泥にまみれろ【老荘思想 #名言ノート42】
今回紹介させていただく名言はこちら!
泥にまみれろ
ストレートに受け取るとちょっと失礼な言葉にも聞こえかねないですが、背景を知ると人生全般に通用する普遍的な名言だということが浮き彫りになってきます。
言葉の意味

老荘思想で有名な荘子による、「尾を塗中に曳かんとす」という言葉が元になっています。田舎でのびのびと暮らす荘子に対して王が宰相になることを要請したが、荘子はそれを断った。という故事が由来です。
「高官の地位を得て窮屈な思いをするよりも、自分が豊かだと考える価値観に沿った生き方をするほうがいい」と解釈することができます。
荘子は、亀(自分)がゴテゴテにデコレーションされてまつりあげられる(大出世のチャンスである宰相になること)よりも、亀(自分)が泥の中で生きる(世間的な地位は無くても自由な生活)のほうが豊かだと考え、仕官することを辞退しました。
転じて、「能力や特性に見合わない地位や生き方を無理して選択するよりも、己を知り、自分の良さを活かすことができるスタイルで生きることを推奨する言葉」として知られています。
言った人
荘子

どんな人?
荘子(そうし)は、中国の戦国時代(紀元前4世紀頃)に活躍したとされる思想家です。老子と並ぶ道家(どうか)の代表的な人物として知られています。
『荘子』は、哲学的な議論だけでなく、豊かな想像力に満ちた寓話や個性的な人物描写を通して、読者に深い示唆を与え続けています。

荘子の人となり
自由と超越: 荘子は、世俗の価値観や社会的な束縛から離れ、精神的な自由と自然との一体化を重視しました。
無為自然: 老子の思想を受け継ぎ、「無為自然(むいしぜん)」、つまり作為的な行動を避け、自然のままに生きることを説きました。
万物斉同: あらゆるものの間に本質的な差異はなく、対立や区別は人間の主観的な判断に過ぎないという「万物斉同(ばんぶつせいどう)」の考えを唱えました。
寓話とユーモア: 彼の思想は、寓話や比喩を多用した独特の文体で表現されており、ユーモアに富んだ語り口も特徴です。「胡蝶の夢」はとても有名です。
隠遁の精神: 官僚になることを嫌い、市井で自由な生活を送ったとされています。楚の威王に仕官を勧められた際も、「いけにえの牛のように大切にされても束縛されるより、泥の中で遊んでいる方がましだ」と言って断ったという逸話が残っています。
荘子の思想
荘子の思想は、老子の思想をさらに発展させたものとされていますが、両者の間にはいくつかの違いも見られます。老子が政治的な色彩を帯びた言説も含むのに対し、荘子は徹底して俗世間を離れ、個人の精神的な自由を追求する姿勢が際立っています。
その主な思想は以下の通りです。
道の重視: 万物の根源であり、普遍的な法則である「道(タオ)」に従うことを説きました。
無為自然の実践: 自然の流れに身を任せ、作為的な行動や知識による判断を避けることで、心の平安と自由を得られると考えました。
相対主義: 物事の価値や善悪は絶対的なものではなく、状況や視点によって変化すると考えました。
精神的自由の追求: 外的な束縛から解放され、内なる心の自由を得ることを理想としました。
生死を超越した境地: 生と死を自然の循環の一部として捉え、恐れることなく受け入れる境地を目指しました。
著書『荘子』
荘子の思想は、彼の名を冠した書物『荘子』に詳しく述べられています。『荘子』は、内篇、外篇、雑篇の三部から構成されており、一般的に内篇の7篇が荘子自身の著作と考えられています。
引用されている場面
「尾を塗中に曳かんとす」という言葉の意味は「能力や特性に見合わない地位や生き方を無理して選択するよりも、己を知り、自分の良さを活かすことができるスタイルで生きたほうがいい」という意味に解釈することができることを紹介させていただきました。
そして、一般的には「泥にまみれる」という表現で引用されることが多いです。
スラムダンクの魚住

