「神となった俺の世界で、信者たちが国を興す」第五話
嚢沙之計から1週間。
北の砦周辺の水は引き、閉じ込められていた兵団は動けるようになったが、兵士は流され半分に減少し、士気もかなり低い。
「大王様、砦周辺の水は引き、進軍可能となりましたが」
「長時間水に浸かっていたことの疲労感と、それに伴う食料不足で、兵の指揮が著しく低下しております」
砦司令官の報告に亜父はご苦労とあいさつし、大王と話し始める。
「大王様、申し訳ございませぬ、私の読みが甘うございました」
大王に深々と頭を下げる亜父を、大王は庇うように話す。
「良いのだ亜父」
「俺こそ短慮を起こし、見事敵の策略に引っかかってしまった」
激高すると思っていた大王が、このような言葉を発した事に、亜父は驚いた。
此度のことで大王様の心は弱くなってしまったのかもと心配した亜父だったが、次の報告でそれは杞憂だったと気づく。
「報告します!先日よりラビット共の攻撃により中央・南の砦は陥落!」
「現在咸陽で戦闘が発生しておる模様です!」
最初の報告者に入れ替わり、項伯配下のコボルトが報告を行う。
「報告します!2日前の攻撃で咸陽落城!」
「現在射陽侯と熊武将1名が捕らえられ、2名の熊武将が逃亡!」
「各所にいた兵団20000、及び500の空挺部隊は壊滅した模様です!」
この報告に、亜父は言葉を失くした。
「20000の兵団が全滅だと?」
「そればかりか500の空挺部隊まで…」
「一体どんな手を使えばそのようなことが可能なのだ?」
呆然とする亜父を横に、レドキャップは激怒する。
「なんだと!あいつら攻め込んできたと申すのか!」
「おのれあのウサギ共め!亜父の言う通り殺しておくべきだったわ!」
憤慨するレッドキャップに、亜父は進言する。
「大王、もはや戦争どころではありません」
「ここは一旦停戦し、再起を図りましょう」
ぐぬう、とうなるレッドキャップだったが、亜父の言葉に冷静さを取り戻す。
「わかった、私の従弟熊を使者として送るとしよう」
その言葉に亜父は慌てて止めに入る。
「あのものはなりませぬ!」
「彼は戦闘では役に立ちますが、短慮でこのようなことには向きません!」
必死で止める亜父にもレッドキャップは耳を貸さない。
「大丈夫だ亜父」
「亜奴は肝も据わっておるし、この際経験を積ませてやらんとな」
レッドキャップはそう話すと、従弟熊を呼びつけた。
「今からウサギ共のところに向かい、停戦の話をして来い!」
「書簡は亜父に書いてもらうから、ちゃんとまとめてくるのだぞ」
この言葉に従弟熊はいたく感激する。
「はい大王!」
「きっと大王が素晴らしいと思っていただけるような停戦案を引き出してまいります!」
「その意気じゃ!頼んだぞ!」
レッドキャップが笑って従弟熊を送り出す姿を見て亜父は呟く。
「またこの男の悪い癖が出た」
「突然訳の分からないことをほざき始める」
「この者にこれほど大きな役が務まるわけがなかろう」
「もう…戦闘は避けられないな」
亜父は考えを切り替えて、如何にして兵士を戦える状態に持っていけるかを模索し始めた。
83
咸陽についた従弟熊は、その城壁を見て愕然とする。
「大王の城で…別の旗が翻っている!」
城壁を見上げると、そこには何本ものラビット国の旗が揺らめいていた。
「まことに…咸陽は落ちたのか」
がっかりとする従弟熊に、捕まっていた陸賈が入り口で礼を取り出迎える。
「お前はイワイの使者の…」
従弟熊がすべてを言い終える前に陸賈が話し出す。
「使者殿、お待ちしておりました。ささ、中へ」
「丞相(孔明の役職)も御史大夫(陳平の役職)もお待ちです」
なんの事かわからずに中の貴賓室へと案内される従弟熊。
そこには孔明と陳平が、豪華な料理を用意して待っていた。
「使者殿、お待ちしておりましたぞ!」
「ささ、上座の方へ!」
訳も分からぬうちに上座に座らされた従弟熊。
孔明は酒を注ぎながら語り掛ける。
「…それで、亜父殿はどのようなご用件であなたを使わされたのです?」
?となった従弟熊
「いえ、私は大王の使者で来たのだが…」
「フフフ、警戒しておられるのですね?」
「大丈夫です、ここには私たちしかおりませんので安心してお話しください」
二人は従弟熊に話しかけながら、ある書簡を見せる。
そこには亜父と古参熊たちが、各砦及び咸陽の戦力を事細かに記して、どの様に配置・対応してくるかを詳細にまとめてあった。
「これは…亜父たちは裏切っていたのか!」
この言葉を聞いた孔明と陳平は、ぱっと飛びのき従弟熊に告げる。
「まさか…本当に大王の使者だったとは!」
「者ども!出合え出合え!」
その一言で一斉に駆けつける護衛兵たち。
捕まってはなるものかと、護衛団を突き飛ばし、城内から脱出する従弟熊。
その逃げ出した姿を見つめる2人に、馬謖が入ってきて話しかける。
「うまくいったようですね」
その言葉に、孔明は満足そうに答える。
「馬謖、見事です!」
「あなたはやはり、兵を率いるよりこちらの才能を伸ばした方がよいようです」
陳平も答える。
「私の策の概要をよく理解して脚本できた、馬謖殿の才は素晴らしいですね」
二人の誉め言葉に、馬謖は謙遜しながら答える
「いえいえ、これは使者に問題があったのですよ」
「ただ考えが回る使者であれば、策は見抜かれていたかもしれません」
思惑通りに事が運び、三人は胸をなでおろす。
「さて、これでこちらの手札は切った」
「あとはレッドキャップがどう動いてくるかだな」
孔明は次の策に移る準備をする。
84
韓信の森の先にある荊州城。
四角い城の形で、地方にしてはかなりの規模の城となる。
その中で宋の民約15000程度が暮らしている。
その面全てに大きな門があり、うち3つは各他城へと道は続いている。
森から城までの直線距離は5kmほどで、その城の周りには平原が広がる。
周辺ではあちこちで反乱が発生して、常に軍を派遣している状況だ。
その中で2日前に兵3000を連れイワイ討伐隊を出したため、城内の兵力は2000に満たない。
しかし、荊州城は城壁が高く、攻め入るには相当数の兵力が必要となり、守備する官軍の将『コエンシャク』は、戦上手の為に誰も攻め入るようなもの達はいなかった。
そしてその夜、荊州城の城内に次々と武士の出で立ちの者と黒服の者数十名が穴から現れた。
現れた黒服の者たちは、森に一番近い東側の門を一瞬で制圧、開門する。
城内の兵たちが何事かと起きてくるも、時すでに遅し。
門より大群の韓信・ピット連合軍の兵士が突撃してきた。
慌てて起きてきたコエンシャクは、目の前に現れた武将と対峙した。
「我が名はラビット王国の武将、加藤清正である!」
「名のある武将とお受けした!いざ尋常に勝負!」
名乗りが終わると同時に、清正自慢の槍をコエンシャクに撃ち込んだ。
コエンシャクは両腰に差した双鞭(鉄製の棒)を取り出し、打ち返す。
清正が槍を突くとコエンシャクが後ろへ飛び、獣化した足で瞬時に清正へ飛び込んでくる。
清正は双鞭を槍の中央で止めて一気に押し戻す。
押し戻したところへ連続で突きを繰り出すが、コエンシャクは側面へ走り、清正の右肩の方から飛び込んでくる。
無防備の側面を取り、コエンシャクの一撃が決まると思われた瞬間、双鞭を清正の2本の腕ががっちりと捕まえる。
「なんだと?!」
訳が分からず硬直したコエンシャクの側頭部を、槍を捨てた清正の左右からのパンチがコエンシャクの頭部を兜越しに捉えた。
地面に倒れたコエンシャクは、朦朧とした意識で清正を見上げる。
「腕が…4本…だと」
コエンシャクはそのまま気絶してしまう。
「悪いな、拙者はケラだから手は4本あるのだよ」
そう話しながらコエンシャクを縛り上げると、半蔵より報告が入る。
「城の兵は皆始末した、あとは民間人だけだ」
うむと頷き、清正は勝鬨を上げる!
これにて宋の前線基地である荊州城は、一夜にして陥落となった。
85
時は少し戻り、荊州城攻略前の昼。
宋軍兵団はけもの道を2列に歩いて進軍した。
周りは鬱蒼とした森で、そこを抜けると道の両側を崖が切り立ったところに出る。
どちらにしてもここを進むしかない宋軍は、同じく2列でここを抜ける。
先頭の部隊が渓谷を抜けようとしたところで、突然崖から岩が落ちてくる。
中央にあった補給用の荷車と弓兵たちが、次々と下敷きになった。
落盤が終わると、次は矢の雨と炎の魔法が降り注ぐ。
宋軍は無抵抗のまま次々と倒れていく。
「ハッハッハッ!趙の時に出来なかった策が、まさかこの世界でやれるとはのぅ」
高笑いをする韓信の軍師・李左車。
「おのれ!イワイの奴らに計られた!」
豹の姿である百将軍が崖を駆け上ろうとすると、正面の武将に呼び止められる。
「ほう!宋国の武将は正面に敵が現れると崖の上に逃げるのが常識らしいな!」
「なんだと!」
正面を向くと、がっちりとした狐の大男がクイの上に跨っていた。
「我が名は韓信様の家臣、樊噲(はんかい)である!」
「宋軍指揮官の仕事が逃げる事でないのであれば、この俺と戦え!」
「なにを!森に棲んでる狐風情の分際で!」
「この官軍の百勝将が相手をしてやるからありがたいと思え!」
樊噲の安い挑発に百勝将は受けて立った。
後方では天目将が混乱した部隊の収拾に躍起する。
そんな中、後ろから顔に入れ墨がある狐が斧槍を持って近づいてきた。
「ほう、この部隊は豹の将軍が束ねているのか?」
天目将は振り返り、顔を見てギョッとする。
「誰だ、貴様!」
「俺の名か?」
「俺の名は九江王・英布!」
「皆には顔の入れ墨にちなんで黥布(げいふ)と呼ばれてる」
さてと、と黥布は首を鳴らしながら天目将に近づく。
「抵抗してもいいぞ?どうせ捕まえるから」
この言葉に天目将は怒りを露にする。
「ほざけ!この罪人(顔の入れ墨は罪人を意味する)が!」
天目将は槍を持ち黥布に突撃を行った。
奇襲後1時間も経つと戦場は大分静かになる。
下に降りた李左車のもとに、樊噲と黥布は縄で縛った将軍を連れてきた。
「お二人ともお見事ですな!」
その言葉に二人は見合って笑いだす。
「こう言っちゃなんだが、あまり大したことなかったな!」
「やはり人型まで進化しないと本領発揮できないようだ!」
なるほど、なるほどと、李左車は頷く。
「では樊噲殿は、連れてきた1000の兵と軍事物資をもって淮南の街へ進んでください」
「黥布殿と私は、残りの兵500とこの二人と捕虜を連れて、このまま荊州城へと向かいます」
李左車は指示を出すと、500の兵を連れてそのまま荊州城へと向かった。
86
荊州城陥落から半日、韓信は無事入場を果たす。
クイに跨り城内を歩くと、昨日の混乱から覚めやらぬのか、住民が家の中からこそこそと韓信たちを覗いている。
中央にある城の中に入り、応接の間にて皆と合流した。
「清正殿、半蔵殿、此度の荊州城陥落お見事でした!」
「お褒めに預かり恐悦至極でございます」
「韓信様、いや、今は荊州王・韓信様でしたな」
あえて言い間違える清正に、韓信は申し訳なさそうに答える。
「しかし宜しいのでしょうか?」
「こちらはピット王が落とされた城」
「私が頂くのは申し訳ないのですが…」
韓信の言葉に清正は答える。
「王がいいと言っているので宜しいのではないのでしょうか?」
「恐らくですが、人使いの荒いうちの丞相が荊州王に、ここを起点に宋国を統一してくださいと言っているような気がします」
清正のその言葉に、韓信はそれではと答える。
