「ネイル塗りたい」と息子に言われた日
「ねえお母さん。ネイル塗りたい」
ある日、小6二男が言った。私のネイルをやっていたときのことだ。
正直、男子がネイルを塗ることに、少しだけ抵抗がある。ネイルは女性のものだという価値観が、心の奥底に横たわっている。令和のいま、ジェンダーで考えるのはナンセンスかもしれない。でも、昭和生まれの私の価値観からすると、ちょっと大丈夫だろうかと思ってしまう。友達と遊んだときに、からかわれないか心配になる。からかわれなくても、変な目で見られてしまうことはないだろうか。世の中そんなに自由ではない。個性を重んじる世の中に変わりつつあるけど、それでも世間には昔からの価値観もしつこく根付いている。
それだけではない。子どもの爪は柔らかくてネイルの成分が強すぎる気がする。もし、女子だったとしても、たまの気分転換にとどめるだろう。せめて、ネイルのデメリットなんか物ともしない年齢になってから楽しめばいいのに。
まさか、男の子がネイルしたいって言ってくるなんて、思いもよらなかった。二男いわく、爪がピカピカなだけで私の機嫌が良くなっているのを見て、自分もやってみたいと思ったらしい。男の子がネイルすることで、変な目で見られるかもしれないことは十分承知しているという。
「ピカピカしているのがいいの?それとも色を塗りたいの?」
慎重に聞いてみた。すると二男は、「ツヤツヤにしたいし、色も塗ってみたい」という。困った。どうしたらいいだろうか。こういう悩ましい事態が起きるときに限って、夫は飲み会でいない。そして、おそらく夫は頭ごなしに「ダメ」というだろう。しかし、二男は「絶対やりたい」と言って引かない。もし夫がいたとしても、喧嘩になる修羅場しか見えない。
だからと言って、「いいよ」とも言えない。ネイルをきっかけに想像もできない生き方を選択してしまったら、受け入れられるかわからない。健康であればいいとは思っているけど、生まれ持った性を生きる前提で物事を考えていたことに気づかされた。46年も生きてきていろんな価値観に縛られている私とは違い、生まれて11年の柔らかい価値観を持つ二男。「ダメ」と言ったらその場で言うことを聞くだろうけど、しこりが残りそうだ。
うまいこといく折衷案はないだろうか。
幸い、今は夏休み。
友達と会う機会も少ない。
暑くて外に出かける機会も少ない。
ならば、ほんの少しだけ、体験させてみようか。
10分ぐらい悩んで出した結論は、トップコートだけ許可。試しにトップコートを1本の指だけに塗って、感触や触り心地、ツヤの持ち加減を体感してもらう。その上でまた塗りたいとなったら、今度は私の手持ちのネイルを指1本だけ塗る。ただし、夏休み中だけ。学校が始まる前に落とす。
これらを二男に伝えた。すると「うんわかった」と返事が返ってきた。二男の左手中指に薄くトップコートを塗ると、「ひんやりする」と興味津々の様子。そのままじっと乾燥を待つ。5分ぐらい経ってからそっとネイルをなで、「ツヤツヤになった」と喜んだ。さまざまな角度から中指を眺めては、嬉しそうに笑った。
しかし、次の日にはトップコートが半分しか残っていなかった。やはり、若い爪は成長が早くて、マニキュアが残りにくいらしい。二男は日に日に欠けていくマニキュアを眺めながら、何かを考えているようだった。トップコートを塗って1週間経った頃には、すっかり剥がれて何も残らなかった。除光液が不要である。
すると二男は納得したのか、私がネイルを塗り直していても「塗りたい」とは言わなくなった。理由を聞いてみると、「今はまだ早いみたい」とのこと。ネイルが持たない爪だから、塗りたくても楽しめないという。大きくなってまた塗りたいと思ったときに、自分の好きな色を塗りたいそうだ。それを聞いて、ほっとしている自分に気づいた。
このやり方が正しかったか、いまだにわからない。でも、少なくとも両者が納得した上で、一緒に考えて乗り越えられたのは良かった。頭ごなしに否定するのではなくて、よく考えてより良いやり方へ持っていくほうが私たちには良かったみたいだ。
私の爪を見て、「ツヤツヤだね」とニコニコする二男。大きくなったら、心置きなく楽しみたいものを楽しんでね。
