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【小説『われても末に』】あらすじと序章


あらすじ


アイナン王国の王女イリアは、姉たちによる政略結婚と暗殺の企てから逃れるため、王宮を脱出する。逃亡の途中、北の隣国リベリオ王国の学者オリバーに助けられ、彼の協力を得て身を隠すことになる。しかし、行方不明となった王女には懸賞金が懸けられ、各地で探索が始まっていた。南の隣国ゾルガ王国の剣士マーシャルもまた、その懸賞金を追う一人として動き出す。やがて三人は出会い、互いに無関係だと思われた過去と立場が、王家を揺るがす陰謀と深く結びついていることを知る。政略、裏切り、罪が絡み合う中、イリアは王女としてではなく、一人の人間として選択を迫られていく。

 

 

序章


 アイナン王国のレイア王は、無類の女好きとして知られている。

 その名は風のように、女の噂とともに北へ南へと運ばれていった。

 自らの王国に飽き足らず、北のリベリオ王国へ遊学に行った折、旅館の娘と関係を結び、南に位置するゾルガ王国の式典では、演舞を披露した武人の女を口説き落としたとか。一体どこまで自分の種を撒けば気が済むのかと、王宮では半ば呆れ混じりの噂が絶えなかった

 正妻のバイオレット王妃は、知ってか知らぬか、穏やかな微笑みを崩さなかった。レイア王は、詩を作るのが好きで、王妃へ幾編も詠み送り続けていた。夫の愛情が届いたのか、王妃は決して機嫌を損ねることはなかった。

 その詩の中でも、王が特に愛し、幾度となく口ずさんだものがあった。

海へ吹きにし松の風

梅の香にほふ夕暮れぞ

契りし者たち来たりけり

われても末にあはむとぞ思ふ


 王は宮廷音楽家にこの詩の曲まで作らせ、王妃やお気に入りの女たちにも歌わせた。そして、詩の一節を刻ませた黒青石の玉佩を二つ作らせた。

片方は北の女へ、もう片方は南の女へ。

 そしてもう一つ、黒青石でできた小刀の抦にも詩の一節を刻んだ。それはただ一人、正妻バイオレット王妃に与えられた。

 ところが、正妻のバイオレットは三人目の子どもを産んだ後、産後の肥立ちが良くなく、静かに息を引き取った。夜更け、王は人目を避け、小刀を胸に当て、声もなく泣いたと、ただ一人の侍女が後に語った。

 王には、娘が三人いた。成長するにつれ、三番目の娘が一番バイオレット王妃に似ていることに気づいた王は、殊のほか可愛がった。

 だが王はまだ知らなかった。

 北の地にも、南の地にも、同じ詩を宿した子どもたちが生きていることを。

 黒青石に刻まれた契りは、やがて血を呼び寄せる。

 亡き王妃の小刀は、まだ何も知らぬ三番目の娘の手に託された。

 それが彼女を、遠く離れた者たちの運命と結びつけるとも知らずに。



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