「わかりました、それではここの統治はお任せ下さい」
「これからは宋国統一を目指してまいります」
「では捕虜の身柄は、レッドキャップの件が終わるまでの間此方にて預かっておきます」
あい分かり申したと清正たちは告げ、一礼して国へ戻って行った。
「李左車先生」
「晴れて荊州城の主となったのだが、住民たちが不安に慄いている」
「宜しければ知恵をお借りしたい」
韓信の言葉に、李左車はふっと笑って韓信にこたえる。
「はて、どこかで聞いたことのある言葉ですな?」
「では、私の言葉を1000ある愚者の知恵の一つとしてお聞きくだされ」
「城民は今、魔族の圧政から解放されましたが」
「あなたのことが何者か分からずに困惑しております」
「この際、兵をゆっくり休ませ、国庫にある財産や食料を必要な分以外民へと施します」
「また、戦争孤児や負傷者を助ける事を率先して行います」
「そうすれば、城民はあなたを王として認め、今後必ず協力してくれるものと思われます」
「また、その事は周辺のもの達へと伝わり、行く先々で荊州王が統治してくれることを望むはず」
「その時攻め入れば、皆がこぞって協力し、結果宋統一を実現しやすくなると思われます」
「なるほど、やはり先生には敵いませんな」
韓信は李左車に敬服し、後程合流した張良・蕭何たちと今後の話を行った。
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「報告します、ただいま咸陽に赴いておりました使者様がお戻りになりました!」
この言葉を聞いたレッドキャップは急いで執務室に呼び寄せる。
しかし、執務室に入ってきた使者の従弟熊は、ボロボロになった服での登場となる。
「どうしたその姿は?一体何があった?」
レッドキャップの質問に、従弟熊は亜父を睨みつけて言い放つ。
「はい大王、私は咸陽から命からがら逃げて参りました」
「最初はウサギ共の丞相たちに賓客として扱ってもらいましたが」
「私が亜父殿の使者でないと分かった途端、私を殺そうとしてきたのです!」
「なんだと?どういう事だ!」
感情高ぶるレッドキャップに従弟熊は真相を告げる。
「そこの亜父と古参の熊武将たちが、大王を裏切りラビットたちと裏で繋がっておったのです!」
「亜父が?馬鹿を申せ!」
憤慨するレッドキャップに、従弟熊は証拠があったことを説明する。
「間違いありません大王!」
「敵の丞相が持った書簡には、上層部しか知りえない各砦の戦力や咸陽の戦力、援軍の配置先や数まで事細かに書いてありました!」
「あれは知らないものに書けるものではありません!」
断言する従弟熊に、レッドキャップはついに亜父を責めだす。
「亜父、これはどういうことだ!」
亜父は冷静に大王に進言する。
「大王様、従弟熊殿、騙されてはいけません」
「これは反間計(はんかんのけい)の離間策でございます」
「我らは決して大王様を裏切ってはおりませぬ!」
「しかし、私が見せてもらった書簡には、上層部にしかわからないことが書いてあったぞ」
従弟熊の反論にも亜父は冷静に対応する。
「では聞くが、その書簡は間違いなく私の字であったか?私の印は押してあったか?」
「使者というものはそこまで把握して、冷静に事を見極めねばならぬのだ」
この言葉に従弟熊は逆上する。
「そんな時間はなかった!俺はその場で殺されそうになったのだぞ!」
「俺じゃなかったらあの場で捕まっておったわ!」
亜父は心の中で呟く。
だからこいつには使者は務まらぬといったのだ!
目先の事ばかりに囚われて、大事な本質を見落としてしまう。
そこを諫めれば自分は悪くないとばかりに反論する。
こやつは大王家の悪いところばかりを引き継いでおる…
黙って聞いていたレッドキャップは、亜父に口を開く。
「亜父の言葉もわかるが、従弟熊の言うことも尤もだ」
「なぜ上層部しか知らぬ機密をウサギ共が知っておる?」
「それは…」
亜父は言葉に詰まる。
亜父には分かっていた。
古参の者たちの中に本当に裏切っている者がいるということを。
しかし、それを自分ではないと証明する術はない。
「大王、どうかわたしを信じてください」
頭を下げる亜父に、従弟熊は詰め寄る。
「大王!証拠がないものを信じてはなりませぬ!」
レッドキャップは困っていた。
亜父を信用したいが、証拠はない。
しかし、裏切り者がいるのも確か。
しばしの沈黙に、亜父は思う
(そうか、長年使えてきた私の言葉だけでは信用に値せぬか)
亜父はふっと息を吐き話す。
「わかりました大王様」
「もし宜しければ、私の生まれ育った森で、少し休ませて頂いて宜しいでしょうか?」
亜父の言葉にレッドキャップは何もいわなかった、いや言えなかった。
すっと頭を下げ、亜父は退廷する。
そのまま自室にも寄らずに、亜父は砦を出ていった。
自身が生まれ育った森の方向ではなく、韓信領を隔てる川のほとりに着くと、何者かが声をかける。
「レッドキャップの丞相、亜父であるな!」
亜父はすっと振り返ると、カマキリたちが立っていた。
「お前の顔は見覚えがあるぞ」
「確か鴻門の会におった大酒呑みの母里太兵衛だな?」
「いかにも、母里太兵衛である!」
亜父は思った。
(そうか…己の知恵と生涯を費やして、大王様を覇者にしようとした結果がこれか…)
(私はいったいどこで間違ってしまったのだろうか?)
(いや、これは天命なのだろうな…)
亜父は腰につけた刀を抜く。
「よいか!お前たちの主人ピットに伝えよ!」
「私はここで散り逝くが、貴様がこれからどのような政を行っていくか、あの世で見ておいてやるわ!」
「お前の王も漢王のようにならねば良いがのう」
そう話すと、自身の腹を刺し川の中に身を投げた。
「しまった!亜父を助け出せ!」
慌てて動き出す黒田家臣たちだったが、亜父の体は濁流に吞み込まれていった。
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黙ったまま政務室から動けずにいるレッドキャップに、従弟熊が報告を伝える。
「大王、今しがた兵より報告があり…」
何も話せずにいる従弟熊。
「なんだ!早く話さないか!」
その言葉にビクッとなりながらも報告を続ける従弟熊。
「はい、亜父殿が…ラビットの手の者に追い詰められて・・・自身を剣で貫き川に身を投げたとの事です」
この報告に声も出ず固まってしまうレッドキャップ。
「申し訳ありません、私は敵に踊らされて亜父を死に追い込んでしまいました」
その場で土下座し詫びる従弟熊。
項羽はその場に突っ伏して泣いた。
「亜父!すまなかった!」
「俺が亜父を信じることができず」
「答えに迷ってしまった為に、亜父を死に追い込んでしまった!」
どれほどの時間が流れたであろうか。
レッドキャップは立ち上がり、皆に号令をかける。
「皆の者、出陣じゃ!」
「今からウサギ共を討ち取って、亜父への手向けの花にする!」
この言葉に、俯いていた兵士たちの心に火がともる。
「亜父の敵討ちだ!」
「ウサギ共を血祭だ!」
「咸陽を奪い返せ!」
皮肉にも、亜父が死んだことにより兵の士気が高まった。
「出陣!」
レッドキャップのその言葉に、守備兵100を残し、総勢約7000は咸陽へと向かった。
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レッドキャップの進軍が始まった。
兵数約7000名は連れてきた旗本兵800と生き残った魔物兵4000。
それと北の砦の守備兵2000のうち1900を編成した部隊である。
精鋭と言っても、魔法兵はすでになく、弓兵が200程度。
そして、食料がほとんど残っていない中での進軍である。
それでも、誰一人脱落しないのは精鋭たる所以であろうか。
道も半ばに差し掛かるころ、後方より斥候兵が報告を行う。
「報告、北の砦がラビット兵団により陥落いたしました!」
この報告に、兵は動じなかった。
「そうか、ご苦労!」
レッドキャップはその一言だけ発し進軍を再開する。
間もなく、後方から土煙と怒号が聞こえてきた。
「申し上げます!後方部隊が敵兵団と戦闘に入りました!」
「どれ程の兵力か?」
レッドキャップの質問に、兵は震えながら答える。
「それが・・・攻撃を仕掛けているのは敵兵20名程度と思われます!」
「その兵たちが次々と後方兵団を潰して行っております!」
「なんじゃと!」
驚きを隠せないレッドキャップ。
「大王!ここは私が参ります!」
従弟熊がレッドキャップに並びそう告げる
「私の軽率な言葉で亜父を失くしてしまいました」
「せめて奴らに一太刀浴びせて、亜父へ謝りに行きたいと思います!」
「わかった、ただ、死に急ぐなよ!」
震える声で話すレッドキャップに、従弟熊は拱手をして踵を返した。
「旗本隊200は我に続いて後方の兵団を撃ち破るぞ!」
「「応―!」」
後方にいた200の兵団も踵を返して従弟熊と一緒に下がって行った。
レッドキャップは振り返りもせずに、自身は咸陽に向けて走り出す。
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後方に進むにつれ、旗本たちは恐怖を感じた。
そこでは規格外の何かが大暴れをし、爆発や土煙、悲鳴などがいり混じって聞こえてくる。
その現場に到着した時、皆は目を疑った。
人が空を飛び回り、爆薬や手裏剣を投げ、下では風魔法の真空斬りを行い、魔物たちが無抵抗に倒れていく姿を。
それでも魔物たちは誰一人逃げずに、その異形の者たちと戦っている。
従弟熊たちはその中に突撃し、ゴブリンたちに指示を出す。
「お前たちは100歩下がり陣を構築せよ!」
「その間俺たちがこの場を凌ぐ!」
戦っていたゴブリン・コボルト・オークたちは急いで下がり、盾を並べて、道いっぱいに壁を作った。
たとえ相手が飛んでくるとしても、それしか手はないからだ。
5分ほどで陣を構築し、前方に備えたときにはすでに戦闘は終了していた。
「まさか…みんなやられたのか?」
土煙が過ぎると、そこには黒づくめの男たちだけが立っており、地面には討ち取られたであろう旗本たちが転がっている。
黒づくめの男たちはゆっくりと近づいてくるが、魔物たちは誰一人として逃げ出そうとしない。
その姿を見ていた1人の男が名乗りを上げる。
「我が名は百地丹波、伊賀衆の頭領である」
「お前たちはこれほどの戦力差があると分かっていてなぜ逃げぬ?」
「我らは逃げるものは追うなと王から仰せつかっておる」
「今からでも逃げるがよい、我らはレッドキャップのみを倒せばよいのだ!」
百地の説得にも誰一人動かない魔物たち。
やがて一人のゴブリンが百地に返事をする。
「あんたがこの化け物たちの親分か?」
「俺たちは死んでもここを動かねぇ!」
では、と進もうとする部下を百地は制す。
「一体なぜそこまで義理立てをする?」
「あの熊はお前たちの森で虐殺をしたような輩であるぞ!」
その言葉に、魔物たちは激しく抗議する。
「レッドキャップ様を悪く言うな!」
「あの方は俺たち下級の魔物たちを同じ仲間として引き入れてくれたんだ!」
なんだと?と思いつつも黙って聞く百地にゴブリンは話を続ける。
「俺はなぁ、初めてできた子が女の子でよぉ」
「とてもかわいくてしょうがなかった」
「だがよぉ、そんな可愛い娘がエルフの奴らに射殺されてしまったんだ」
