エウレカ 私は見つけた 最終話
19 人生の転機
似顔絵を描き始めて半年ほど経った頃、1人の背広姿の男性が
「色紙を描いてくれ」と注文した。
ロドリゴは、『このリゾート地にそぐわない格好だなあ』と言う印象をまず彼に持った。
その彼が言うには
「あなたがロバタクシーの仕事をしながら、絵を描いているロドリゴさん
ですか?あなたは、絵に色をつけたことがありますか?」
「いいえ、私は絵の具を持っていないので、1度もありません」
とロドリゴは正直に答えた。その人が言うには、
「私はアテネで画商をしています。今、話題性のある画家を発掘しようと
あちこち出かけています。画材は送りますから、この丘から見た景色を描いて、ここに送ってくれませんか?」
と名刺を差し出した。
ロドリゴは思ってもみなかった展開に驚きながら『絵に色をつけること』に胸がときめいた。
「でも、私は絵を習ったことがありません。全部我流ですから…
自信がないのです」
とこたえると、その人は、
「今から嫌な言い方をしますが、ご勘弁を。
習っていないのは強み。ーそれは個性的であると言うことー
ロバタクシーの人が画家である。イコールそれは意外性。
ーどんな絵か興味をそそられるー
あなたが引け目に感じていること。それはすなわち、他の人が持っていない
あなたの『キラリと光るもの』なのです。
完成したあなたの絵が私の心を動かせば、先ほど申し上げた二点を前面に掲げて作品を売り込みます。上手な人は五万といます。
でも、あなたの絵には他の人にはない『何か』があるのです。
ロドリゴは画商の話した、売り込みのポイントは事実であるので、
『言ってもらっても、ちっとも構わない』と思った。
むしろ、今まで絵に興味がなかった人が、彼の経歴を知り、関心をもって
絵を見てくれたらうれしいくらいだ。
以前は、自分自身を卑下していたロドリゴだったが……
この時には、人からの評価をあまり気にしなくなっていた。
アクリル絵の具で描いた「フィラの風景」がロドリゴのデビュー作。
画商のカリスは凄腕で、ロドリゴの絵はたちまち話題となり、
デビュー早々に絵画コンクールで大きな賞を受賞した。
その祝賀パーティーにインディゴ・ブルーの美しいドレスを身にまとい、
真珠のネックレスをつけたミケーネもいた。
授賞式はアテネで行われたので、息子夫婦と孫もお祝いに駆けつけた。
別人のようにも感じられるロドリゴの表情の変化に、数年ぶりに会う息子夫婦は、とても驚いた。
ロドリゴも同様に、息子夫婦の変化にびっくりした。二人ともこころざしのあるいい顔をしている。
『アテネでも大変なことが、あっただろう』
でも、新しい土地で泣き言を言わず、力を合わせて頑張ってきたに違いない。
息子たちは、子どもたちを自然の中でのびのびと育てたいという。
ソフィアは「私はフィラも好きだし、アテネも好き。今は、フィラにいても仕事ができる便利な世の中になった。でもデザイナーをやっている以上、世の中の動きを肌で感じる都会にも時々行かなければ…だからフィラに住んで、時折、アテネに出かける。そういう生活が、できれば最高だと気づきました」と言う。
ロドリゴ夫妻がOKを出せば、早々にも息子たちの引っ越しは、実現しそうだ。
* * *
夕方窓辺に座り、ヘンリーとエマはサントリーニ島からの返事を読んでいた。
「あなた方の似顔絵を描いて以来、私の人生は大きく変わりました。なんと今は絵描きをしています。奥さんをロバに乗せて丘に上がったとき、私は不思議なものを見ました。奥さんの口から漏れた感動とも思える声が、白い花に変わり、海に落ち始め、途中でそれは形を変えて白い鳥に変身したのです。そして最後には空の彼方に飛んでいきました」
「この写真は、最近描いたその絵です。私が不思議に思うのは、ギリシャには、この花はないことです。お二人は、お分かりになりますか?」
「またお会いできる日を楽しみにしております。」
ロドリゴ・クセナキス
それを見た2人は、とても驚いた。その白い花は、自分たちが庭に植えている
アネモネだったから。ーその花言葉は「希望」「期待」「真実」ー
ヘンリーは、
「君はまるでギリシャ神話に出てくる女神のようだね」
とエマにささやいた。実際にこの絵を見ることができる三回目のサントリーニ島への旅が、待ち遠しい。
〈了〉