「華麗な技をもつ河田は鯛(たい)…お前に華麗なんて言葉が似合うと思うか 赤木 お前は鰈(かれい)だ 泥にまみれろよ」
魚住から赤木への激励の一言です。
自分は相手チームの山王の河田のようにはなれない。けど、チームが勝つために自分にしかできないことはできる!いまはなりたい姿と自分のギャップに悲観するんじゃなくて、自分ができることに全力で取り組むことが大切だ!ということに気づかせてくれる名シーンです。
バキ童貞チャンネルの上田ピーター博士

2025年5月の現時点で登録者数180万人以上の人気チャンネルである『バキ童チャンネル【ぐんぴぃ】』に出演したピーター博士が「泥にまみれろ」という言葉を放っています。
ピーター博士はスウェーデン人の父と日本人の母を持つ、1985年スウェーデン生まれの医師、医学者、著述家です。(本名は上田ピーター)
マッキンゼーでの勤務経験があったり、東京大学で客員研究員として働いていたりと、キャリアからかなり頭脳明晰であることが垣間見えます。
ピーター博士とぐんぴぃさんが監修し、谷口つばささんという芸人兼作家の執筆による『博士の愛したDT』という本が出版されたさいの、告知動画の中でピーター博士が「泥にまみれろ」と発言しました。
※14:40 あたりで「泥にまみれろ」の発言があります
執筆担当による谷口さんは、原稿を仕上げていくうえで、最初は書籍全体のまとめとして「幸せや友情とはなにか」という一般論で締めくくろうとしていたようですが、その草稿を読んだピーター博士が一言、「泥にまみれろ」というメッセージを伝えたそうです。
これは決して谷口さんの草稿をコケにしているのではなく、作り上げようとしている書籍のコンセプトをドストレートに伝えるために、ピーター博士の豊富なボキャブラリーの中から選択されたの最適な一言でした。
実際にピーターは博士からの「泥にまみれろ」という一言を受けた谷口つばささんは、ほとんど書き終えていた草稿の最終章をかなりの短納期の中ほとんど書き直したそうです。ピーター博士に言われたから書き直したというよりは、ピーター博士の言葉から気づきを得て、もっと正直に、腹の底からすべてを出し切って書くことができた。と動画の中でも語っています。
ピーター博士は博識の方ですが、日本の漫画カルチャーの大ファンでもあります。これは私の想像ですが、きっとピーター博士は「泥にまみれろ」という言葉を『荘子の「尾を塗中に曳かんとす」』と『スラムダンクの「泥にまみれろよ」』の両方の意味を持たせて、一言に乗せて伝えたんではないかと思います。
実際、書籍『博士の愛したDT』の最終章はかなり読みごたえがある内容になっていました。最終章を読むだけでも、一本の小説をお読み終えた後のような、謎のさわやかな読後感がありました。
まとめ
今回紹介させていただいた名言はこちらでした!
泥にまみれろ
「泥臭い」という言葉は、「あかぬけてない、洗練されていない」という、意味ですが、「泥臭い」という言葉には多少なりともポジティブな印象が含まれています。
例えば「泥臭い生き方」なんて言うときは、少なくとも「それでも良い」いや、「むしろその方が良い」といった意味が含まれているニュアンスがありますよね。
何事にも向上心をもって取り組むことは素晴らしいことですが、向上心に執着してしまうと自分を見失いがちになってしまいます。
どんな立場でも役割でも「泥にまみれる」精神は忘れないでいたいものですね。
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改めましてこんにちは。『Nick』と申します。大学は出てないけれど読書を続けて外資系企業で10年以上。そんな等身大のサラリーマンが200冊以上の読書経験と、日々の仕事や暮らしの中で出会った「心に刺さる名言」を紹介します。マンガ・アニメ・映画などサブカルチャーからの引用も多数掲載!
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