「ただ自分たちの領域に入ったからって理由でだぞ?」
「1歳の娘にそんことがわかるわけねえだろ!」
「あいつら俺たちが何言ったって聞いてもくれやしねぇ」
「ただ、下級魔物がこの森で生きていけるだけでもありがたいと思えとか」
「俺たちを感情のねぇ生き物かなにかと思ってやがるんだよ!」
涙を流しながらゴブリンは尚も訴え続ける。
「そんな俺たちの話をレッドキャップ様は涙を流して聞いてくれて、娘殺しに加担したエルフたちを倒してくれたんだ」
「その時俺は決めたんだ」
「たとえ全てが敵になっても、俺だけはこの方を信じて戦うと!」
その言葉に、守りを固める魔物たちは雄たけびを上げる。
「どうせ俺らじゃお前たちに勝てないことは分かっている!」
「だがなぁ、俺ら一人も降伏はしないからな!」
そう言い終えると、守りを固めた魔物たち。
百地は忍者衆に指示を出す。
「5人は奴らの後方に回り、援軍として行かせないようにしろ」
「残りはレッドキャップを追え」
ハッ!の声と共に忍者衆は指示のとおり動き出す。
「ここにいる魔族に告げる!」
「お前たちの勇気を讃え、私はここでお前らを監視する!」
「もし動けば貴様らを皆殺しにする!」
「しかし動かなければ私はここに残り貴様らの監視を続ける!」
そう告げると、百地は地面に腰を下ろし胡坐をかいて目を瞑る。
そうだ、思い出した。
前世で俺は同じような光景を見て、殺してきていたのだ。
まさか転生してまで、それを繰り返したくはないものだ。
今の王なら、私の行いも分かって下さるだろう。
百地はふっと笑って瞑想を続ける。
91
進軍を続けるレッドキャップと旗本600騎。
突然、伏兵が森の中から次々と隊列の側面に対して攻撃を開始する。
混乱する旗本隊はレッドキャップに告げる。
「大王様、お進みください!」
「我々は奴らを撃ち倒した後に合流いたします!」
「わかった、先に咸陽で待つぞ!」
レッドキャップは前に残った100騎程の旗本と共に前へと駆け出した。
「大王様、どうかご無事で…」
旗本500騎は、数も知れない伏兵団との戦闘を開始する。
ここでクイに乗って林冲が現れた。
「レッドキャップの兵団よ、おとなしく投降しろ!」
「降伏すれば命までは奪わない!」
林冲の呼びかけにも、旗本たちは誰一人として応じない。
「我々はレッドキャップ様に忠誠を誓ったもの達」
「その最後の瞬間まで我らは戦い続ける!」
ならば止む無しと、林冲は一気に攻勢を掛ける。
八十万禁軍棒術指南の槍裁きは強烈で、手練れである旗本たちの殆どの者が林冲に討ち取られた。
全てを倒し終えた林冲は、レッドキャップを捕らえるために追撃を行う。
咸陽に向けて駆けるレッドキャップたちを、突然の雷撃が道を塞ぐ。
雲に乗って現れたのは混世魔王・樊瑞。
「レッドキャップよ、おとなしく降伏しろ!」
「さすれば部下の命は全て保証する!」
樊瑞の勧告にレッドキャップは言い返す。
「笑止!ここまで来て命を惜しむものなど我が配下に一人もおらぬわ!」
そう言い終えると、レッドキャップは口から次々と火の玉を繰り出した。
樊瑞は火の玉を避けながら雷撃を撃ち込むが、騅はそれを軽々と避ける。
「やりますな!わしの雷撃をこうも軽々と避けるとは!」
感心する樊瑞に旗本は次々と矢を射かける。
「大王様、ここは我々が相手を致しますので進んでください!」
旗本たちの言葉にすまぬと言葉を残し、レッドキャップは駆け出した。
旗本たちは少しでも時間を稼ぐため、散開し矢を射る。
そして、矢も尽き攻撃手段を失くしたころには、皆地面に転がっていた。
「天晴!レッドキャップの旗本たちよ!」
「わしはここまでじゃが、あとは黒田勢が何とかするじゃろう」
長い一日は終わり、森の日は暮れていく。
92
レッドキャップは道から外れ、草木をかき分けながら森の中を歩いていく。
やがて、湧水が出る場所につき、騅と共に喉を潤して休む。
突然、茂みが揺れ動く!
もはやこれまでか…と覚悟を決めたレッドキャップ。
「大王様?」
出てきたのは見覚えがある2頭の熊。
「お前たち!生きていたのか!」
「大王様こそよくぞご無事で!」
レッドキャップと咸陽から逃亡していた武将熊はここで邂逅した。
3頭は今まで起こったことの話をすり合わせる。
「そうか…咸陽は見たこともないもの達に落とされたのか…」
「はい、我ら2頭で『弁慶』なるものと戦ったのですが、全く歯が立ちませんでした」
「さらに他の者も尋常ではない戦闘力でございました」
「あのようなもの達がまだまだいるとなれば、この世界でウサギの国に勝てるものは殆どおりませんでしょう」
しばし沈黙する3頭。
「して、亜父殿は?」
その質問に、レッドキャップは胸をえぐられる気持ちになる。
「亜父は…亜父は私のせいで死んでしまった」
「私が亜父を信用できなかったから…」
肩を震わせてむせび泣くレッドキャップ。
2頭は悲しみを堪えつつ大王に進言する。
「大王様、ご自身を責めになりますな」
「亜父様もきっと大王のその様な姿は見たくないと思われますぞ」
3頭が肩を寄せて話す中、何処からもなく唄が聞こえてくる。
「この唄は…」
3頭ともその唄のことは全く知らない。
ただ、その唄を聞くと、自然と涙が溢れていた。
「何故だろう…聞いたこともない歌詞なのに涙が止まらぬ」
「だがこの旋律は…とても懐かしさを感じる」
「これはきっと…そう、遠い昔によく聞いていた故郷の唄だったのかもしれぬ」
3頭は唄を聞き只々涙を流した。
レッドキャップはふと小川の辺に咲いた花に気づく。
「あの美しい花は何というか?」
「あれは『虞美人草(ぐびじんそう)』でございます」
武将熊の言葉を聞き、何かを思い出したようにレッドキャップは唄い始める。
力山を抜き 気世を蓋ふ
(私の力は山をも動かし 気迫は世界を覆うほどだが)
時利あらずして 騅逝かず
(時勢は私に不利であり 騅は進もうとしない)
騅、逝かざるを 奈何(いかん)すべき
(騅が進まなければ 私に何ができるというのか)
虞や虞や 若(なんじ)を奈何(いかん)せん
(虞や虞や 私はあなたに何がしてやれるというのか)
「大王様、その唄は?」
「わからぬ…」
「ただ、自然にこの唄が浮かんできたのだ」
「そうですか…ただ、とても悲しい唄でございます」
焚火の中で涙を流す3頭。
やがて、レッドキャップは意を決したように武将熊に告げる。
「明日咸陽へ行き、ウサギに会ってみようと思う」
2頭の熊は驚き、レッドキャップを止める。
「大王様、なりませぬ!」
「ラビット王はともかく、まわりの者は決してそれを許しませぬ!」
「このままむざむざ捕まるくらいなら、隣国の『秦』や『宋』」
「離れておりますが『魏』を頼るべきです!」
2頭の必死の説得にレッドキャップは首を振る。
「私はな、興味があるのだよ」
「我々をここまで追い詰めた強敵のことが」
「もし会えば、なぜ私が負けたのかわかるかもしれないと思っておる」
「このまま他国でみじめに暮らすより」
「晴れた気持ちでウサギ共に会い、戦って散りたいのだ」
「大王様!」
悟った大王の足元で泣き続ける熊武将。
やがて、2頭は泣き止み拱手する。
「大王様、我々も最後までお供しますので宜しくお願いします!」
「すまぬな、このようなことに付き合わせて」
「いえ、我ら最後まで一緒に居られることに喜びを感じておりますので!」
その後、3頭は現世に生まれてからいろいろなことを語り明かした。
そして明け方、3頭は立ち上がり咸陽へと向かった。
93
咸陽の門に立ち並ぶ3頭の熊。
「ラビット王よ、いるか!」
「レッドキャップが直々に此方へ参ったぞ!」
暫くすると、城壁に3人の人影が現れた。
「そこの人間ども、ラビット王はおらぬのか!」
城門の3人に声をかけると返事が返ってきた。
「レッドキャップ殿、私がラビット王国の王、ラビット・ピットである!」
その言葉にレッドキャップは驚くも、やがて笑い始める。
「ハッハッハッ!そうであったか!」
「ラビット王はウサギから人間に進化しておったか!」
「なるほど、熊武将が言っておったのはこの事だったのか」
暫く笑った後、レッドキャップは一騎打ちの申し出を行う。
「ピット王よ!」
「部下の話によるとお前の家臣は猛者揃いらしいではないか!」
「お前の家臣でだれか私と一騎打ちを望む武将はおるか!」
「その言葉待っておったぞ!」
レッドキャップたちは声の方を見ると、ボウイ・林冲・母里太兵衛が現れた。
「俺の名はラビット王国最強の戦士。ラビット・ボウイである!」
「レッドキャップ殿の強さは周りの者たちから聞いておった!」
「宜しければこの私と矛を交えてもらえるか?」
「良かろう!掛かってこい!」
ボウイの申し出に、レッドキャップは快く受けて立つ。
「我ら二人が武将熊の相手をしよう!」
「応、望むところよ!」
林冲と太兵衛も武将熊2頭と一騎打ちに入る。
ボウイは今回、バトルアックスを鉄製の禅杖に替えて挑む。
ボウイが突撃してくると、レッドキャップは炎の玉を吐く。
右に避けた瞬間、横殴りの斧槍が飛んできてボウイの側頭部を狙う。
両手で持った禅杖で受け止めると、間髪を入れずにファイヤーボールを撃ってくる。
慌ててバックステップを踏み回避するが、レッドキャップはこの瞬間を見逃さない。
斧槍で突きまくり、ファイヤーボールを撃ち込んでくる。
堪え切れなくなったボウイは、低姿勢になり左脇下へ潜り込もうとするが、レッドキャップの回し蹴りが飛んできて吹き飛ばされる。
立ち上がっては果敢に攻めるボウイ。
しかし、その攻撃は全て跳ね返され、ボウイは幾度となく地面に倒される。
このような攻防が繰り返され…
ボウイは地面を転がりながら立ち上がると、レッドキャップは追撃せずに斧槍を地面に立て、ボウイを煽る。
「この程度がラビット国最強の戦士だと?笑わせてくれる!」
この言葉に、ボウイは立ち上がり一礼する。
「さすがはレッドキャップ殿!」
「同じ条件での勝負でと考えたが、あなたには全く歯が立たなかった!」
「これからは俺の最終形態で挑ませてもらう!」
この言葉でボウイは半獣化し、武器を禅杖から背中に隠していた鉄製のトンファーに持ち替える。
「ほう、これが噂に聞く半獣化か!」
つぎの瞬間、ボウイが一瞬でレッドキャップとの間を詰めてくる。
ここまで張り付かれると、斧槍もファイヤーボールも使えない。
至近距離でボウイは一気にラッシュをかける!
右・左・右・左と高速で繰り出される打撃は、レッドキャップを容赦なく襲う。
トンファーによる無数の打撃がレッドキャップの全身にヒットしていく。
ガードを固めるレッドキャップだが、その上からでも遠慮なく打撃を受ける。
「なんてことだ…これが…半獣化…強い…」
意識が飛びながらもなんとか踏ん張り続けるレッドキャップ。
やがて、レッドキャップは立ったまま気を失ってしまった。
ボウイは攻撃をやめて、一礼をする。
「やはり俺が半獣化できなかったら勝てる見込みなどなかった…」
ふとまわりを見ると、二人とも半獣化し武将熊を倒したところであった。
こうして、レッドキャップと2頭の熊は捕らえられ、レッドキャップ戦の終了を告げた。
94
遂に俺の信者たちが森の平和を取り戻した!
あの序盤で狼に捕食されそうになっていた子ウサギたちがこんなに強くなりましたよ!
一時は虫と小動物でどうやって信者作るんだって絶望したけど、まさかこんなことになるとは思いもしなかった!
