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【推し活小説】『I love Thai actors. 〜タイ沼民はみんな主人公〜』 Case 2: Namieーー Mew makes me strong.

※作中に実在するタイ俳優さんのお名前や作品名が出てきますが
物語自体はフィクションです。ファンミーティングの描写も実際のイベントとは関係がございません。ご留意ください。
 
###永遠の愛

ターンとタイプが大切な人達の前で永遠の愛を誓う

タイBLドラマ『TharnType 2: 7 Years of Love』の結婚式のシーン。

何度リピートしたか分からない。
奈美恵は20回目から数えるのをやめた。

奈美恵も20数年前、結婚式を挙げた。
当時はそのホテルで結婚式を挙げることがステータスの象徴とされた、
あの某ホテルで。大切な人達を招待して。

チャペルのバージンロードを歩いた。
神様の声を代弁する神父の前であの定番の誓いの言葉
「健やかなる時も病めるときも……生涯を共にすることを誓いますか?」
と問われ、迷わず
「はい」と答えた。
あの瞬間、隣にいる愛する人と死ぬまで寄り添い続ける未来を、一点の曇りもなく信じていた。永遠という名の光の中に、二人で溶けていくような心地がした。

フラワーシャワーを浴びて、ブーケトスをして、キャッチした友人に
「次はあなたの番」とほほ笑んだ。

その数年後、奈美恵の結婚生活は破綻した。

とっくに関係は冷めきっていたのに、なぜか奈美恵の元夫は離婚に同意しなかった。慰謝料もいらない、財産分与も最低限で良い、なんなら放棄すると言っても、頑なに首を縦に振らない。
自分たちだけで解決できると思っていた調停は平行線をたどり、結局合意に至らないまま終わった。
藁にもすがる思いで、奈美恵は弁護士を頼った。煩わしい問題を弁護士が解決するのはリーガルドラマの中だけだと思っていた。自分の人生において、弁護士という存在が「テレビの向こう側の住人」ではなく、切実な救いとして目の前に現れる日が来ようとは、夢にも思っていなかった。

弁護士の手腕のおかげでようやく離婚が成立した。

奈美恵はお金も精神力も体力も削られた状態で実家に帰った。

離婚経験者の母・八重子は奈美恵を責めないで受け入れ
「あなたには幸せになって欲しかった」と泣いた。

奈美恵は40代で子供部屋おばさんとなった。

奈美恵の父は慰謝料として、家を母に譲った。
子供のころは母と自分を捨てた父を極悪人ぐらいに思っていたが
そうでもなかったと今は思える。住む所に困らない生活を残していったのだ。

奈美恵は益々、タイ沼に溺れていった。
自室をミューのグッズで埋める。

朝、スマホのアラームを止めてすぐにアプリでタイドラマを再生する。
ミューの美しい顔と心地よい声で起動する。

「手に職、手に職」と母に圧をかけられて、奈美恵は半ば強制的に薬剤師の資格をとった。
それが今は役に立っている。大学卒業後3年ほど働いて、結婚を機にやめてしまった仕事に復帰した。八重子もパートをしていたので、奈美恵は経済的な余裕がある。

ミューが日本にくるイベントには必ず参加した。
念願かなって、ファンミーティングで超限定のVIP席の特典を手に入れた。ミューと二人きりの時間を持てるのだ。

1か月も前から、奈美恵はそわそわと落ち着かない日々を過ごした。
前日は肌が荒れるから、パックをして、早く寝ようと試みたが、眠れなかった。
当日、高い美容液と保冷剤で目の下のクマが目立たないようにケアをしまくる。メイクも念入りに下地クリームからコンシーラーまでこだわって、普段の2倍ベースメイクに時間をかけた。少しでも肌が綺麗に映るように。シミを消した。ご無沙汰していた、アイメイクのパレットを開く。
明るいオレンジをチョイス。色の上からラメを塗る。唇はふっくら見えるように輪郭をぼやかす。もちろんグロスも重ねる。白髪もヘアマスカラで念入りに擬態させた。

何件も店を回って、何枚も試着して、辿り着いた見栄え◎ワンピースを着こなす。

「誰かと思ったよ」八重子が出がけに毒を吐く。
「また、あれだろ、どっかの国の芸能人だろ。そんなに着飾ったって、一緒にはなれないんだよ。そんな暇があったら、お見合いしなよ」
答えずに奈美恵は家を出る。

ファンミーティングの会場に着く。
まだ、ミューは登場していないのに、もう心臓の音がうるさい。

会場のライトが切り替わる。
ミューが登場した瞬間、奈美恵の耳からすべての雑音が消え去った。
発光しているかのような圧倒的なオーラと、見る者を平伏させるほどの気高い美しさをまとった、生身のミュー。 今、自分の数十メートル先に立って息をしている。広い肩幅としなやかな身のこなし、そして会場の隅々までを見渡す慈愛に満ちた眼差し。奈美恵はただ、胸を押さえて見つめることしかできなかった。

厳重にチケットとパスを確認され、選ばれた者だけが並ぶVIP特典の待機列につく。
パーテーションで厳重に隠された対面ブースからは、時折、中から出てきたファンが感激のあまり泣き崩れる声が聞こえてくる。それだけで奈美恵の心臓は破裂しそうだった。 前の人がブースを出て、スタッフが奈美恵に向かって小さく頷く。「どうぞ」と促され、緊張で硬直した足をやっとの思いで動かす。 衝立を回り込んだ瞬間、
そこは世界を遮断したかのような、ミューと自分だけの空間。

