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光線

部活が始まる時間。
部室はちょうど西日が当たる位置にある。
「あつー」
日中使わない部屋なので開けると部屋はサウナ状態になっていて、エアコンがきき始めるまでに汗だく状態になってしまう。

れいはうちわで顔を仰ぎながらリュックを降ろした。
その途端、
「あっ!稲吉ー!」
廊下を歩いていく陸上部の稲吉 いなよし たつきの姿を発見し、玲はすかさずリュックから取り出し廊下に出る。

「これ」
と、100均で買ったペットボトル用の保冷パックに入れたアクエリアスを手渡す。
「何これ、めっちゃ冷たくね?」
「凍らせて持ってきたから、今いい感じで溶けてると思う」
「くれんの?」
「あげる」
「マジ?」
「うん」
「何のプレゼント?」
「プレゼントっていうか、応援みたいなヤツ、部活暑いけどがんばって」
「おー、ありがとう!あ、このケースは?」
「100均だからいいよ、あげるよ」
樹はスポーツマンぽい笑顔で手をふって部活に向かった。

何ともこそばゆい会話にニマニマしながら部室に戻り、席に座った瞬間、はーーー、と溜息が出た。

真田 さなだ れいは高校2年生、文芸部。
陸上部の稲吉樹とは1年生の時に同クラ(同じクラス)だったのだが、2年生では別のクラスになってしまった。

はーーー、という溜息は、こういうわけである。
文芸部は年に2回、部員の作品集を作る。結構ガッチリ製本するので部員も力が入る。
小説・短歌・評論の3つのカテゴリーから自分でひとつ選び、締め切りまでに書き上げる。完成までに作品を読み合い、感想を言い合うディスカッションや、顧問の校正が入るので、単に自分で書きあげればいいというものでもなく、ディスカッション前の1次締め切りが再来週に迫っている。

あーー、設定ミスったー。
玲は紫式部ブームに引っ張られ、「平安時代の恋愛」をテーマにした小説で出すことにしたのだが、全く筆が進まない。
何て書きづらいテーマにしてしまったんだ…
平安時代の恋愛なんて知らんがな…
どんなデートすんだ、蹴鞠?
テーマを変えたいのだが、おおまかな話や登場人物の設定を書いて顧問のチェックをすでにもらっているので、今からテーマ変更も出来ないのである。

むー、
玲は小学生みたいに口をとがらせながら、窓から外を見る。
運動部が練習している。
遠くの方で、樹がストレッチをしているのが見える。

何だか、運動部って差し入れが画になるよな。
スポーツドリンクとか、inゼリーとか、カロリーメイトとか。
私みたいな文化部に、例えば何か差し入れするって、何あげるのか?
私でも逆に困るもんな。

文化部って変な劣等感みたいなの感じるな。玲は自分のそんな自己嫌悪が間違っていると思いながらも、何だか少し空しくなった。

夜、玲は自分の部屋で昼間の樹との会話を思い出す。
何かちょっと自分の気持ち、気付かれちゃったかな。
突然恥ずかしくなってきた。
明日から何か気まずくなって自然に話せなくなったらどうしよ。

翌日、玲のそんなモヤモヤはあっさりと晴れた。

部室に向かう途中で背後から声がする。

「真田ー!」

振り返ると樹が昨日玲が渡した100均のペットボトルケースを持っている。

「あ、それ返さなくて..」言い終わる前にペットボトルを渡される。

「何これ?」
「ポカリスエット」
「へ?」
「凍らせたポカリスエット」
「あたし文化部だよ」
「文化部?」
「文芸部だよ」
「文化部でも喉かわくっしょ」
「ま、まあ」
「運動部とか文化部とか関係なくね?」
「そ、お?」
「今日は暑すぎて氷全部溶けたっぽいけど今飲めば結構冷たいかも!」
そう言って樹は、じゃっ!と手を軽く上げて後ろに歩き出す。
1回振り返って、樹は「がんばれよー」と言った。

玲はポカリスエットを握りながら「おー」と言った。
その「おー」が、わりと自然な「おー」で玲は妙な満足感を感じる。

とにかく暑い。汗が額から吹き出してくる。
冷たいポカリが美味しそう。
玲はペットボトルのキャップを開け、
一気に半分くらい、ぐびっぐびっぐびっと喉に流し込み、ばあーーと息をはいた。
「れい!」
いつの間にか同じ文芸部のユリちゃんが隣にいて、
「いい飲みっぷりだねー!」
と言った。さらに、「今のお気持ちをどうぞ!」と、マイクを向けるようなしぐさで拳を玲に向けた。
玲は、あーっと、と言ったあと、一際 ひときわ大きな声で言った。
「文化部だってポカリ飲むよっ!」
ユリちゃんは爆笑した。
「そのキャッチコピーださくない?」
今度は二人で爆笑する。

(運動部とか文化部とか関係なくね?)
さっきの樹の言葉がまだ頭上らへんにいる。
聞きようによっては告白っぽい台詞 せりふだな。

玲はニマニマしそうな顔を堪えながら、ユリちゃんと一緒に廊下を歩いて、西日差す文芸部の部室へ入っていった。

(終)


***

#第3回灯火杯