のことはお母さんがやるから安心してね、住む場所も変わらないし」
母親がこう言った時、柊也はそれが離婚というものだと分かった。
父親も母親と同じで仕事が忙しかったが、何回かは公園でキャッチボールをしたり、一緒にゲームをしてくれた。
そのことを思い出して、柊也は母親が見ていないところで何度か泣いた。けれど中学生になる頃にはその寂しさにも慣れてしまった。

もともとあまり積極的でも明るい性格でもなかったが、中学、高校に上がるにつれて、輪をかけて柊也はクールになっていった。リーダーのポジションには行かず、かと言って孤独にならないように、それなりに友達付き合いをこなし、その変なクールさで女子にモテないこともなかった。柊也はバスケ部だったが、女子バスケ部の後輩に告白されたこともある。
けれど柊也は恋愛感情みたいなものがよく分からなかった。
人を好きになるとか、人に興味を持つということが極端に自分は薄れているように思った。

「た、立川君」
授業が終わると声をかけられた。
見覚えがある。
「あ、実委の?」
「あ、う、うん、村田」
分担決めの時に柊也とふたりで最後まで決められなかった男。
「まだ、あ、あんまり友だちいなくてさ、学食一緒にいかない」
村田君はそう言った。
「あー、いいよ」と柊也は答える。

学食でふたりともカレーを頼み、空いているテーブルを探して席に着く。
ポロシャツ、チノパン、メガネ、短髪、何とも特徴がない村田君。
「た、立川くんはさ、どうして学園祭実行委員会に入ったの?」
「どうして、か」
菜都の質問を思い出す。就職に有利とかは、もう言う気がなかった。
「どうしてって、わけじゃないけど、何か面白そうだから、勉強になりそうだし」柊也は適当に答える。
「ぼ、僕はね」
村田君の声がこわばる。
「変わりたいんだ」
「変わる」
「もっと、自分を人前で出せるように、変わりたいんだ」
(重いな)と柊也は思ったが、柊也のお腹はキリッと痛んだ。その重さが持つ不快感の底には自分と似たものがあることに、ピントが合ってしまったからだ。
「そう」柊也は気のないような返事をする。
「変わりたいんだ」村田君は繰り返す。
「なんで、そんなに変わりたいの?」
「それはね」
「何?」
「人生が一回キリだからだよ」
柊也は返す言葉がなくなる。古い映画のワンシーンみたいで居心地が悪くなる。
「変わってどうすんの?」
自分でも意地悪な質問をしているような気がした。けれど村田君は狼狽もせずに言い切った。
「恋人をつくる」
いきなり現実的な話の展開に、柊也は村田君に好感をもった。
「た、立川君は、変わりたいとか思ったりしない」
(え..)
柊也は黙ったまま、菜都を思い浮かべる。


「早めに後夜祭にかかるお金を計算して総務に出さないといけないのよ、忙しいよ」
菜都と柊也は実委活動室でひとつの机で向かい合う。
「どうやって計算するんですか?」
「ステージの設営にかかる費用は総務の方でやるから、後夜祭に出す食べ物とか飲み物とかはだいたい去年と同じくらいでいいと思うから、その辺はいいんだけど、早めに見積もりもらわないといけないのが花火」
「花火?」
「学園祭最後の打ち上げ花火」
「の、見積もり、ですか?」
「そう」
「そんなのも実委でやるんですか?」
「ぜんぶやるの」
菜都は去年の後夜祭ファイルから、1枚の名刺を出した。

有限会社花山煙火店
代表取締役 花山一輝

「電話して」
「無理ですよ!」
「度胸試しだよ、早めにアポイントとって挨拶に行くから、そこでもう見積もりもらう」
「メールじゃだめなんですか?」
「昔ながらのさ、てやんでい職人さんだからさ、メールなんてやんないよ、メアド書いてないでしょ」
柊也は名刺に目をやる。
「何て言えばいいんです?」
「大学の名前と学園祭実行委員会の立川と申します、って言えば、あーってなるから」
「ほんとですか」
「さ」
「今?」
「花火屋さん、どんどん予約入っちゃうのよ。いくら毎年頼んでるっていったって確約じゃないから。さ!」
柊也はスマホを手に取り、名刺に書かれた番号に電話をかける。

呼び出し音1回ですぐに相手は電話に出た。
「花山ですけど」
「あー」
「あ???!!!!」
「す、すみません!清林せいりん大学、学園祭実行委員会の立川と、も、申します」
いきなり額から汗が吹き出す。
「あー、花火ね、去年の姉さんじゃないのか」
「去年の姉さん?」
菜都は人差し指で自分を指差す。
柊也は頷きながら、「一度ご挨拶に..」
「明日来れる?」
「明日??」
目の前で菜都はうんうんと頷いている。
「だ、大丈夫です」
「じゃ、授業昼間だろ?夕方5時くらいにいるようにするわ」
「5時!」
菜都はうんうんと頷いている。
「分かりました、よろしくおねが」
ツーっツー、もう電話は切れていた。
柊也はどっと疲れる。
「こんなせっかちなんですか」
「てやんでい職人さんだから」
柊也は溜息をつく。


collum ファミレスでのお仕事④

菜都が下膳をしていると女子高校生が近づいてきて言った。
「あのー、ドリンクバーのところにがガムシロップないんですけどー」
「あ、すみません!すぐ補充します!」
女子高生は機嫌悪そうに分かったという素振りをした。
菜都は厨房内の棚から大袋に入ったガムシップを取り出しハサミで開封しドリンクバーのところに行って補充する。
小さな男の子がコップをもって止まっている。
ジュースが飲みたいようだけど、抽出口に背が届かないようだ。
「どれがいい?」と菜都が声をかける。
男の子は「オレンジ!」と言う。
菜都は男の子からコップを受け取り氷を入れてオレンジジュースを注いで、ストローをさす。
男の子は「ありがと」と言ってコップを受け取る。
菜都はその子がコップを落とさずに席まで戻るかを気にしながら、ドリンクバーの水滴を台拭きで拭き取る。

「はぁー」
バイト終わり、外に出た菜都は由衣と一緒に声をあげる。
「慣れた?」由衣が言う。
由衣は26歳のフリーターだ。大学卒業後、一回は正社員で就職したそうだが、2年で辞めてフリーターになった。辞めた経緯は聞かなかったけど、菜都には気さくで話しやすい先輩だった。
「いや、まだ慣れないです。覚えること多いし..」
「いろんなお客さんいるしね、結構鍛えられるよね」と言って由衣は笑う。
「帰ったら勉強でしょ?エライよな―」
「そんなことないですよ、勝手に決めたことだし」
「どうしてそんなに大学行きたいの?」
「え?」
「大学行くのって普通?私はさ、就職したけど、正直大学出た出ないなんてあんまり関係なかったな」
「わたしは、勉強したいんです」
そう菜都は言ったけど、何か違う気がした。
「あ、やっぱり何か違うな」
由衣は優しく菜都の言葉を待つ。
「多分、ただの憧れ、です。学生を謳歌するっていうことへの憧れ」
由衣は黙っていた。
「わたし、楽しみたいんです。できるだけ」
そう言った後に付け加える。
「生きることを」
言った後に少し後悔した。
「ちょっと、重いですよね」菜都は苦笑いする。
由衣は「そんなことないよ」と言って、菜都の肩に手をかける。



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