いい文章が書けない原因は、才能ではなく睡眠不足でした。
休日の午後。
いつものカフェで、私は友達と向かい合って座っていた。
アイスカフェラテが運ばれてきて、二人で「いただきます」と笑う。
友達がストローをくるくる回しながら言った。
「最近、全然いい文章が書けない。」
私は少しだけ考えて聞いた。
「昨日、何時に寝た?」
「午前二時。」
「一昨日は?」
「三時。」
「その前は?」
「覚えてない。」
私は静かにカフェラテを飲んだ。
「犯人、ほぼ確定。」
「え?」
「寝不足。」
友達は大げさに首をかしげた。
「そんなことで?」
「そんなこと。」
「もっと文章術っぽい答えを期待してた。」
「例えば?」
「比喩表現とか。構成とか。読者心理とか。」
私は笑った。
「その前に寝よう。」
友達は吹き出した。
「夢がないなぁ。」
「いや、夢を見るくらい寝よう。」
「うまいこと言ったつもり?」
「ちょっとだけ。」
二人で笑った。
私はケーキをひと口食べる。
「ね、スマホって充電が5%になると動きが悪くなるでしょ?」
「うん。」
「寝不足の脳も同じ。」
「私、毎日5%で生きてるかも。」
「それじゃ文章も『省エネモード』になるよ。」
「だから最近、一文が短いのかな。」
「それは読みやすいからセーフ。」
「助かった。」
また笑う。
少しして、友達が真面目な顔になった。
「でもさ。本当に寝るだけで変わる?」
「結構変わる。」
「そんなに?」
「朝起きたら、一文目がスッと出てくる日があるの。逆に寝不足の日はタイトルだけで疲れる。」
「分かる!」
「一行書いて、お茶飲んで。二行書いて、SNS見て。」
「あるある!」
「気づいたら猫の動画見てる。」
「私はパンダ。」
二人とも笑いすぎて、店員さんが少しだけこっちを見た。
「あとね、ちゃんと食べることも大事。」
私はフォークを置いた。
「え、文章とご飯?」
「関係あるよ。」
「私は今日、グミしか食べてない。」
「だからその顔なのか。」
「どんな顔?」
「脳みそがお腹すいてる顔。」
「そんな顔ある?」
「今、初めて見た。」
友達は笑いながらメニューを開いた。
少しして、熱々のサンドイッチが運ばれてきた。
友達は一口食べて目を丸くする。
「おいしい。」
「よかった。」
「なんか元気出てきた。」
「でしょ?」
私はうなずいた。
「いい文章ってね、特別な才能だけで書くものじゃないと思う。」
「じゃあ何?」
「ちゃんと眠ること。ちゃんと食べること。ちゃんと笑うこと。」
友達は少し考えてから言った。
「全部、小学生でもできそう。」
「だから意外と忘れるんだよ。」
窓の外では、夏の風が木を揺らしていた。
私はカップを持ちながら続ける。
「読者って、文章だけじゃなくて、書いた人の元気まで読んでる気がする。」
「元気まで?」
「イライラしてたら伝わるし。」
「焦ってても?」
「伝わる。」
「寝不足も?」
「たぶん伝わる。」
友達は苦笑いした。
「じゃあ私の記事、最近ずっと眠そうだったか。」
「途中であくびしてたかも。」
「文章が?」
「うん。『ふぁ〜』って。」
「そんな記事ある?」
「新ジャンル。」
お互い声を出して笑った。
会計を済ませて、お店を出る。
すると友達がスマホを取り出した。
「よし、今日のこと記事にする。」
私は思わず笑った。
「いいけど、その前に今日の結論、覚えてる?」
友達は少し考えてから笑顔で答えた。
「今日は早く寝る。」
「正解。」
「でも寝る前に記事だけ……。」
「だから、それがダメなの!」
思わず二人で笑ってしまった。
その夜。
友達は記事を書かなかった。
代わりに、ぐっすり眠った。
そして翌朝。
「昨日より書きやすい。」
その一言が、どんな文章術の本より説得力があった。
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