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珈琲日記の焙煎理論【第3回】火力を一定に保つ焙煎設計と、ウォームアップの本質〜 熱を「流れ」で制御するという発想 〜

こんにちは、珈琲日記の小林です。

本稿は、私自身の36年間の実践経験と、現在明らかにされている科学的知見とを組み合わせたものです。一部には経験に基づく仮説も含まれていますが、可能であれば、ぜひ実際の現場での検証を通じてご確認いただければ幸いです。

また、もしこの理論をご覧になった科学者の方がいらっしゃいましたら、ぜひご意見をお聞かせください。

私は、コーヒーを科学的に探究する方々の一助となることを願っております。もちろん、厳しいご批判も覚悟しておりますが、できれば否定にとどまらず、科学的に実証・検証していただけると、これ以上に嬉しいことはありません。

これまで全国の数十軒におよぶ焙煎事業者様からご相談をいただき、実際に触れてきた焙煎機は数え切れません。
私自身が最初に手にしたのは、36年前、ラッキーコーヒーマシンの半熱風式8kg釜。その後、同社の直火4kg、フジローヤルの直火3kg、完全熱風焙煎機5kgと機種を乗り換えながら、焙煎に向き合ってきました。

また、ご相談を受けた現場では、国産機のフジローヤル(直火・半熱風・熱風)だけでなく、海外製のPROBATやDIEDRICHといった焙煎機にも多く関わってきました。
それぞれに構造や癖、設置環境に応じた個性があります。
私はどの焙煎機も魅力的だと感じていますが、火力とダンパーの両方に細かくアクセスできる焙煎機は、その環境に応じた最適な基準設定を見つけやすく、とくに扱いやすいと感じています。
焙煎中に火力を頻繁に変えるのではなく、初期の設計段階で「どこを基準とするか」を探るための調整幅があることが、非常に重要だと考えています。

私は、焙煎技術指導のご依頼があった場合は、私の焙煎プロファイルや、珈琲日記の味を押し付けるような指導はしません。


まずは、「どこのお店のような味にしたいですか?」とか、「どの抽出器具で、何℃のお湯で抽出してますか?」など、細かくヒアリングして、目的に合ったプロファイルを設計して指導します。

もちろん、「珈琲日記と同じ豆を焼きたい」とのご希望があれば、全く同じプロファイルで指導させていただいております。

自分のコーヒーが一番などとは思っておりませんが、珈琲日記のファンの方々には、珈琲日記らしいコーヒーを、いつも安定してお届けしたいと思っております。

プロの仕事は、お客様が言う「あの味」の再現性がなければお客様は離れていきますので、最低限その年の同じロットの原料は、「あの味」を再現できることが「技術」だと考えています。

では、第3回目に入ります。

【第3回】火力を一定に保つ焙煎設計と、ウォームアップの本質
〜 熱を「流れ」で制御するという発想 〜

「今日はうまく焼けた。でも昨日と少し違う……」

焙煎の出来不出来は、テイスティング以前の段階である程度見えていることも少なくありません。

たとえば「色」「形」「艶」「皺」といった見た目の要素や、焙煎中の「香り」や「音」などからも、焙煎の成否を読み取ることが可能です。

私がこれまで全国で焙煎指導をしてきた中で、最も多く寄せられる悩みのひとつが、この「仕上がりの不安定さ」でした。 そしてその原因の多くが、火力の変動にあると私は考えています。

もちろん、焙煎機の設置環境――焙煎室の吸排気のバランスや煙突の太さ、取回し、生豆の良し悪しやポテンシャルなど――も無視できない重要な要因です。
しかし、それら外的条件を一定とした上でも、火力の安定こそが、焙煎の再現性に直結するもっとも重要な基盤です。

私は、基本的に生豆のチャージから煎り止めまで火力(ガス圧)を一定に保つ設計を取っています。
その代わり、排気(ダンパー)、蓄熱、時間の使い方によって、焙煎機内の熱の流れと圧力を設計します。 この「火力一定」という設計思想の前提となるのが、次に述べる「ウォームアップ(暖機運転)」の工程です。

■ ウォームアップ・・・ 熱慣性をつくるための前準備

焙煎において、もっとも重要な準備工程のひとつが「ウォームアップ(暖機運転)」です。

焙煎中は火力を一定に保つことを基本としていますが、ウォームアップの段階では火力・ダンパーの両方を細かく調整しながら、釜全体に均質な熱慣性をつくっていきます。

とくに意識しているのは、次の3つの温度指標のバランスです。

  • 釜内温度(ドラム内部の空気温度)

  • 排気温度(煙突を抜ける温度)

  • 釜温度(前面の鉄板に蓄積された熱)

この3つの温度指標が適正なバランスで整っていなければ、豆の外側だけが加熱されたり、過剰に蒸らされたりといった問題が起きやすくなります。つまり、釜全体が「均質な熱の塊」になっていることが、理想的な焙煎の前提条件なのです。
どれか一つでも極端に過不足があれば、焙煎序盤の設計は崩れてしまいます。

