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青くやわらかな送辞 第2話

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実委に入会し、最初にあるのは先輩とのマンツーマンミーティングというものだった。伝統的に毎年行われるらしい。
ミーティング日、柊也の前に座ったのが菜都だった。
「はじめまして、刈谷かりや菜都なつです、よろしくね」
ボブの髪型の菜都は爽やかな笑顔で自己紹介をした。
「立川です」
「立川くん、下の名前は、えーっと、これは、シュウヤ君て読むの?」
「あ、そうです」
「へー、カッコいい字だね」
「そう、ですか..?」
「うん」
「言われたことないですけど」
そう言うと、一瞬菜都は柊也の目を目つめた。
実委じついには、どうして入ろうと思いましたか」
「ジツイ?」
「あーごめん、清輝せいき祭実行委員会、略して実委」
菜都は笑顔のままじっと見つめてくる。
「何か、就職の時に学園祭実行委員やっていると面接で結構言えるらしいんで」
両隣で他の新入部員の面接をやっていた先輩も一瞬柊也の方を見る。
「そっか」
菜都はニコニコしている。
そんな理由?と言われるのを待っていたのだが、菜都のリアクションはあっさりしたもので拍子抜けした。
「ここは1年生でもしっかり役割持ってもらうの、でもちゃんと教えるから安心してね」
柊也は心なく頷きながら、この人の、じゅっと染み込んでくる変な言葉の柔らかさは何だろうと思った。何だかすごい年上のように思えた。
「役割って、どんなですか」
「分担はこれからだから、でも結構春からやることあるよ」
「そ、ですか」
「そ」
菜都はまたニコッと笑った。
「サークルはもう入った?」
「あ、いやサークルは入らないです」
「ジツイだけ?」
「そうですね」
「ふーん」
柊也はつい訊きたくなった。
「先輩は?」
「わたしもジツイだけ、バイトもあるし、いろいろ忙しすぎちゃうとね」
「バイトですか」
「うん、してる?」
「いえ」
「実家?」
「いえ、近くでアパート借りました」
「そうなんだ、わたしも。家賃高い?」
「まぁ、親が出すんで」
「そっか」
「違うんですか?」
菜都は返事をしない代わりにまたニコッと笑った。
「じゃ、ミーティングは以上。お疲れさまー、今月中に役割分担あるから」
「いつも短いんですか?」
「え?ミーティング?」
「いや…髪」
「髪、あー、わたしの?んー、短くしたり伸ばしたり。何で?」
「あ、いえ、すみません、何でもないです」
ボブの髪型は菜都によく似合っていた。

踏切の向こう側に菜都を見つけたのはその数日後の夜だった。


collum ファミレスでのお仕事②

英語の問題集をカリカリと解きながら時計を見た。
午前9時を回った。
「あ」
菜都は急いで着替えて、髪を整え家を出た。

高校を卒業してからすぐにバイト先を決めた。
8つ離れた姉はもう社会人で家を出ていた。菜都は母親とふたり暮らしだった。

「お母さん、行ってくる」
「あ、はい、行ってらっしゃい、悪いね」

菜都は自転車を漕ぎながら、母のその「悪いね」を忘れる。
母にそう言われるのはどうにも嫌だったのだが、母には母の気持ちがあるから仕方ない。

母は5年前、くも膜下出血で倒れ、それから手に少し麻痺が残った。言語障害も少し。日常生活は支障がないが、仕事に行くのは難しい。
菜都は高校卒業後、ケースワーカーに大学に行くための学費を貯めたいからバイトをしたいと伝えた。菜都のバイト代は全額収入認定されないことになったが、大学に進学したら家を出ないといけない。

300万以上は貯めないと。
何としても国立に入って、授業料の他に少し蓄えを持っておかないと不安だ。大学に行ってからもバイトはするつもりだけど、時間は限られちゃう。

バイト先に着くと、スタッフルームに入りさっと制服に着替え「おはようございまーす」と厨房を通り、ホールに入る。
バイト前の朝の時間と、バイト後の夜の時間は大学受験のための勉強にあてている。

チャン。
入口のドアが開く音がして、お客さんが入ってきた。
「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
菜都は元気よく応対する。
「二人」
先に入ってきた男性が言う。
恋人同士のようだ。
「全席禁煙になりますが、よろしいですか?」
「あ、はい」
「ご案内します」
だいぶ前に飲食店は原則屋内禁煙になったが、意外と知られていないので、入ってくるなり「喫煙で」と言う人もまだいる。
全席禁煙と伝えると途端に不愉快な顔をされることもある。
けっこうそれが最初の接客で疲れる場面でもある。

テーブルに案内すると菜都はメニューを置き、だいぶ言い慣れた台詞を言う。

「ご注文がお決まりになりましたらそちらのボタンでお知らせくださいませ」



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