とんだエスカルゴ
今から20年近く前、秋が深まったころ。
ある日の夕方、私は洋風居酒屋にいた。
友人が企画した3対3の合コンに欠員が出たため、召集されたのだ。
普段は積極的に合コンに参加しない私だが、友人が後日ケーキをおごってくれるというので、参加することにした。
洋風居酒屋は、男性たちのセレクト。
料理はアラカルトだったので、男性陣が気を利かせて注文してくれた。
初対面ながらもお酒の力で徐々に打ち解け、会話も弾みだしたころ。
「お待たせしました」
テーブルに運ばれてきたのは、エスカルゴ。
本物を見たのは、この時が初めてだった。
(どうやって食べるんだろう)
巻貝と言えば、サザエぐらいしか食べたことがなかった。
フォークやナイフを使った食べ方が分からず戸惑う。
すると、困った様子の私に、右隣の男性Aさんが親切に食べ方を教えてくれた。
Aさんは、フォークとナイフを巧みに使って、殻から身を取り出す。
私も真似して、フォークとナイフで身を取り出そうとした。
すると、あろうことか、私はナイフでエスカルゴを飛ばしてしまった。
猛スピードのエスカルゴは、勢いよく右隣のAさんの左袖に着地した。
そして、エスカルゴの中のバターが流れ出て、Aさんのジャケットを汚してしまった。
「ごめんなさい!本当に申し訳ありません!クリーニング代、払います!」
親切に教えてくれたのに、私に服を汚されてしまったAさんに申し訳なくて、誠心誠意あやまった。
しかし、この日の私はついていなかった。
頭を下げた拍子にエスカルゴの皿に私の手が当たり、油がはねて私のスカートについてしまった。
ますます慌てる私。
楽しい場を台無しにしてしまったと焦ってしまう。
私の服のシミも気になるが、とにかく今はAさんに全力で謝らなければ。
「大丈夫。こちらこそ食べづらいものを選んで、申し訳なかったです」
Aさんはそう言ってくれたが、私はとにかく申し訳ない気持ちでいっぱいだった。隣に座るAさんの袖口の油ジミと、私のスカートの油ジミを見るたびに、心が痛んだ。
そして、消極的だったとはいえ、合コンの席でとんでもないドジをしてしまった自分を呪い、落ち込んだ。
こうやって、私にとんでもない目に遭わされたAさん。
この合コンで狙ってた女性と後日付き合い、数年後結婚したという。
Aさんにとっては、エスカルゴなんてもはや記憶の彼方だろう。
しかし、私には忘れられない思い出となった。
なぜなら、Aさんは、今の私の夫なのだから。
あのエスカルゴ、とんだエスカルゴだった。