しかしレッドキャップの奴やばかったな!
こっちが御神体(熊)での領域展開と、『スキル・リミッターカット』していなかったら、半獣化のボウイでも分からなかったかもね。
おぅ、妖精さんたちとドライアドたちが俺を祝福してくれている。
「やったね、ジャスティス君!」
おお!ルリエンさんも嬉しそうだ。
この森から捕虜以外の魔族を全て駆逐できたからね!
よし、久しぶりにステータス確認だ!
ステータス確認
【氏名:よしだ・じゃすてぃす・ひーはー(笑)】
【4/15 18:21:35】
【ランク:魔を狩る殺戮神】
【精神力:223,845k】
【精神力消費:「1,1204k/1日・0/1時間・0/1分・0/1秒】
【精神力増加:「10,652k/1日・0/1時間・0/1分・0/1秒】
【領域:10550m(本部)】
【領域:10000m(狸)】
【領域:10000m(熊)】
やったー森の神から魔を狩る殺戮神にジョブチェンジしているのだが??
「そりゃそーだよ、あんだけ魔族や魔物殺しまくっていたらさー」
えールリエンさんそりゃないよ!
だって魔族退治しろって言ったのはルリエンさんじゃないか!
しかも俺見ていただけで信者が暴れまわっていたんだよ?
「でもさ、ジャスティス君をこの世界に送ってくれた人には感謝しているよ!」
おっ、ありがとうございます!
なんか美人さんから真面目にそう言ってもらうと惚れちゃうんだけど。
「あはは、ジャスティス君上手だね!」
いや、けっこうマジな話なんですけどね?
「魔族がこの世界をほぼ掌握して、他の種族は虐げられ絶望しているけど」
「規格外の者たちが出て来て、やっと希望が持てるようになったからね」
「特に虫系の人たちはやばいな」
そうなんだよね。
虫って普段小さいから何とも思わなかったけど、あいつら身体能力がとんでもないんだよね。
しかも、全員全ての言葉が聞けるようになっているから、転生者ちょくちょく見つけてくるし。
「ジャスティス君!先は長いけど、どうか平和な世界を作ってね!」
任せてルリエンさん!もうすでに殺戮神だけど、平和のために頑張るから!
とりあえず精神力溜まっているし、御神体と個人にスキルでも与えておこう。
亜父は目を覚ますと、ベッドの上に横たわっていた。
まわりでは白い服を着た看護師が所狭しと走り回っている。
顔だけ上げてまわりを見てみると、魔物やレッドキャップの旗本たちが治療を受けている。
「ここは…わしは死んだのではなかったのか?」
その言葉に看護師が答える。
「あなたは川に落ちた後、蜂須賀さんたちが助けてくれたのですよ!」
「彼らはビーバーだから泳ぎがうまいのよ」
「ここはどこだ?なぜ敵であるわしらを助ける?」
「ここは北の砦よ」
「ここの砦の指揮官が降伏した後、私たちが野戦病院として使っているのよ」
「まぁ患者のほとんどがあなた達のお仲間なのだけどね」
「ピット様はこの戦争でだれも死なせたくないからと、何よりも先に病院を持ってきたのよ」
「あと、食料も届いているからお腹がすいたら言ってくださいね」
慌ただしく説明をすると、看護師は業務に戻って行った。
傷口を触ってみると、縫合した後があり、回復魔法をかけてあるのか、痛みは無くなっていた。
ベッドから立ち周りを見てみると、患者の中に見覚えのある顔を見つける。
「お前は従弟熊殿ではないか?」
その言葉に、目に包帯を巻いた従弟熊が返事する。
「その声は亜父殿!」
「申し訳ありません、私が騙されてしまったせいで亜父殿を大変な目にあわせてしまいました」
「ほんとうに…すみません」
その言葉に手を握り応える亜父。
「良いのじゃ、ワシも早まったことをしてしまった」
「従弟熊殿も早く傷を治されよ」
二人が話している中にボウイに倒された熊武将が話しかけてくる。
「亜父殿、無事で何より!」
「そうじゃのう、ワシもお前も死に損なってしまったようだな…」
苦笑いをする2頭は、ベッドに座りまわりの様子を見る。
「亜父殿、なぜ我々は助けられたのでしょう?」
武将熊の質問に亜父は答える。
「それはな、我々とラビットたちの目標が違うからじゃろうな」
「つまり?」
武将熊は分からず再度質問する。
「我々は如何にしてラビットたちを倒すかを考えていた」
「しかしラビットたちは、この戦争を終わらせた後の世界を考えていた」
「つまり、我々に勝てることは前提だったという事じゃよ」
「そのうえで、宋や秦と戦える兵力を残したのじゃろうな」
「まあ実際あの戦いを目の当りにしたらそうなりますな」
熊武将は苦笑いする。
「それで…今後はどうされますか?」
熊武将の言葉に亜父は少し考える。
「わしは会って話を聞いてみようと思う」
「ラビットの見据えている未来というものに興味がわいてきた」
「たとえ死ぬにしても、その話を聞いてからでも遅くなかろうと思ってな…」
「では亜父殿、私もお付き合いしますぞ!」
武将熊は亜父に拱手を取る。
「あのウサギ…ピット王は、はたしてどのような未来を描いておるのじゃろうな?」
亜父はピット王に会えることを楽しみにしていた。
「あの…」
そんな中、一人の女性が亜父に声をかけてきた…。
95
ディックたちワイバーン隊と行動を共にする義経一行。
現在は森を超えて、宋国と秦国の間にある山岳地帯を北上している。
「なぁディック、お前たちを捕らえた奴らって何者なの?」
この質問にディックは答える。
「俺たちが住んでいるのは、宋国とモンゴル平原の間にある山岳地帯になる」
「ここは俺たちワイバーンが根城にしていたのだが、ある日モンゴルに住む魔族共が、俺たちが狩猟に出ている間に奇襲をかけてきて、子供を攫って人質にしてしまった」
黙って聞き入る義経。
「奴の族長は俺たちに『宋国』と『秦国』を制圧するまで協力をしろと持ち掛けてきたのさ」
「俺たちは子供を人質に取られている為、今は仕方なく協力をしているわけだ」
ディックの顔は怒りで満ちている。
「ちなみに捕まっているのはどれ位いるんだ?」
「大きさは人の子供位で200程度はいる」
「なるほどな、然しその感じだと奴らを探し出すのに時間がかかりそうだな」
義経の言葉にディックの顔が曇る。
「そうなんだよ、奴ら一体どこに俺たちの子供を隠しているのかわからないんだ」
さてどうすべきかと考える義経は、飛んでいるディックに指示を出す。
「おいディック!向こうから来ている雁の群れに行ってくれ!」
一瞬分からなかったディックだったが、そうかと瞬時に理解し単騎で雁の群れに向かう。
ワイバーンが向かってくるのを知った雁たちは慌てて逃げようとする
「雁の隊長にお聞きしたいことがある!」
「頼むから俺たちの話を聞いてくれ!」
二人の声を聞き驚く雁たち。
「なんでワイバーンと人間が俺たちと話せるのだ?」
「お前たちと取引をしたいので知っている情報を教えてほしい!」
雁たちは戸惑ったが、やがてわかったと近くの山頂に降り立つ。
義経たちは、ここまで来る間に魔族を見なかったかと訊ねる。
「それならここから北西に進んだ山の麓に、奴らがワイバーンの子供を調教していましたよ?」
「なんだと!」
怒りを露にするディックを宥めて、義経は交渉を始める。
「雁の皆さん、もしよかったら少しだけ協力をお願いしたい」
「お礼と言っては何だが、これからあなた達がこの山岳を安全に通れるよう、今後はこちらのワイバーンの方たちが護衛をするから、少しの間だけ力を貸してもらえないか?」
「そういう事でしたら喜んで協力します!」
「この山は危険で、毎回仲間たちが命を落としていましたので」
ありがとう雁さんたちと言って、義経たちは作戦の打ち合わせを行う。
96
ここは山の麓にあるモンゴル魔族の調教施設。
ここでワイバーンの子供たちは、将来竜騎兵にするための調教を受けていた。
つまり、魔族たちは最初から子供たちを返すつもりはなかったのだ。
また、この施設にいる子供の奪還を恐れて、3000の魔族兵を詰めさせ、ワイバーン飛来用の対空魔法兵器を配置していた。
また、地上からの攻撃に対しても魔法障壁を張り、内部に侵入できないように展開してある。
ただ一つ、この施設の弱点と言えば、あまりに完璧に防御された施設なので、魔族兵の警戒心が薄くなっていることである。
今夜もいつものように居眠りをしながら見張る魔族兵たち。
そんななか、上空から雁の鳴き声が聞こえてきた。
「最近やけに雁の姿を見るな?」
「ちょうど渡の時期なのだろう?」
魔族兵がこんな会話をしていると、正面から地響きのような音が聞こえてきた。
「なんだ、なんだ!」
守衛の兵が慌て始めると、魔法兵から信じられない言葉が聞こえてきた。
「闇の魔法障壁が妨害を受けて展開できない!」
その瞬間、正面から無数の明かりが見えてきた
「てっ敵襲だ!」
慌てて叫ぶ守衛をたいまつの明かりが次々と空へ放り投げる!
たいまつの群れはそのまま柵を飛び越え施設内になだれ込んだ。
広い施設を所狭しと走り回る松明の群れ。
松明の火は、住居や施設ののゲルに次々と引火して、あちこちで火災が発生した。
消火と、奇襲の迎撃に慌てふためく魔族兵たち。
それを指揮する兵を、松明に乗った武将たちが次々と斬り倒していく。
頼りの対空魔法兵器も地上部隊の攻撃により、一度も火を噴くことなく鹵獲されてしまった。
「このままでは、『ジャムカ』様に我々が処刑されてしまう!」
「ワイバーンを連れて撤退するぞ!」
そう話した司令官は急いで調教施設に向かう。
調教施設が見えたとき、2人の人間が門の前に立っていた。
「誰だ貴様らは?!」
慌てて質問する司令官に、二人は自己紹介をする。
「やあやあ、我こそはラビット王国の源義経なり!閻魔様に九郎に殺されたと伝えておけ!」
「俺の名前はリチャード・ボング!息子を攫った罪は慈悲深い神であろうと決して許しはしない!」
そう言うと二人は半獣化し、司令官たちに襲い掛かる!
