【小説『われても末に』】6 検問所
コーディリアと名乗る少女と馬に乗り、オリバーは国境を目指した。
コーディリアは、道中一度もフードも、取ろうとしなかった。ジーナの店で、シチューを食べる時のスプーンの使い方に、オリバーはどこか違和感を覚えていた。聞きたいことはいろいろあったが、そんな雰囲気でないことを察して、何も聞かなかった。
街道の松の木は、まばらになってきている。吐く息が白くほどけ、手綱を握る指先がかじかんだ。国境には、リベリオとアイナンの兵が立っていた。オリバーは馬を降り、入国手続きを済ませる。
手続きを済ませた後、リベリオとアイナンの兵がオリバーに手配書を見せた。
「この顔を見たことは?」
オリバーは、一瞬声の出し方を忘れた。全身、冷や汗をかき、手綱を持つ手が震える。
手配書に描いてある顔は、紛れもなく――コーディリアだった。
手配書の下の方に、簡潔な文字が並んでいる。
《アイナン王国 イリア王女》
「……存じません」
とっさに嘘をついた。平静を装ったが、心臓が早鐘のように鳴っている。兵士は、そうかと短く言った。
「もし何か知っていることがあれば、ご一報いただきたい。」
兵士は、馬に乗っているコーディリアに目をやった。
「馬に乗っている者は……?」
「……助手です。まだ半人前で」
オリバーは、声が震えるのを悟られないようにするのに必死だった。早くこの場から逃げ出したかった。
「失礼だが、――フードを、取っていただけますか?」
一瞬の沈黙。
オリバーの首にかけた玉佩が、一瞬、熱を帯びた。考える間もなく馬に乗り、オリバーは馬腹を蹴った。馬が跳ね、背後で兵士たちの声が乱れる。
「待て、捕まえろ!」
(王女――?)
後ろを振り返ることもなく、オリバーは馬を全速力で走らせた。
