「福の神?」と3回も言われた話
もしかしたら私、福の神かもしれない。
私自身は、とりたててすごい幸運の持ち主でもない。
宝くじなんて買ってもそうそう当たらないし、抽選には確実に負ける。「また当たらなかった」と思いつつ、毎年のように宝くじを買っている。
でも、私があることをすると、喜ぶ人たちがいる。実際に、「お客様のおかげです」と感謝されたこともあるので、信ぴょう性は高い。
あることとは、「お店で商品を買う」ことだ。
「そんなん、客が商品買えば、店が喜ぶなんて当たり前じゃん」と思うかもしれない。確かにそうなんだけど、続きがある。
お店が閑散としているときに立ち寄って買い物をすると、お会計をしている間にお客さんが増えて、お店が大にぎわいになる。まさかと思うかもしれない。私だって、思い上がりもいいところではないかって、自分でも思っちゃう。
こんなことに気づいたのは私ではない。
最初に気づいたのは母だった。
ある時、母がつぶやいた。
「私たちが入る店って、出るときにいつも繁盛してるよね」
私はなんのこっちゃと思った。だって、そこまで観察していないから、気づきようがない。しかし、観察力の鋭い母は、かなり強く主張した。
母か私のどちらかが、福の神だと。
気のせいじゃないかと思ったのは覚えているけど、そこまで気にも留めず日が過ぎて行った。ところがある日、福の神の存在を思い出させるような出来事が、私の身に起きた。
服を買いに行ったときのこと。
私はいつも、決まったお店で服を買うことが多い。なじみの店員さんもいらっしゃって、好みを熟知してくれている。体型にも合う服が多いので、このお店に行けば間違いないと言い切れるほど、頼りにしているお店だ。
そのお店の店員さんが、服を包装しながら教えてくれた。
「ゆにさんがいらっしゃったあと、いつもお店が忙しくなるんですよ。不思議だけど、なぜかゆにさんいらっしゃるとお客様がたくさん来てくださって」
──え?そんなことって、ある?
私は耳を疑った。母に何年か前に言われたことが、また私の身に起きたのだ。まさかと思う。「福の神って言われたことあります」なんて名乗り出るわけにもいかないけど、どうやらお店で私の存在は噂になっているとのこと。
とはいえ、素直に喜んでいいのかわからない。「実は私、福の神なんです」なんて、さすがに言えないし、言うつもりはない。なんて答えたらいいか分からず、中途半端に笑ってその場はやり過ごした。
もしかしたら、お店の人が世間話のひとつとして何となく話してくれただけのことかもしれない。真に受けるのも、冗談が通じない人みたいであまりよくない気がする。なので、「まあ、そんなこともあるかもしれないな」と思うぐらいにして、それ以上深く考えないことにした。
しかしまた、似たようなことが起きた。
今度は行きつけの美容院でのこと。
ヘアスタイルをセットしてもらっている間に、店長と世間話をしていたところ、「このあとね、多分忙しくなる」と言われた。「予約、いっぱいなんですか?」と聞くと、どうやらそうでもないらしい。どういうことか不思議に思っていると、店長が口を開いた。
「ゆにさん来た後、いつも予約の電話が鳴りやまないんですよ。空きがあっても埋まっちゃう」
またまた、「私ったら福の神?」説が浮上した。いや、まさかね。違うお店で言われたことあるけど、まさか…
すると店長は断言した。
「こりゃあゆにさん。あなた福の神だね」
私は返事に困ってしまう。だって、「そうですよね、私って福の神かも!」なんてノー天気に返すわけにもいかないし、「そんなー、気のせいじゃないですか?」というのも、思い切り相手を否定している気がする。なので、「言われるの2回目だけど、偶然だよね」と思いながら、「そんな偶然って、あるんですね。うふふ」と話を合わせておいた。
あれから日が経ち、福の神疑惑なんて記憶の片隅に追いやっていた。しかし今日、またもや私の身に福の神説が降りかかってきた。
長男の部活の道具を買いに、専門店へ行った。お店は閑散としていて、店員さんがひとりで店番をしていた。探していた道具はあいにく欠品中だと言うので、取り寄せの手続きをお願いすることにした。
すると、店内が急ににぎやかになってきた。お客さんが次々と来店し、レジには行列ができてしまう。ひとりしかいない店員さんは慌てふためいて、来客対応に追われる。
その様子を見た夫が、ボソッとつぶやいた。
「ゆにちゃん、また福の神を発揮したね」
「どういうこと?」
思い切って私は聞いた。すると夫が続ける。
「だって、ゆにちゃんがお店に入るときに空いてても、お店を出るときはいつも繁盛してるからさ。お店にとったら、ゆにちゃんは福の神だよ」
夫にまで断言された。それなら、本当にそうかもしれないとだんだん思い始めてきた。二度あることは三度あるという。そろそろ、信ぴょう性が増してきたのかもしれない。
「あのさ、母にも同じこと言われたことがある。それにこの前、服屋さんや美容院でも言われた。何回も言われるから、そうかもしれないってだんだん思えてきたよ」
気心知れている夫なので、心の内を打ち明けてみた。
「でしょ?気づいてない人もいっぱいいると思うけど、気づいているお店の人からはすごく感謝されてると思うよ」
夫がそこまで言うんだから、いよいよ私が福の神かもしれない説が真実味を帯びてきた。
と、ここまで仰々しく書いてきたが、私自身が本当に福の神だとして、何か生活が大きく変わるわけではない。普通の主婦として、ただ生活を送っているだけだから。残念ながら、私自身の幸福が増えているわけではない。気づいたからって、何かをしてあげられるわけでもない。
しかし、考えようによっては、私がただ買い物をしただけで、喜んでくれる人がいるのは確かだ。誰かが幸せになってくれるなら、それだけでじゅうぶんだ。
普通に過ごすだけで、もしかしたら誰かを幸せにしているかもしれない。私も、あなたも。