ディックは人型の姿で背に翼を生やし、宙に舞いながら双方に持ったマシンガンでファイヤーボール弾をばらまく。
「ぐわー!」「ぎゃー!」
魔族兵の悲鳴の中、義経は2本の刀で次々と魔族兵を打倒していく。
「わかった!降参だ!もうやめてくれ!」
司令官の悲痛な声を聞き義経は大声で叫ぶ。
「皆の者!敵司令官は降伏した!」
「抵抗しないものは降伏とみなし攻撃を行うな!」
こうして、深夜に始まった戦いは夜も明けきらぬうちに決着した。
97
調教施設では戦後処理が始まった。
司令官含め投降者は1500名ほどおり、ワイバーン達にお任せした。
この辺は龍族の国があり、そちらの方に奴隷として売り飛ばすそうだ。
戦利品である武器類は、一部の兵器を除いてこちらもワイバーンの集落に設置予定。
早めに降伏してくれたおかげで、対空魔法兵器などいろいろなものが無傷で手にはいっている。
義経は今回協力してくれた、雁とビックホーンの皆さんにお礼を言った。
彼らによる事前調査により、大まかな兵力・装備数、魔族たちの指揮や行動パターンなどが事前に把握できた。
そして当日、咸陽戦でも活躍した闇魔法アンチエリア発生装置を、蝉丸が乗ったワイバーンが上空で展開し敵の闇の障壁魔法を封印。
続いて、角に2本の松明を付けたビックホーン300頭が施設内に突撃。
高山に住むだけあって、身体能力は素晴らしく、跳躍力と機動性で敵を大混乱に陥れた。
そのままビックホーンに乗って現れた義経の部下たちは対空魔法兵器を無力化、アンチ魔法エリアを解除後、待機中のワイバーン隊が攻撃に参加してそのまま降伏となる。
雁の場合と同じく、ビックホーンも高山を移動中に鷲などに襲われることが多く、その時はワイバーン達が守ってくれることで協力を頂いた。
「しかしよくビックホーンに松明を付ける作戦なんか思いついたな?」
ディックが嬉しそうに義経に質問すると、実はと説明する。
「これは俺の前世で『木曽義仲』って武将が、牛の角に松明を付けて勝利した『火牛攻め』って戦法なんだよ」
「へぇ、お前と言いそいつと言い、日本の武士にはアメージングな奴が多いんだな!」
ディックは笑って義経の背中を軽く叩いた。
(そういえば義仲の奥さんの巴御前はうちに転生していたな…)
義経はそう思いながら、自身も前世の思い人に会える日がいつか来るかもしれないなと想像していた。
これにて、ワイバーン救出作戦は終了である。
98
韓信が『コエンシャク』たちを連れて咸陽へ到着した。
「呼延灼将軍ではないですか!」
林冲は驚いて話しかけるが、コエンシャクたちは覚えていないようだ。
ツキノは早速コエンシャクの目を見る。
「このひと魔族と契約結んでいるよ?」
「自分の意思でやってないから解除は簡単だけど?」
「そんなことがわかるのですか!」
林冲の言葉にツキノは説明する。
「ゴブリンの持っていた魔導書で読んだのだけど、契約結んでいる人は目のどちらかに五芒星があるんだよね」
なるほど、確かにコエンシャクの右目には五芒星らしきものが移っている。
「これが両目と舌にまであったりすると解除はなかなか難しいみたい」
「そもそも、この手の契約を強制的にやったってことは、この人が意識混濁の状態だったのでしょうね」
「例えば良くないお薬や煙とか?」
ツキノの話を聞いて二人の副官が話し出す。
「そういえば、コエンシャク様が、何かの理由で東京(とうけい)に呼び出され、帰ってくると能力が向上し名前を思い出したと話していた」
「意識混濁?もしや、今都ではやっている『阿片』と言う薬を使われたのかもしれない」
2人の言葉に孔明が推測を話す。
「これはあなたたちの国が、コエンシャク殿を強制的に半獣化させるため呪縛をかけたようですね」
「しかもコエンシャク殿が拒否できないよう薬まで使って」
「恐らく魔族が、コエンシャク殿を自分たちの都合のいい道具にしたかったのでしょうね」
この話を聞き、副官たちは納得する。
「そういう事か、『四姦臣』の奴らめ!」
「四姦臣とは?」
孔明の質問に副官たちは説明する。
「今、この宋国は宰相の蔡京を筆頭に、童貫・高俅・楊戩と呼ばれる『四姦臣』が国を牛耳っている」
「こいつらは自身の出世や、保身・利益の為に他の者を全て利用するような奴らだ」
「こんな奴らを重宝している『皇帝』には目を覚ましてほしいのだが、政に関しては全く興味がなく、自身は絵などを描いて過ごし、国のことは全てこの4人に任せている状態」
「そんな状況を知ってか知らずか、隣国の『モンゴル帝国』もこの国を狙っている様子」
「このままでは、我々も国民も全てどこかの国の奴隷となる」
悲観する副将たちの言葉を黙って聞くコエンシャク。
これは魔族との契約のせいで、このことに関しては話せなくなっているであろう。
突然ツキノはチョーカーを外し、胡坐をかいて座るコエンシャクの膝に置く。
「ラビットチョーカー・ブレイク・ザ・カース!」
ツキノの言葉に突然コエンシャクの体が光りだし、黒い豹の姿になる。
「…ここは?俺はいったい何をしている?」
「「コエンシャク将軍!!」」
正気を取り戻したコエンシャクに二人の副将は歓喜する。
事情が分かっていない将軍にこれまでのいきさつを話す。
「そうか、よくわかった」
「そもそも俺が東京に呼ばれた理由は、以前書簡で出していた荊州の領民が不作による年貢の軽減依頼の返事をすると言われたからだ」
「宦官共に香を焚いた待機室に案内され、そのまま記憶が曖昧になってしまった」
「二人には迷惑をかけてすまなかった」
コエンシャクは二人の副官に謝った。
「コエンシャク将軍!」
「我々と一緒に四姦臣を倒しませんか?」
「なんだと?」
林冲の申し出にコエンシャクたちは驚く。
「将軍が守りたい宋国は今や魔族である四姦臣の私物となっております」
「このままではこの国に未来はありません」
「私はこのまま黙って宋国が魔族たちの手に落ちることを見過ごすことができず、ピット王たちに協力をしております」
「そして、私の妻を救い出すために…」
黙って話を聞くコエンシャクたちに韓信が話す。
「荊州攻略時に、我々は宋国の領民には手を出さないよう徹底指示を出しておりました」
「これは国に領民なくして成り立たないからです」
「今の宋国は国の安定の名のもとに領民を苦しめております」
「本来は領民の為に国が努力せねばならない事なのですがね」
この言葉に3人は意を決した。
「あなた達がそこまで言うのなら、我らも信じて協力しよう」
「しかし、もしその言葉に嘘偽りがあったときは真っ先に我らがあなた方の首を取ろうぞ」
コエンシャクたちが念押しした後、進化が始まる。
「荊州の城主をしておりました『呼延灼(こえんしゃく)』と申します」
「呼延灼将軍の副官をしております、天目将『彭玘(ほうき)』です」
「同じく呼延灼将軍の副官をしております、百勝将『韓滔(かん とう)』です』
『連環馬』で有名な呼延灼将軍とその副官2人が仲間になりましたね。
確か鎧で固めた馬同士を繋げて突撃する奴だったな。
と言うか、もはやその人の解説係だな俺。
まぁ神様なんて一定のところまで進んだらそんなにやることもないし、実際生きていたころ?の自分もなんかあったときくらいしか神頼みしてなかったからね。
こうして呼延灼たちは、韓信と合流した。
99
レッドキャップを捕らえてから3週間たった。
今日はレッドキャップたち捕虜の処遇を決める日である。
魔法によって縛られたレッドキャップは、以前の居城であった咸陽の玉座の間へと連れてこられた。
「どれ、玉座でふんぞり返ったウサギでも見てやるか」
そんなことを考え、顔を上げたレッドキャップの正面にある玉座を見上げるが誰もおらず、その階段の下に、背もたれのない椅子を並べて二人の人物が座っており、二人を挟むように両陣営の幹部たちが並んでいる。
「そうか、ラビット自身は他の王と同列であるということか」
「だがなぜだ?ひとりはイワイだとして、あと二人のエルフの王たちがいないようだが?」
そう考える中、韓信が話しをきりだす。
「お久ぶりですね、レッドキャップ殿」
「私は今、イワイから名を変えて韓信となりました」
韓信は縛られたレッドキャップに一礼をする。
「そうか、こういう時はおめでとうとでも言えばよいのかのう?」
笑いながら答えるレッドキャップ。
「ありがとうございます」
「おかげで前世のことも思い出して、皆と当時のことを語り楽しく過ごしております」
韓信の言葉に、それは良かったなと答えるレッドキャップ。
ふと、レッドキャップは双方の陣営を眺める。
並ぶものは皆人の姿となっており、中には思い出せないが懐かしい顔も見受けられる。
(そうか、俺にも前世があるのだな…)
レッドキャップは心の中で呟くと、ピットに向き問いかける。
「ラビット王よ!」
「私は己の力でこの森、そして世界を統一しようと考えていた!」
「貴殿はどのようにして世界を統一するつもりか?」
レッドキャップの質問に、ピットはさらりと答える。
「私は世界統一なんてしませんよ?」
「それでは各王を従える『覇者』になるつもりか?」
「いえ、覇者になるつもりもありません」
レッドキャップにはピットが何をやりたいのかが全く分からなかった。
「では、なぜ王になどになった?」
レッドキャップの質問に、ピットは即答で答える。
「自分が楽しめる国造りですね」
楽しめる国?レッドキャップは思う。
「そうです!そうです!」
「みんなでワイワイやって、何もなかったところに道や家が出来て」
「住んでいる人たちが生活するためにいろんな施設を建てて」
「それでよその国と貿易をしてバンバンお金を稼いで」
「そのお金で国を大きくしたり、事情があって生活が大変な人を助けたりして」
「それで人が集まってきたらまた街を大きくして…」
「こういうのを想像するだけで楽しくなりませんか?」
ピットは子供のように熱く語ってくれた。
あっけにとられたレッドキャップに、今度はピットが質問する。
「それで…レッドキャップ殿は世界を統一した後はどうされるのですか?」
レッドキャップは思った。
自身は世界の王になることを目標として生きてきた。
ただ、そのあとは何も考えていなかった。
答えられずにいるレッドキャップに、ピットは質問した。
「レッドキャップ殿も一緒に私たちとそんな世界を作りませんか?」
俺も一緒にだと?
レッドキャップは驚く。
自身はこの森を混乱に陥れた者で、彼らの多くの仲間たちを殺したりもしている。
そんな自分を仲間に誘うなど普通ありえない!
