「いつも通り」が、当たり前じゃなかった日
夜、いつものようにジロウの歯みがきをしていた。
毎日繰り返している、何気ない時間。
その日も、いつもと変わらず終わるはずでした。
歯ブラシを奥まで入れようとしたとき、指先に何かが触れました。
いつもの歯茎の感触と、少し違う。
電気を明るくして、口の中をよく見てみると、歯茎の際に小さなイボのようなものがありました。
大きさは米粒ぐらい。 でも、確かにそこにありました。
こんなの、前からあったっけ。
指でそっと触れてみると、ぷにっとした柔らかさじゃなくて、少し硬い。
その硬さに、心がすっと冷たくなったのを覚えています。
ほんの小さな違和感でした。
でもその違和感がきっかけで、翌日病院へ行き、セカンドオピニオンも受け、手術をすることになりました。
病院では、見た目だけでは良性か悪性か判断できないこともあると教えていただきました。
「まずは取って、検査をしてみましょう」
その言葉を聞いてから、不安な時間が始まりました。
手術の日まで、正直ほとんど眠れませんでした。
もし悪いものだったら。 もし麻酔から目が覚めなかったら。
考えなくてもいいことばかり、考えてしまう。
そんな私の横で、ジロウはいつも通りでした。
朝になると挨拶がわりに私へタックルしてきて、ごはんを嬉しそうに食べて、おもちゃを持ってきて遊ぼうとする。
その姿を見るたびに安心するのに、
こんなに元気なのに、本当に手術が必要なのかな。
でも、もし何かあったら。
二つの気持ちが、何度も心の中を行ったり来たりしていました。
安心して、また不安になって。
泣いて、笑って。
そんな毎日でした。
病院からは、麻酔をかけるとき、手術を始めるとき、手術が終わったとき、その都度電話をいただくことになっていました。
最初の電話は予定通りだったので、少しだけ安心。
でも次の「手術を始めます」という電話が、なかなか来ない。
時計ばかり見て、 何かあったのかな、何か悪いことがあったのかな。
そんなことばかり考えていました。
あとから夫に聞くと、実は病院から連絡は来ていたそうです。
でも、私が心配しすぎて倒れるんじゃないかと思って、あえて伝えなかったらしくて。
そのことを聞いたときは、少し笑ってしまいました。
きっと夫なりの優しさだったんだと思います。
(お手洗いで鏡を見たとき、確かに私は顔面蒼白でした)
手術後、迎えに行くと、ジロウは今まで聞いたことのない声で鳴いていました。
その声を聞いた瞬間、胸がぎゅっと締めつけられました。
と同時に、ジロウがちゃんとここにいることを実感できて、安堵しました。
家に帰ってからもしばらくは、いつもより甘えん坊のジロウ。
夫と私の間を行ったり来たりしながら、ぴったりくっついて眠っていました。
そして先日、病理検査の結果を聞きに行きました。
診察室に呼ばれるまでの待合室の時間が、やけに長く感じました。
隣に座るジロウの頭を、何度も何度も撫でてた。
名前を呼ばれて診察室に入ると、先生が結果の用紙を見せてくれました。
結果は、歯肉過形成。
悪性ではありませんでした。
その言葉を聞いた瞬間、視界がじわっとにじみました。
隣にいたジロウの顔を見ると、状況なんてまるで分かっていない顔で、こちらを見上げてしっぽを振っていて。
それがなんだかおかしくて、泣きながら笑ってしまいました。
診察室を出て、ようやく肩の力が抜けた気がしました。
今回のことで、改めて思ったことがあります。
毎日歯みがきを嫌がったり、 散歩で楽しそうに歩いたり、 ベッドで気持ちよさそうに眠ること。
どれも、いつまでも変わらないものだと思っていました。
でも、その「いつも」は、当たり前じゃない。
歯みがきを続けていたから、小さな変化に気づけた。
不安な時間もたくさんあったけれど、今はそう心から思います。
だからこれからは、
歯みがきの時間も、散歩の時間も、何気ない毎日も。
一つひとつ、ちゃんと味わって過ごしていきたいです。
今日も元気だったね。
何度でも、そう言えるように。
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読んでくださってありがとうございます。