ウォームアップの手順(例)

1.    最初はやや強めの火力で釜温を上げていく
2.    途中で火力を少し落とし、排気を絞りつつ蓄熱を促進する
3.    釜温が目的の温度に到達し、排気温・釜内温とバランスが取れたら準備完了

このようにして焙煎前から釜全体に理想的な熱環境をつくっておくことで、再現性のある焙煎の土台が整います。

● 釜温度の目安

焙煎機の蓄熱状態を判断するための指標として、私は主に「釜温(鉄板の温度)」と「排気温度」を見ています。

たとえば釜容量の80%ほどの生豆をチャージする場合、釜温の理想は95〜100℃です。

これを下回ると投入時の温度が足りず、ボトムが深くなってしまい、立ち上がりに失敗します。 逆に高すぎると、投入直後から豆が過加熱状態に入り、色づきが不安定になります。

なお、3〜5kg釜で短時間(8〜12分)の焙煎を設計する場合、同じ釜温でもRoR(Rate of Rise:温度上昇率)は自然と高くなります。
そのため、必要に応じて釜温を105℃前後まで高めに設定することもあります。
ただし、この設計を成立させるには、

  • チャージ量を釜容量の40%以下に抑えること

  • 焙煎時間の短縮による熱伝達の暴れをコントロールすること

が必要です。
特にRoRが高くなりすぎると、一粒一粒の焼きムラもさることながら、内部と外部の焼きムラが顕著になり、2nd Crack以降では表面焦げが進行し、「焦げ臭」が強く出る傾向があります。

したがって、短時間焙煎を採用する場合は、浅煎りまでの範囲で設計を止めるのが望ましく、深煎りを目指す場合には別の設計アプローチが必要です。

■ ダンパーで「空気の流れ」と「内圧」を調整する

火力を一定に保つことで、焙煎中の熱流設計は排気(ダンパー)の調整に集中できます。 以下に、各フェーズごとの温度帯と排気設計の目安を示します。
(※内圧の数値は、ダンパーを全閉=100%、全開=0%として表現しています。)
※なお、実際には安全設計上、ダンパーが完全に閉じ切ることはありません。全閉状態では酸素供給が不足し、不完全燃焼を引き起こすためです。

■ 各フェーズにおける設計と排気調整
(※RoR(Rate of Rise)が高くなると、豆の温度上昇が早いため、各反応が起こる温度帯もやや高めにずれ込む傾向があります。そのため、フェーズの境界は絶対的なものではなく、あくまで目安としてご覧ください。)

火力一定にするための“備え”とは?

焙煎中に火力を一定に保つためには、ガス圧そのものの安定性が欠かせません。
私は、ガス圧メーターと炎の大きさを常に目視し、外気温や連続使用の影響を考慮して、ウォームアップ段階で微調整しています。

◽️各焙煎フェーズにおける温度帯・内圧とその目的 ※内圧は「ダンパー全閉=100%、全開=0%」として表現

各フェーズと排気内圧の目安


火力一定にするための「備え」とは?

焙煎中に火力を一定に保つためには、ガス圧そのものの安定性が欠かせません。
ガス圧メーターと炎の大きさを常に目視し、外気温や連続使用の影響を考慮して、ウォームアップ段階で微調整しています。
(現在、機種によっては、AIによる自動微調整も可能となっております。)

  • 都市ガス: 時間帯や地域によって圧力が変動することがあります

  • プロパン: ボンベが冷えると火力が下がる傾向があります

こうした変動を予測し、ウォームアップの時間や釜温で補正しておくことで、実質的な火力のズレを最小限に抑えることができます。

■なぜ「火力一定」が再現性を生むのか?

焙煎における「再現性」とは、同じプロファイルで焼いたときに、同じ香味が得られることです。
そのためには、変数(可変要素)を極力減らすことが大切です。

・火力:一定に保ち、余計な変数を排除することで熱設計が明確になる
・排気:フェーズごとに数値と時間で制御し、熱の流れを調整(内圧)
・投入量:釜容量の80%を目安にすることで蓄熱とのバランスを確保
・環境:室温や湿度を記録し、日々の変化に対応する(気密性の高い焙煎機ほど、外気の影響は受けにくい傾向にあります。※国産機にはほとんど存在しません。)

これらを統一しながら、設計と記録を繰り返すことで、焙煎の再現性は飛躍的に向上します。

まとめ:火力は「定数」、制御は「流れ」で考える

焙煎とは「火で焼く」作業ではなく、「熱を設計する」作業です。
火力を一定に保つことで、焙煎中の温度や圧力、香味の変化がより明確に捉えられるようになります。
そして、排気・蓄熱・構造設計といった“空気の流れ”に集中できるようになるのです。
この一貫性こそが、私が考える「再現性ある焙煎」の出発点です。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

では、また。


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