何も言えずに下を向くレッドキャップに、ピットは今一度聞いてみる。
「ではレッドキャップ殿は、今でも周りの者を傷つけてでも、その夢を実現したいと思っています?」
レッドキャップは少し考えて、素直に答えた。
「今でも世界の覇者になりたい気持ちはある」
「だがそれは、他人を踏みつけてまで手に入れたいものではなくなっている…」
この言葉にその場にいた皆は驚く。
あの、自分の生きたいように生き、欲しいものを手にするためであれば手段を択ばないレッドキャップの横暴な部分がない。
「何故だろうか…以前はどんなことがあっても成し遂げたかったことだったのに」
「今はなぜそこまでして成りたかったのかわからない」
レッドキャップの疑問に、孔明は説明する。
「レッドキャップ殿、それはあなた達がその姿になったことにより、前世の残留思念ようなものがそうさせているのです」
「あなたは前世で、皇帝の行列を見たとき『彼取って代わるべき也』と申しております」
「前世で持っていた強い思いは、現世に生まれ変わったとき、行動の原動力・または足枷になるようです」
「レッドキャップ殿の場合は、原動力である野望が潰えたため、改めて前世の残留思念を冷静に考えることができるようになったのでしょう」
なるほど、孔明らしい正確な分析だと皆が思う。
「そうか…いろいろ腑に落ちなかったことが、ここにきてはっきりした」
(ピットとも話すことができた。もう、思い残すことはない)
「しかし、俺はお前たちと同じ夢を見るつもりはない!」
「俺には俺の、男の矜持がある!」
「ピット王よ、お前の夢が現実になるところをあの世から見ておるぞ!」
やはりか…孔明以下、レッドキャップを知るもの達は皆そう思った。
そんな空気の中、ピットはあきれた顔でレッドキャップに投げかける。
「レッドキャップ殿はそうやって全て終わらせようとしているけど、それって自分でやった後始末を残った人たちに押し付けているだけじゃないのですか?」
「なんだと!」
レッドキャップは怒り出す。
「じゃあ、これから後始末のために残される人たちの言葉を聞いてください」
そう言ってピットは外で待機している者たちの入室を許可する。
100
「「大王様!!」」
「亜父!お前たち!生きていたのか!」
入ってきたのは熊武将4人と亜父・項伯である。
「大王様!我々を残して逝かないでください!」
「我々に大王様のお手伝いをやらせてください!」
「我々の力を周辺諸国に見せてやりましょうぞ!」
「また一からやり直しましょう!」
「大王様」
熊武将たちの言葉の後、亜父が大王に語る。
「申し訳ありません、死に損なった上に、おめおめと大王様の前に戻って参りました」
「私はピット王と話し、彼の考えも聞きまいた」
「大王様もお気づきになったと思いますが、彼ならば共に先のことを考えられると思います」
「あえてここで死を選ぶような愚行は行ってはいけません」
「大王様さえ宜しければ、不肖な身なれど最後まで大王様にお仕えさえて頂きます」
「そうか…亜父はあのような事をした儂にまだ付いて来てくれるというのか」
「本当に…良い家臣を持ったものじゃ」
レッドキャップは涙を流し、皆との再開を喜んだ。
「大王…いや、私の甥である『項羽』よ」
「実はお前にどうしても会わせたい方がおる」
項伯はそう告げ、今一度扉が開き一人の女性が入ってくる。
その女性はレッドキャップの姿を見てこう質問する。
「大王様、私をお忘れですか?」
その女性は以前ミツバチに転生し、自身のことを誰にも話さなかった者だった。
前世の記憶がないレッドキャップは立ち上がり、一言呟く。
「虞…なのか?」
その瞬間、女性はレッドキャップに走り出し、抱擁する。
「はい!虞です!虞でございます!」
泣きながら答える虞にレッドキャップも涙が止まらない。
「虞よ!逢いたかった!」
「私は…永遠の別れをした後も…ずっと大王様を探しておりました!」
「やっと逢えました!やっと逢えました!」
2000年の時を超えて、二人は今やっと巡り逢うことができた。
レッドキャップの家臣もみな泣いている。
ボウイは号泣していた。
幾ばくかの時間が過ぎ、ピットは再度訊ねる。
「項羽殿、我々には貴方の力が必要です!」
「一緒に私たちと新しい世界を作りませんか?」
レッドキャップの答えを待つ一同。
やがて、レッドキャップは口を開く。
「そうだな…自分がやったことの後始末くらいはできないと、後世の恥となるな」
「わかった。これからは皆と共に新しい世界を作ろうぞ!」
その言葉と同時に、そこにいたもの達の進化が始まる。
光が収まると同時に、屈強な男たちが佇んでいた。
101
佇んだ男たちはすぐさま片足を着き拱手をする。
「我が名は『龍且(りゅうしょ)』、そちらのボウイ様に一撃でやられたものです」
「我が名は『季布(きふ)』、この度は咸陽城を守っておりました」
「私の名は『鍾離眜(しょうりばつ)』、韓信様とは前世で同郷の者です」
「我が名は『桓楚(かんそ)』、前世では大王様と最後まで戦いました」
いずれも漢楚の戦いで名を馳せた名将たちである。
そして、顎ひげを蓄えた男が拱手をし挨拶をする。
「私の名前は『范増(はんぞう)』。皆には亜父と言われております」
「大王の下では軍師を務めておりました」
続いて項羽の奥様。
「私の名前は虞(ぐ)でございます」
「生前は大王様のご寵愛を受けておりました」
虞は嬉しそうに話した。
そして、最後の大男が自己紹介をする。
「俺の名は『項羽(こうう)』」
「前世では西楚覇王を称し、中華統一を成さんとするも、そちらに居る韓信殿達に敗れ、その野望は果たせなかった」
項羽の身長は190㎝ほどもあり、色白な顔立ちで美形である。
しかし、その全身から出る覇気は進化により途轍もなく大きくなった。
「こりゃ~今の俺じゃまったくかなわねぇな」
ボウイもあっさりと負けを認めるほどである。
ピットと韓信は項羽に近づき握手する。
「項羽殿、これからは共に新しい世界を作りましょう!」
この言葉に項羽は笑みを浮かべ答えた。
「ピット殿、韓信殿、俺を仲間にしてくれて礼を言う」
「共に新しい世界を作ろうぞ!」
こうして、長かった森の戦争は無事集結した。
102
項羽が進化し、三国間で同盟を結んだことにより、ピットは項羽に今後の話を始める。
まず、エルフ族は明日こちらに到着になっており、項羽を同盟国として認める旨の話をすることになっている。
当然反対されるが、ピットたちが説得するので、項羽達には話を合わせてほしい為の確認である。
それともう一つ、項羽の愛鳥『騅』の事である。
此方は項羽が捕まった後、全く食事をとらなくなった為にかなり弱ってしまっているのである。
項羽は慌てて騅の元へ向かう。
騅は藁の上に座り込み、目を瞑ってじっとしている。
『騅!』
項羽が呼ぶと、騅は目を開け嬉しそうに項羽を見る。
「主よ、無事だったのですか!」
項羽は驚く。
騅がまるで喋ったように聞こえたのである。
「お前…俺と話せるのか?」
「はい主!なぜかここに来たらすべての者たちと話せるようになりました」
「主が生きていてうれしかったです!」
騅の言葉に抱きついて喜ぶ項羽。
ピットはさらに衝撃の事実を告げる。
「この鳥、実は『転生者』です」
項羽はさらに驚く。
次の瞬間、騅は光りはじめた。
進化が終わると、そこには純白の羽の生えた馬が現れた。
「これは…ペガサスのようですな」
官兵衛の言葉に皆が驚く中、更に騅は話始める。
「大王様、お久しぶりです」
「騅は無事過去の記憶を取り戻すことができました」
「この世界では空も飛べるようになりましたので、一層お役に立てるようになりました」
「大王様、乗ってみてください」
おう!と言って跨る項羽を乗せて、騅は天に舞い上がり駆け回り始めた。
「これはすごい!騅は空を自在に動けるのか!」
「お任せください大王様!これからは戦場で存分に暴れて見せましょうぞ!」
下で見ていたもの全員は思う。
項羽の強さで、意思疎通のできるペガサスとかもはやチートレベルだと。
ぽつりとボウイが呟く。
「俺は、これから大王たちと戦うであろう秦国の兵に同情するぜ」
皆、その言葉に激しく同意した。
103
「ピット殿、韓信殿、一体これはどういうことですか?」
エルフの王二人は到着早々2人に詰め寄る。
「話は聞きました。なぜ私たちに相談もなくレッドキャップが許されているのですか?」
二人ともかなりご立腹の様子だ。
「アル・アノア女王お久しぶりです」
「初めまして、北西の王スール・セリオン殿」
ピットはとりあえずあいさつし、2人に席に付いてもらった。
「エルフの王たちに相談なく彼を許したことは謝ります」
「ただし、彼を許したことには、ちゃんとした事情があるのです」
セリオン王は、二人に訊ねる。
「では、なぜこの騒乱を起こしたレッドキャップを生かしておくのです?」
「奴は北東のエルフ王を含め、多くの者を殺してしまっているのですぞ?」
「それではどうやってレッドキャップが最初の進化をしたのかはご存じですか?」
ピットの言葉に二人のエルフ王は顔を見合い、再度ピットに質問する。
「それは魔族がやったのではないのですか?」
「それは違います、魔族は転生したレッドキャップの力を利用しただけです」
孔明がこの回答をすると、アル・アノアはもしやと思う。
「まさか…北東のエルフ王ギ・グリンが召喚したのですか?」
「左様でございます」
孔明の話に言葉を失くすエルフ王たち。
「実は彼…北東のエルフ王が召喚せねばならない事態になっていたのです」
ここで孔明は概要を説明する。
「実はこの森は5年前から『秦』に狙われている状況でした」
「秦の宦官であり最高権力者『趙高(ちょうこう)』は、この森を見逃す代りに、エルフの召還術を使い転生者を秦に渡せと取引を持ち掛けてきたのです」
「困った北東のエルフ王は、レッドキャップを召喚、ただ、あまりの強さにエルフ王は自分の配下にしようとしました」
「しかし、誰かの下につくことを嫌うレッドキャップは、勝手に呼び出した北東のエルフ王を殺し、咸陽を作り魔物たちを集めて住まわせたのです」
「また、弱い魔物たちの声を聞き、彼らを今まで虐げてきたもの達…つまりエルフや三秦を守っていた、ならず者たちを、敵討ちの名のもとに次々と殺していきます」
「結果、忠誠を誓ったもの・協力するもので構成されたのがレッドキャップの勢力なのです」
孔明の説明に静まり返る応接室。
「お二方とも気付いていたのではないですか?」
「レッドキャップを召還したのは北のエルフ王だったのではないかと…」
孔明の言葉にそれは…とスール・セリオン王が何かを言いかけてやめる。
そんな二人のピットと韓信が話す。
「お二方とも、我々はあなた達を責めているわけではありません」
「もし私共が同じ立場であったなら、やはり黙認していたかと思います」
「残念なことは、お二方に相談せず、北東のエルフ王独断で召還をやってしまったことです」
2人の話を聞き、アル・アノアはポツリと呟く。
「きっと…ギ・グリンは自分だけでやりたかったんでしょうね」
「そうだろうな…あいつは一度でいいから召還をやってみたいと言ってたからな」
セリオン王も言葉を続けた。
ピットはここで二人に願い出た。
「確かに召還した北東のエルフ王も、それを殺したレッドキャップも許されるものではありません」
「しかし、諸悪の根源は『秦国』の宦官である趙高です!」
「この男を倒さない限り、この森に平和は訪れません!」
「そしてレッドキャップ・・・項羽殿はこの男を討伐することを約束してくれました」
「この森の平和のために、我々に力を貸してください!」
頭を下げるピットに二人の王は起立して話す。
「ピット王よ、疑って申し訳なかった」
「ピット王がいなければこの森の未来はどうなっていたかわかりません」
「我々は感謝しているのですよ」
「あなたという英雄をこの森に誕生させてくださったことに」
「あなたにレッドキャップが必要という事であればそういう事なのでしょう」
「「どうか、共にこの森を魔族から守っていきましょう」」
二人のエルフ王の言葉に、ピット王・韓信は了承した。
これより5人の王で今後の話となっていく。
104
ここは宋の国の首都『東京(とうけい)』。
ここにある禁城内では、男たちが蹴鞠を楽しんでいる。
「報告いたします!荊州城が何者かの手に寄って落とされました!」
兵の報告にも男たちは蹴鞠をやめようとはしない。
「ほう、荊州城にはコエンシャクを赴任させておいたと思うが、あの男がいて落とされたのか?」
「亜奴も所詮『簡易進化者』ですからな」
「本来の力が出せなかったのかもしれんしな」
中庭で蹴鞠をするもの達は笑いながらそう話した。
「それで、荊州城の方はどうする?そのまま捨て置く訳にもいかんだろ?」
「そうじゃな…よし、鎮三山・青面獣・霹靂火に各方面から進撃させるとしよう」
「『童貫(どうかん)』殿、軍を動かす手筈をたのむぞ」
「わかりましたぞ『蔡京(さいけい)』殿」
「直ちに信州城・杭州城・建康府にて出撃するよう手筈を整えておきましょう」
「あと、レッドキャップが討たれたそうだが、秦の件は如何いたす?高俅(こうきゅう)』殿」
「『楊戩(ようせん)』殿、心配はいりません」
「こちらは魏のソウソウに後方から攻めてもらえるよう頼んであるので問題ないでしょう」
「あの男、なかなかの切れ者だが扱い辛いのが難点よ」
「それは大丈夫でしょう」
「あの男の家臣には我らに忠誠を誓っておる者もおりますので、何かあればソウソウを討ち取らせます」
「フフフ、まったく高俅殿は敵に回したくありませんのう」
「いえいえ、これは楊戩殿が宮廷を牛耳っておるから出来るのですぞ?」
「そういえば皇帝の件は大丈夫ですかな?楊戩殿」