目の前に生身のミューが微笑んでいる。深く優しい瞳が、まっすぐに奈美恵を射抜いた。
ミューの瞳に映る奈美恵は光を帯びている。

ああ、今、私はミューを作る要素の一部になっている。

「コー・ゴード・ノイ・カ(ハグして下さい)」
3か月かけて覚えたタイ語を絞り出す。
震える奈美恵の緊張した声。
それを聞いたミューは 「ダイ・カップ(いいですよ)」 と
奈美恵を包む。
ふわりと良い香りが鼻孔に侵入する。体温が伝わる。
「コープクン・クラップ(ありがとうございます)」
耳元で囁く、低く甘い声。

どうやって、家まで帰ったか奈美恵は覚えていない。

幸せの余韻は何か月も続いた。

面倒でしかなかった新薬研修。インプットがスムーズだ。
仕事帰りに八重子の好きな、和菓子を買って帰る。
電車で座れなくても疲れない。
八重子は呆れる。
「ご機嫌でよろしいですこと」
「とっても調子がいいの」
嫌味にまじめに答えてしまう。

ファンミーティングの魔法がとけて、
年相応の疲労を感じてしまうようになった奈美恵の日常に変化が訪れた。

八重子が倒れた。

後遺症で麻痺が残り、仕事を続けられなくなった。
八重子はだんだんふさぎ込むようになった。
見かねた奈美恵は八重子をデイサービスに連れていく。
最初は
「私を老人扱いするんじゃないよ」
と抵抗していた八重子だが今は友人もでき、楽しめているようだ。

週3日、出勤前に八重子をデイサービスに送ることが日課になった。
お迎えはヘルパーさんを頼んだ。ずっと同じ日常が続かないことを思い知っている奈美恵は変化を現実的に受け入れた。

そんな、ある日。
仕事から帰り道、男性高齢者から声をかけられた。
「あの、すみません。八重子さんのお嬢さんですか」
「……」
奈美恵は不審に老人をみつめる。
「怪しい者じゃないですよ。八重子さんにはデイサービスでお世話になっていて」
「ああ、それはどうも」
デイサービスの名前が出て、やっと奈美恵は老人を信用する
「三木本源治と申します」
「三木本さん、母がいつもお世話になっております」
「八重子さんそっくりな美人だね」
「……ありがとうございます」
「バツイチ独身なんだって?」
「……」

どうせ『俺の息子も独身で』って言うんでしょ?。そういうの間に合ってますから。

奈美恵は胸中で毒づく。
「一人は寂しいだろ。俺と一緒になろう」
「はい?」
「あんたは昭和の良い香りがする。初恋の山田先生そっくりだ」

なんの話?

「八重子さんごと面倒みるから」
「……」
奈美恵の背中にぞわぞわと恐怖が走った。

偶然じゃない……。私がこの道を通るのを知っていた?

奈美恵は後退りする。
三木本の手が奈美恵の手首を掴む。
「離してください」
「こう見えても財産もってるよ。悪い話じゃないと思う」
老人の湿った皮膚の感触がまとわりつく。
ミューの体温が蘇る。
「私に触れていいのは、ミュー様だけよ!」
自分でも信じられないような大声が出た。
不意を突かれ、ひるんだ三木本の手が、奈美恵の手首からずるりと離れる。
その隙を見逃さず、奈美恵は一心不乱に駆け出した。
背後から「おい! 待て!」と三木本の掠れた声が追いかけてくる。
それも長くは続かない。すぐに「ハァ、ハァ」と息を切らして立ち往生する老人の姿が夜の街灯の向こうへと遠ざかっていった。

家に着くとすぐに奈美恵は八重子に詰め寄る。
「お母さん、三木本って人に私のこと話した?」
「ああ、三木本さんの息子さんも独身だっていうから、丁度いいと思って。三木本さんの息子さんと会ったの?どうだった?」
「……そうじゃなくて……」
言いかけてやめる。
「お母さん、私がいつ……もう一度、結婚したいって言った?」
「だって、このままじゃあ、あんた、私の世話を焼くだけで、人生終わってしまうだろ?あんたには幸せになって欲しいんだよ」
「お母さん、私は今でも幸せよ。お母さんの世話ができて幸せなの。ターンはタイプの世話を焼くの。愛する人の為に世話を焼くのは尊いことでしょ」
「また、あれかい。どっかの国の男同士でべたべたする話……」
「タイよ。ともかく、私は今でも幸せだから、余計なこと言わないで」
息が上がった。

自室に駆け込み、ミューのアクスタを握りしめる。

ターンとタイプは私の脳内で今でも一緒に暮らしている

休日には一緒にお買い物をする
どんぶり勘定のターンにタイプがお説教をするのだ。

ターンはタイプを喜ばせようと記念日にお菓子作りを試みる。
キッチンが悲惨なほど汚れる。
卵と粉まみれになったキッチンをみてタイプは呆れる 。
そして、タイプがターンにいうのだ
「お前の得意なことをしろ」と

そして、二人は唇を重ねる。

そんな日常が永遠に続く……。

それだけ、私は幸せ。

Mew makes me strong.

END


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