🌈Z世代のビートルズ-ラブコメディエッセイ10 Norwegian Wood (This Bird Has Flown)ノルウェーの森
彼は二十歳。映像学科に所属しながら、将来は何者になるのかまだ決めていない。
彼女は少し年上で、建築を学びながら古家具のリメイクをしている、ちょっと不思議な女の子だった。
二人が知り合ったのは、SNSでもマッチングアプリでもない。
彼女が運営を手伝っている「北欧ヴィンテージ家具の展示イベント」だった。
「これ、ノルウェー製の椅子なんだよ」
彼女はそう言って、木目の美しい古い椅子を軽く叩いた。
彼は正直、椅子よりも彼女の話し方に惹かれていた。
彼女の部屋は、街の外れの古いマンションにあった。
床はすべて木で、照明はオレンジ色。
Wi-Fiは弱いけど、なぜか居心地はやたら良い。
「ごめんね、ベッド一つしかなくて」
彼女はさらっと言う。
彼は一瞬、言葉を失ったが、変に期待する自分を抑えた。
夜は長かった。
ワインを少し飲み、音楽の話、将来の話、どうでもいい話。
彼は“これは何なんだろう”とずっと考えていた。
恋?
友情?
それとも、ただの一夜?
彼が少し距離を詰めようとすると、彼女は話題を変える。
逆に彼が黙ると、彼女は急に優しくなる。
完全にペースを握られていた。
朝になり、彼が目を覚ますと、彼女はいなかった。
テーブルにはメモだけが置いてある。
「先に出るね。
鍵は閉めなくていいから」
それだけ。
彼は少し笑ってしまった。
失恋とも違うし、成功とも言えない。
でも、なぜか嫌な気分ではなかった。
数日後、街で偶然彼女に会う。
「この前はありがとう。楽しかった」
彼女は何事もなかったように言う。
「また来る?」
彼は少し考えてから答えた。
「うん。でも次は、ちゃんと帰る時間を決めてから」
彼女は一瞬驚いて、それから笑った。
「それ、いいね」
二人は付き合ってはいない。
でも、完全に終わったわけでもない。
Z世代の恋は、
白黒をはっきりさせない。
ノルウェーの森みたいに、
美しくて、少し冷たくて、
最後まで踏み込ませてくれない。
でも彼は知っている。
あの夜が、彼の中でずっと残り続けることを。
燃えなかった暖炉のように、
静かに、確かに。