「その件に関しては抜かりありませんぞ」
「皇帝の世話は宦官たちだけで世話をしておりますので、漏洩することはないでしょう」
「なるほど、それを聞いて安心しました」
「我ら4人で、この世界でも最高の人生を謳歌しようではないか!」
高俅たちは蹴鞠をしながら笑う。
105
部屋から出てきた軍服姿の龍は不機嫌の絶頂にあった。
「どうしたんだ?ジョージ陸龍大将、何時にもましてご立腹じゃないか?」
浮かない顔のジョージに男が声をかける。
「ようチェスター海龍大将!どうもこうもいつものことだよ!」
「例の如く魔族との戦いに参加するべきだとドワイト総司令官に話したら、今はその時ではないと追い返されたのさ!」
「そうか、まぁ総司令官も反戦派にいろいろ言われて大変なのだろうさ」
そう言ったチェスターは片手をあげて目を瞑った。
「そういえば…」
チェスターは話を続ける。
「お前さんの仲のいいワイバーン達の集落が、魔族の統治する国に襲われたんだってな?」
その話を聞き、ジョージはハッと思い出す。
「そうなんだよ!」
「あいつの子供が人質にされたとき、一緒に救出を手伝ってくれたのがウサギの国のサムライらしいんだよ」
「ウサギの国?」
チェスターが誰だって顔をすると、ジョージが詳細に話す。
「実はあいつもリインカーネーション(転生者)だったみたいでよ」
「それで転生をやってくれたのがラビット国のキングって話だ」
「ラビット国のキング?」
「ああ、どうやらここから1000マイルほど南の森にウサギの王国ができたみたいで」
「そこのキングが何の見返りもなしに進化させてくれたらしいぞ」
「そんなばかな!」
チェスターは驚く。
それもそのはず、龍族でさえ転生者を進化させるには相当の時間と人数が必要なのだ。
「そいつはこの俺たちの常識を覆す存在じゃねーか!」
チェスターの言葉にジョージは笑う。
「だろ!だから今度ディックと一緒に会いに行ってみようと思うんだ!」
「じゃあ俺も一緒に連れてってくれ!」
チェスターも同調する。
しかし…とジョージは話を戻す。
「魔族共が俺たち龍族にちょっかいを出してきたのだから、正当な戦争理由ができたって進言したのだが…みてのとおりの結果だ!」
「あいつら何処まで俺たちを挑発したら怒るかを計っているんだよ!」
ジョージの言葉にチェスターも同意する。
「あぁ、間違いなくそうだろうな」
「いまなら我が『三龍合衆国』の陸龍・海龍・飛龍と、同盟国である『大英海龍国』の海龍編成艦隊があれば、確実に勝利できるだろう」
「だが両国とも反戦派が多く、足並みが揃わないのも事実だしな」
「更に魔族体制の『千年帝国』『パスタ帝国』『ジパング帝国』が軍事同盟を結んだって噂もあり、悪い事に『レッドスター連邦』も隣国を支配下に置くため侵攻を始めたって話だ」
このチェスターの言葉にジョージは怒り心頭だ。
「そもそも魔族と戦わないという考え方がおかしいのだ!」
「奴らが世界を征服したら、あとは龍族のみと言って我々に戦争を仕掛けてくる事くらい子供でも分かるレベルだぞ!」
そんなジョージをチェスターは宥める。
「まぁまぁ、その話は一杯飲みながら話そうや?」
「今、行きつけのバーに金髪の美人が来ているんだよ!」
「本当か?チェスター」
「あぁ、なんでも彼女は女優志望らしいぜ!」
「よし、じゃあウサギのキングの話もあるし今夜は飲むか!」
二人は肩を並べ国防省を後にした。
106
秦の首都『咸陽』。
現在、レッドキャップ(項羽)が自領を勝手にこの地名で名乗っているのが、こちらの方が他国に認められている正式な首都となる。
この国は今や宦官の趙高(ちょうこう)が全ての権力を握り、逆らうもの達は次々と粛清していた。
「趙高よ、秦は帥のお陰で今日も平和であるぞ」
何も知らない皇帝の良く使うこの言葉に、家臣たちは心の中で辟易としていた。
現実の秦は、四方を敵に攻められ、あちこちで内乱が発生している。
現在ラビットの家臣となっている章邯・董翳・司馬欣も、元はと言えば秦の犯罪者たちを守備兵として、宋軍の侵入を防ぐため森の砦に配置したのだが、レッドキャップの攻撃にあい陥落したのである。
また、レッドキャップ・秦国ともに双方を嫌っており、咸陽が2つになったのも、レッドキャップが真の首都とするために成都を改名したのである。
「趙高よ、秦国は今どのような状況じゃ?」
「はい、農作物は今年も大豊作で、それをもとにした貿易も順調で、皆皇帝に感謝しております」
「そうかそうか、皆趙高に任せておけば安心じゃな!」
この年の秦は大凶作で、農民たちは年貢を納める状況ではなかったのだが、そんな状況でも役人は残った食料を取り上げ飢饉が発生、あちこちで一揆が発生し軍と衝突している。
これを皇帝に進言しようとしても、趙高の息のかかったもの達に全てを揉み消されてしまう。
もはや皇帝には本当のことは一切耳に入ってこない状況である。
(ここで一度ちゃんと私に忠誠を誓っているか確認しないとな…)
趙高はあることを思いつく。
翌日、趙高は朝議に鹿を連れてくる。
「昨日、珍しい馬を手に入れました」
皇帝は眉を顰める。
「これは鹿ではないか!」
その皇帝の言葉に趙高は朝議に参加した者たち一人一人に聞いていく。
「これは何に見える?」
「…馬でございます」
うむ、と頷き次の者に聞く。
「これは鹿でございます!」
うむ、と頷きまた次の者へと聞いていく。
皇帝には何をやっているのか全く分からなかった。
全てを聞き終えた趙高は、皇帝に向かって進言する。
「どうやら、人にはいろいろな見え方があるようです」
この言葉を最後にその日の朝議は終了した。
次の朝、朝議を開くと2昨日の人数の1/4が欠席している。
「今日の朝議は出席者が少ないな?」
皇帝の言葉に趙高は答える。
「今日は流行り病で欠席者が多いようです」
「そうか…皆昨日は元気にしておったのだがな、体を大事にするよう伝えておいてくれ」
皇帝の言葉に趙高は礼を取る。
尚、欠席したのは鹿を鹿と言った者たちであった。
その日朝議を欠席した者たちは、二度と朝議に出ることはなかった。
107
森の会議は全5人の王が揃い、相互協力関係を行う同盟が締結された。
これにより、各王の領地が決まっていく。
まず、現状でエルフの王たちが治める領地に変更はない。
しかし、将来の方針として、韓信・ラビット・項羽は領土拡大後に森を出て、エルフと森に残りたい魔物たちに譲渡する予定となった。
これは3国が森を拠点にした際の、人口増加による森林破壊を行わない為である。
この場合は、北西をセリオン王・南をアノア女王・北東を魔物たちが治める形となる。
次に各国の進撃ルートの話し合いとなる。
韓信が宋国、項羽が秦国の攻撃が決まっているのだが、ラビット国は亜人連合国を攻撃する、と言う訳にはいかない。
ピットにとって魔族は敵であるが、人間や亜人は協力関係を築きたいのである。
ここで、エルフ女王であるアル・アノアが亜人連合国について説明する。
「この国は、人間・エルフ・獣人・ドワーフ・リザードマン・コボルトなどの多民族国家となります」
「獣人族の『帝』が国の決定権を持ち、各亜人の中にいる『サムライ』が幕府を開いて政治を行っております」
「各都市を『藩』が治め、帝の領地は『天領』・幕府の領地を『幕領』と呼ばれているようです」
「さらにこの国は身分差別が厳しく、身分の高いものが身分の低いものを殺しても罪に問われません」
実はピットたちは、この厳しい身分制度を坂井三郎から聞いていた。
彼の出自も身分が低かったのだが、坂井自身の空軍実績により身分が上がっていたのだ。
「その様な状況と、隣国『日ノ本』との外交に対する幕府の弱腰政策に、各藩の考えが帝に政治を行ってもらう「勤王派」と、幕府がこれまで通り政治を行う「佐幕派」に分かれております」
「ピット王がこの国と友好的に事を進めるのであれば、このどちらかと手を組まねばならないと思われます」
「そのうえで、隣国である宋国や秦国、この国を狙っている日ノ本との戦いにも備えなければなりません」
女王はピットたちに、他の2国と違い政治的にこの国を取り込まねばならないと説明してくれた。
孔明はここまでの説明を聞き、方針を打ち出す。
「今回のラビット国は、武力行使は極力控えたやり方となります」
「もし武力行使を行った場合、それぞれの派閥の後ろ盾である国家が介入してくる可能性が高くなるからです」
「これでは例え領地は取れても領民の反感を買ってしまい、結果、秦や宋とのように内乱が絶えない状況になってしまいます」
「これからの亜人連合国での活動は、ピット王・官兵衛・半蔵・孔明の4人で行います」
「「それはあまりにも危険です!」」
この発言に場にいた全員が声を上げる。
しかし、孔明は話を続ける。
「今我々の配下にいる武将たちには、戦場では一騎当千の活躍を見せますが、残念ながらこのような任務に向いておりません」
それはそうだと納得する一同。
すると、アル・アノア女王から提案を受ける。
「ならば私が他国に行った際に護衛をやらせている、家臣の『ボルン・ルクシル』を付けましょう」
「腕も立ちますし、亜人連合国の知識もありますのできっとお役に立てるでしょう」
「ありがとうございます女王様!」
女王の心使いにピットは礼を言う。
「それでも気を付けてください、亜人連合は暗殺が多いところですので…」
ピットたちは承知して、出発日などを後程について話し合うことにした。
108
続いて張良が宋国の実情を話す。
「続いて我々が相手をする宋国ですが、現在、信州城・杭州城・建康府に兵が集結しているとの情報を得ております」
張良の情報は、既にこちらに付いている領民からのものだった。
孔明はその情報を基に戦略を立てる。
「なるほど、その人材をお借りできれば問題なく成功するでしょうな」
「では、いま名前を挙げたものと、林冲・樊瑞は宋国に大事な用があるでしょうから同行してください」
「はい、残された妻の救出を急ぎたいのでお願いします」
「私も早く部下や仲間を探したいので此方に参加します」
韓信以下、家臣全員が礼を言う。
続いて秦国。
孔明は項羽軍の弱点を話す。
「こちらは戦闘力に関しましてはいう事ありませんが、作戦面ですべて范増殿頼りになっております」
「これでは范増殿の負担もおおきく、万一策の見落としがあっても指摘できるものがおりません」
「それはわかっておるのだが、儂一人以外は皆武力一辺倒の者ばかりじゃしのう…」
困った范増をみて、陳平が孔明に申し出る。
「丞相、私が項羽軍に入りまして范増殿を補助いたします」
その答えに孔明は了承する。
「陳平殿が入れば范増殿の負担も減りましょう」
「共に内政と計略の補助ができる馬良と馬謖、戦略・戦術に詳しく武将としても腕が立つ姜維も一緒にお連れ下さい」
「孔明殿助かります、これでやっと戦略を集中して考えられるわい」
范増はほっと胸をなでおろす。
この孔明の申し出に、韓信と項羽はいたく感謝する。
「かたじけないピット殿!」
「お借りした兵力で期待以上の戦果を必ずや挙げて見せましょうぞ!」
「お二方ともよろしくお願い致します」
孔明がお辞儀して戦略会議は終了する。
109
続いて魔族に関して分かったことを孔明が報告する。
「皆さまは魔族と我々との違いは何だと思われますか?」
エルフの王たちは、あなた達も違うよ?と心の中でかるく突っ込んだ。
「おそらく魔石があるかないかでしょうか?」
アノア女王の答えにその通りと答える孔明。
「では、魔石とは何でしょうか?」
「それは魔物の魂みたいなものではないのでしょうか?」
孔明の質問に答えるセリオン王。
「はい、その認識で間違いありません」
「しかし魔石は魔法を込めたりできるものでもあります」
「つまり、魔石は入れ物と言う事ですか?」
韓信の答えに正解ですと答える孔明。
「では、魔石に入っている魂は一体誰なのでしょうか?」
ここで皆は孔明が言わんとすることに気づいた。
「魔族の体を調べましたところ、ホムンクルス(人造人間)でした」
「そして、魔石に封じられた魂は「元人間」であることも判明しております」
「つまり魔族とは、何者かが死者の魂を人造人間に入れ作り出したものなのです」
信じがたい事実を皆が突き付けられる。
「そんなこと、にわかに信じられません!」
「何か証拠があるのですか?」
エルフの王二人の質問に、孔明は一人の魔族を入室させる。
体を魔法で拘束された魔族は、孔明の質問に答えていく。
「名前は?」
「私の名前は袁術・公路です」
「魔族になった経緯は?」
「前世で皇帝になれなかった私を、四凶(しきょう)の一柱がこの世界で皇帝にしてくれると約束してくれたので契約しました」
「「四凶だと!」」
韓信と項羽が同時に発するが、孔明はそれを遮り質問を続ける。
「それはいつですか?」
「前世の死ぬ間際です、四凶の方から持ち掛けてきました」
「四凶の名前はわかりますか?」
「その四凶は自身を『渾沌(こんとん)』と言っておりました」
「まさか悪神が魔族を造っていたとは…」
ピット以外の王は驚きを隠せない。
神である俺も何も言えずにいる。
なぜなら四凶なんて名前、今初めて知ったからだ。
こんな時は何でも知っているルリエンさんに聞いてみよう。
「私もそんなに詳しくはないけど…」
「四凶っていうのは中国の悪神で、ほかに『檮杌(とうこつ)』『饕餮(とうてつ)』『窮奇(きゅうき)』がいたとおもう」
「たしかどれも凶悪でろくでもない奴だったらしいから、神に追い出されて悪神になったんだって」
へぇ~そんな奴らと戦わなきゃいけないって大変だな~俺関わり合いたくないんだけど。
「何言ってんの?悪神倒すのはジャスティス君の仕事だよ?」
へ?今初めて聞いたんだけど?俺が倒すの?信者じゃなくて?
