リサイクルショップで〇〇を売ったら、予想より高く買ってもらえた【ショートショート】
ある日、Yはリサイクルショップへ行った。
あるものを売るために。
Yは、広い店内にある「買取」と書かれたカウンターを目指して歩いていく。カウンターには若い女性店員が立っていた。
「あの…本を売りに来たんですが、こちらでよろしいですか?」
「はい、こちらになります」
店員は親切に対応してくれた。はきはきと話す、感じのいい店員だった。彼女なら、きちんと対応してくれそうだ。狙いを定めたYは、一気に言った。
「あの、本じゃなくて。日本です。にっぽん」
店員は、笑顔を顔面に貼り付かせ、狼狽した様子でYの言葉を繰り返した。
「え?え?日本?本ではなくて、にっぽん…」
「そうそう。日本です」
Yは、真剣な表情をしている。
あまりの事態に、店員は固まってしまった。
「すみません。もしかして、取り扱っていらっしゃらないですか?こちらの店舗ならきっと大丈夫だと、人から聞いてきたのですが」
「た、確かに、と、当店は何でも買取いたします。少々お待ちいただけますか?」
店員はそう答えるとYをカウンターに残し、足早に店の奥にいる主任へ聞きに行った。
「主任、日本を売りたいというお客様がいらっしゃるのですが」
「は!?日本?本じゃなくて?」
「そうです。にっぽんを売りたいそうです」
「日本?ふざけてるのか?」
「ふざけた様子はありません」
「じゃあなんだ。そのお客様は正気なのか」
「真面目におっしゃっています」
主任は信じられないと言った表情で店員を見つめる。しかし、店員がウソを言っている様子はない。こんな話は聞いたことがないが、相手はお客様だ。きちんと対応しないと、あとからクレームが来るかもしれない。主任はしばし考え込んだ後、店員を連れてYのもとに向かった。勇気を出して、主任はYに話しかけた。
「お客様、日本を売りたいとお伺いしておりますが、お間違いございませんか」
「はい、間違いありません」
「そうなりますと、こちらのカウンターではお取り扱いできません。ここから左側に雑貨のカウンターがございますので、そちらでお願いいたします」
「雑貨ですね。わかりました。ありがとうございます」
Yは主任と店員に頭を下げて、雑貨買取カウンターに向かった。さすが大手なだけあって、この店舗は店員のサービスが行き届いている。Yが感心しているうちに、雑貨カウンターから店長らしき男性が飛び出してきた。どうやら、本買取カウンターから話が来ているらしい。
「お客様、先ほど本買取カウンターにいらっしゃった方ですね」
「はい、そうです」
「わたくし、店長の御府(おふ)でございます。こちらでお話を伺います」
「ありがとうございます」
Yは店長に笑顔を向けた。これまでYは、様々なリサイクルショップで「日本はお取り扱いできません」と断られてきた。全国のリサイクルショップを転々と訪ね歩き、やっとたどりついたのがこの店。今度こそ、真剣に売りたい。Yに緊張が走る。この店では取り扱ってもらえるのだろうか。
「本日はご来店いただき、ありがとうございます。書類等ございましたら、拝見してもよろしいでしょうか」
「はい、わかりました。こちらが内閣総理大臣から預かった書類です」
「ありがとうございます。確かに大臣の署名が入っていますね」
「そうです。直々に署名いただきました」
「なるほど。では次に、お客様の身分証明書をお願いします」
Yは、財布から運転免許証を取り出した。店長に掲示する。
「査定価格によって、お取引を中止することはございますか?」
「いえ、中止はしません。お願いします」
「ありがとうございます。では査定いたします。お時間が40分ほどかかります。店内のアナウンスでお呼びいたしますので、こちらの番号札をお持ちになって、店内でお待ちくださいませ」
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
番号札には「H075」と書かれている。
Yは雑貨買取カウンターを離れ、番号札をポケットにしまい、店内の本を読みながら査定を待った。
40分後。
店内にアナウンスが流れた。
「ご来店ありがとうございます。雑貨コーナーの査定が終了しましたのでお知らせいたします。番号札H75番のお客様。H75番のお客様。査定が終了しましたので、雑貨買取カウンターまでお願いします」
Yは番号札を握りしめて、雑貨買取カウンターへ急ぐ。果たして、買取が成立するのか。いくらで買い取ってくれるのか。はやる気持ちを抑えられないYの足取りは、どんどん早くなっていく。
買取カウンターに到着したYは、番号札を店員に差し出した。店員がカウンターの奥に声をかける。すると、先ほどの店長がカウンターに現れた。
「お客様。大変お待たせいたしました。買取価格はこちらになります」
店長が差し出したタブレット画面には、買取価格が書かれている。
1,500円だった。
「こんなに高く買い取っていただけるんですか!」
Yは歓喜のあまり、声を上げる。
「私、1,000円超えたらラッキーだと思っていたので、驚きました」
「そうでしたか。この価格で買い取らせていただいてよろしいですか?」
「もちろんです」
「では、こちらの画面にご署名をお願いいたします」
Yは喜びながら署名した。やっと売れた。しかも予想よりも高く。
「では、1,500円お渡しいたします」
「ありがとう」
「また不要なものがございましたら、当店にお持ちください」
「わかりました」
「ご来店、ありがとうございました」
Yは1,500円の重みを感じながら、軽い足取りで店を後にした。
店長がYを見送っていると、本買取カウンターの主任がやってきた。
「日本、買い取ったんですか?」
「あぁ。ずいぶん安く買い取れた」
「そうですか。でも当店で売れますかね?」
「それは売り出してみないとわからないよ」
「でも、日本ですよ。買い取る客が現れるとは思いませんが」
「大丈夫だ。何であっても、買いたい客がいるんだ」
店長は買い取ったばかりの日本に値札をつけて、雑貨の棚に並べた。
値札には、4,500円と書かれていた。