「あのさ~信者じゃ精神体の邪神とか悪魔とか倒せないでしょ?」
いや、そこは伝説の神器とか剣とかがピカーって光って悪がかき消されるみたいな?
「そんな都合のいいもんあるわけないじゃん!」
「同じ精神体のジャスティス君しか倒せないの!」
え~やだな~俺
勝てない自信しかないよ。
だって相手が神秘の力とか使ってきたら、俺うわーってやられちゃう気がするんだよね、殺戮神だしw
「大丈夫だよ、ジャスティス君なら」
「部下がこれだけチート仕様なら、きみもきっとチート仕様だと思うよ?」
なんの根拠もない大丈夫ありがとうございます、ってかあんまり俺をチーター扱いしないで!
しかたない、あとで使えそうな能力を探してみるか。
孔明の説明は続く。
「彼は私と同じく前世は『後漢』であり、とあることから王の証である玉璽(ぎょくじ)を手に入れ、自らを皇帝と名乗りました」
「しかし、前世の彼はプライドが高く横暴で、他の国や領民にさえ見放されて、結果死に至りました」
「四凶と契約したのは死ぬ間際だったようで、朦朧とした意識だったために完全な契約にはならなかったようです」
ここまで孔明が話すと、袁術が変わって話し始める。
「私は今、ピット王たちのお陰で正気を取り戻すことができた」
「しかし魔族に転生してしまった以上私の寿命も長くない」
「私は現世に生まれ変わっても、後悔して生きるだけだ」
どういう事だと思う皆に、孔明が再度説明を行う。
「作られた魔族たちの体は老化が早く10年ほどしか持ちません」
「しかも造られた体から魂の入った魔石を外してしまうと死んでしまいます」
「つまり人造人間は最初から使い捨てのコマとして作られている訳です」
「魔族の存在は、四凶や悪魔などがこの世界を統治するためだけに造られた『消耗品』なのです」
「しかも人の魂を使った消耗品です」
孔明の言葉に一同沈黙する。
ピットはここで口を開く。
「いま我々がやることは、魔族を倒し悪神や悪魔の力の源である生き物たちの『恐怖心』を取り除いて力を弱める事です」
「そうすれば我々の神である『ジャスティス神』がきっと奴らを倒してくれるでしょう!」
「そうか!ピット王たちを生み出したジャスティス神であれば、造作なく倒してくれるかもしれませんな」
セリオン王の言葉にその場にいた王たちも同調する。
そして俺は納得していない。
もう俺が四凶を倒すこと前提で話が進んでいる。
ルリエンさんに四凶の姿聞いたけど何それキモって容姿だった。
それでもって4柱とも凶暴だとか…。
一応なんか役に立ちそうな能力とか見てみたけれど
『ハルマゲドン/精神力1だけ残して全信者へ渡す。驚異的な力になった信者が最終戦争を行う』
『カタストロフィ/すべての精神力を使って世界を破滅させる・自分も死ぬ』
やべっ!なんだこれ?
ハルマゲドンは今でさえぶっ壊れ性能の信者たちがさらに強くなるってことか!
でも精神力残り1になるし、状況によっては俺次の日死んじゃうかもね。
カタストロフィに至っては絶対に使っちゃだめなヤツだ。
単なる神の自爆テロで世界中の人を巻き込んでしまうスキルだなこれ。
よし、セリオン王よ!困ったときはこれですべて無にしてやるからな!
「悪神や悪魔のことはジャスティス神にお任せして、我々が今やらねばならないことは魔族の駆逐です」
「降伏するものは別として、出来る限り倒していきましょう」
「わかりましたピット殿、それで捕虜にした魔族はどう扱うおつもりですか?」
アノア女王の質問にピットは答える。
「労働力です」
「現在あちこちで道や治水の整備を行っておりますので、清正の部下に預けて作業員として働かせています」
「ちゃんと労働力として使えていますか?」
この質問にもピットはあっさり答える。
「はい、やらなければ『食糧になってもらう』と話していますので」
エルフの王は思った。
自分たちは魔族を食べる習慣などないわけだが、彼らは人間と違い他の生物から進化している為、魔物や魔族は食料の認識になっているのだろうと。
そしてその言葉が理にかなっているので、命の惜しいもの達はまじめに働くしかないのだなと。
「今は袁術殿と隷属の契約を行い、魔族兵の管理を任せています」
数にして3000程度いるので工事も捗っているようだ。
「そういえば、咸陽で捕らえた魔族将軍の4人はどうなったのじゃ?」
范増の質問にピットが答える。
「今は他の魔族兵と一緒に土木工事をやらせています」
「魔族将軍と言っても、特に有能ってわけでもなかったので、普通に人夫ですね」
「まあ、あいつ等はえばり散らすだけで何もできなかったからのう」
范増もやむなしと言った感じとは裏腹に、龍且たちはざまぁみろって感じの顔をしている。
これにて対魔族に対しての会議は終了した。
109
会議が終了し、各自領に戻って行った王たち。
ピットはラビットの街へ戻ると、孔明が各人へと指示を出す。
陳平や林冲たちとはそのまま各王たちの元へと趣行動を共にした。
さらに、ツキノ達は韓信軍、ボウイは項羽軍と行動を共にする予定となっている。
これは現地で進化候補者がいた際、二人が進化させ仲間にする為である。
当初はツキノを項羽陣に就かせる予定だったが、ボウイが項羽に直々に稽古を付けて貰いたいとお願いし、項羽がこれを了承した形だ。
最初、ツキノが来ると喜んでいた龍且たちが、ボウイと替った瞬間に死んだ魚の目になっていたのは印象的だった。
更に卑弥呼も項羽陣に赴き、呪いの解除役を受け持つことになる。
この話をした時、一度死んだ目をした龍且たちの目が再び生き返ったのは印象的だった。
清正の配下たちはここに留まり、魔族たちを使っての土木工事となる。
庄林一心が涙目になり「また土木工事…」と呟いていたのが印象的だった。
義経たちは孔明から直接指示を受けて、後日街を後にした。
清正や百地たちも韓信領へ既に旅立っており、蜂須賀衆や三秦・彭越たちも北の砦から韓信領へと合流する。
黒田八虎と母里武兵衛・半蔵の配下たちも項羽と合流済。
そして今日ツキノも旅発つ。
「それじゃあピットちゃん、体には気を付けてね!」
旅立つツキノのそばには3人の女性がいる。
スズメバチの『巴御前』・アシナガバチの『小松姫』・トックリバチの『山本八重』の3名である。
少し前までこの3人は相当仲が悪く、卑弥呼も扱いに相当苦労していたようだ。
そんな一触即発の状態で、当時勧誘に来たツキノが現れる。
「やっほーみんな!」
「今日からあなた達は私と一緒に美少女戦士となります!」
「みんな仲良くしようね!」
しばしの沈黙が流れ、巴御前が喋りだす。
「おいお前!いまはお前のような嬢ちゃんが話に割り込んでいい状況じゃないんだよ!」
「あらあら、気性の荒いスズメバチの巴さんは誰これ構わずケンカを売るんですね?」
「なんだとこの雑魚アシナガバチが!お前らのような中途半端は虫唾が走るんだよ!」
「あ~あ、昔から争いは同レベルでしか起きないっていうけれど、あんたら見ていると全くその通りだと思いますわ!」
「んだとこのボッチの徳利女が!お前は一人で自慢の銃でも磨いていろ!」
3人はツキノをほったらかしてまた喧嘩を始める。
「へー私を無視するなんていい度胸しているじゃん?」
慌てて止めようとする卑弥呼を躱し、一瞬で3人を首トンで気絶させる。
気を失った3人を横一列に並べて一人ずつ起こす。
「なんだ…てめぇ」
「はい!言葉使いが悪い!」
締め技でまた落とされる。
そして起こす。
「ちょっと待ちなさい」
「はい!人にものを頼む言葉じゃない!」
締め技でまた落とされる。
そして起こす。
そんなことを繰り返していると、さすがの3人も下手に出始めた。
「ちょ、ちょっとお待ちください」
「あなた様はいったい誰なのですか?」
待ってましたとばかりに自己紹介を始めるツキノ。
「私の名前は愛と勇気の美少女戦士・ラビット・ツキノ!」
また場に沈黙が流れるが…
「す、素晴らしいですツキノ様!」
「お、おう、なんてかっこいいんだ!」
「やはりこれからは美少女戦士の時代ですわ!」
三者ともキレたらヤバイ王の姉ということに気づき、一生懸命よいしょを始めた。
ツキノはうんうんと言いながら目的を話す。
「最初にも話したけどさ、この美少女戦士の人数を増やしたくて3人をスカウトに来たのよ!」
「なんか3人ともやる気満々だしこれからもよろしくね!」
「「「しまった!勧誘だったのか!」」」
ここで初めて3人の気持ちが一つになったが、もう仲間になる以外に方法がないようだ。
「「「よろしくお願いします!」」」
3人の顔は満面の笑顔、だが小刻みに震えた体でツキノに挨拶をした。
卑弥呼も従順になった3人を見て安堵し、ツキノにお礼を言う。
そして今、4人は仲良く韓信の元へ赴いていった。
110
家臣や兄弟が各々の任務地に向かい、非戦闘員以外はピット・官兵衛・孔明・半蔵が残った。
「さて、これからが我々の戦いとなりますな」
官兵衛はシフから事前にもらっていた手形を使い、亜人連合にある『出島』をめざす。
「シフ殿の話によりますと、出島には我々のような外部の人間が滞在することを許可された『幕領の居住区』のようです」
官兵衛とシフの打ち合わせで、現地での行動予定もあらかた話し合い済であり、あとは出国するのみである。
「さて、これからはまた時間との勝負になっていきます」
「亜人連合は宋・秦と隣接しており、海を隔て日ノ本がこちらへの侵攻を伺っております」
「前の会議でお話しした通り、我々の目的はこの国を可能な限り武力を使わずに仲間に引き入れることでございます」
「半蔵の諜報力を使って情報を集めつつ、私と官兵衛で策を考えて参ります」
「それと、シフ殿の尽力で坂井殿の帰還が叶うようになりました」
「上官には怒られるでしょうが、大事な戦力なので大きな罰則はないだろうとの事です」
それは良かったと胸をなでおろすピット。
「さて、我々も出立すると致しますか!」
官兵衛の言葉に皆頷く。
森は平和となり、次のステージへと向かうピットたち。
これにて、(森の争乱編)は幕を下ろす。
