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珈琲日記の焙煎理論【第2回】生焼けではなく、芯を残す焙煎~ 熱伝導の正確な制御が、風味の安定性を決める ~

こんにちは、珈琲日記の小林です。

前回から始まった「珈琲日記の焙煎理論」は、私自身が数万回にわたって焙煎と検証を繰り返してきた中で導き出した、「仮説」に基づく理論です。

この35年間、焙煎に携わるなかで、コーヒーに関するさまざまな現象が科学的に解明されてきました。
そのたびに、自分の理論とのすり合わせを行い、再検証を重ねてきました。

しかしながら、コーヒーの世界には、いまだに解明されていないことが数多くあり、多くの理論が仮説の段階にとどまっているのが現実です。

それでも、たとえ仮説であっても、記録として残しておくことで、未来につながる可能性があると思っています。

否定されようが、批判されようが、実験の結果としてそうなっているのですから、それはそれで仕方のないことです。笑

だからこそ、「残さないよりは、残した方がマシ」 。。。そんな思いで、今回の言語化に取り組んでおります。
どうか温かい目で見守っていただけたら幸いです。

それでは、前回の続きをお届けします。


【第2回】生焼けではなく、芯を残す焙煎
~ 熱伝導の正確な制御が、風味の安定性を決める ~

焙煎の世界では、「この豆、生焼けかもしれない」とか「芯まで火が入っていない」「ちゃんと芯に火が入っている」などという表現をよく耳にします。

この「生焼け」「火が入っている」という表現は「脱水」がうまくできているかどうかという話です。
ドライフェーズという表現があるからこそ、「いかに上手に脱水するか」ということに重きを置いているようです。
しかし、珈琲日記で、「生焼け」とは、単に芯まで脱水できていない状態ではなく「芯まで熱が十分に伝わっていない」状態のことを指します。
そして、それは「芯に水分が残っている」こととはまったく別の次元の話です。

さらに、珈琲日記では「火が入っている」ではなく「熱が届いている」と表現します。
業界でもこの表現をしている人をたまに見かけます。

■ 生焼け=熱伝導不足、芯残し=熱伝導済み+水分保持

私が焙煎で重要視しているのは、「芯に熱が届いているかどうか」です。
熱が芯に届いていない場合、それは「生焼け」と判断します。

その判断は、抽出してカップにした時の「テイスティング」によって判断します。
冷めていく毎に、渋味、エグ味、穀物臭が強くなる。または抽出液の温度変化に伴う香味の変化が大きい場合「生焼け」と判断します。

温度変化に伴う香味変化が大きいほど、「クリーンカップ」に仕上げられていない場合が多く、焙煎技術の「過度の生焼け」による「味の濁り」がアフターテイストに現れます。
これを「余韻」と表現するには、あまりにも苦しいと思います。

しかし、この「生焼け」は意図している場合もございますので、目的通りに仕上がっている場合は、それがベストと判断します。

ですから、「生焼け」という言葉は、ネガティブでもポジティブでもなく、技術の一つであるという考え方です。

要するに、「生焼け」も「焦げ」も、それを狙っているなら、技術ということです。

一方で、熱が芯まで到達しているにもかかわらず、あえて水分を完全に抜ききらない焙煎もあります。
私はこれを「芯を残す設計」と呼んでいます。
これは、雑味、渋味、エグ味が残る「生焼け」とは全く別の話で、成分がしっかりと熱分解され、本当の意味での「クリーンカップ」に仕上げるためのデザインです。

この違いは、豆の構造・化学変化・抽出時の挙動に明確な影響を与えます。

■ 芯残しの意図と効果

芯にわずかに水分を残すことにより、抽出時に内部での加水分解反応が持続しやすくなります。
この反応により、苦味成分であるクロロゲン酸ラクトンの生成が抑制され、味がより滑らかになり、冷めたときの雑味が減少する傾向があります。

特に88〜95℃の高温抽出を前提とする場合、水分が完全に抜けた豆では、苦味成分が強く出過ぎることがあります。
そのため、「芯まで熱を伝えたうえで、水分を抜きすぎない」という設計は、味の安定性を確保するうえで有効です。

■ 熱伝導を制御する二つの要素:水分と組織密度

熱が芯まで伝わるかどうかは、主に以下の2つの要素によって決まります:
熱伝導率 ∝ 水分量 × 組織密度

  • 水分量:熱を伝える媒体。適度な水分が存在することで、表面から芯へと熱が均一に伝わる。

  • 組織密度:豆の繊維構造。密度が高いほど熱の伝達は遅くなるが、一定の安定性が得られる。

この2つの要素を基に、私は豆の個性に応じて熱設計を調整しています。

■ 豆の特性別:熱設計の考え方

● 小粒・硬質豆(例:グァテマラ、コスタリカなどの小粒品種)

  • 表面が先に乾きやすく、芯まで熱が伝わりにくい。

  • 小粒なため、エネルギーを保持できず、初期温度上昇が緩やか。

  • 短時間焙煎の場合、1st crack以降、一気に温度上昇しやすく、煎り止めの判断がしずらい。

  • 対応:火力を控えめにし、ウェット工程を長めに取って芯の水熱処理を促進。


● 大粒種(例:マラゴジッペ、パカマラ)

  • 芯に水分が残りやすく、内部での急激な気化による構造破壊が起きやすい。

  • 対応:火力は抑制し、排気を強めてガスを逃がす。特に1st crack以降の圧力制御が重要。


● 肉厚な豆(例:ケニアSLなど)

  • 熱伝導が早く、苦味成分の生成が進みやすい。

  • 対応:「肉厚だから、火が入りにくい」という概念を捨て、ウェット工程を長くとりすぎず、通常の2~5分(最大)で115℃に到達し、メイラード反応→カラメル化を短めに設計。煎りすぎに注意する。ただし、脱水しすぎなければ、かなりの深煎りでも苦味が目立たない豆である。


● 小粒で糖度・密度が低めの豆(例:エチオピア・ナチュラル)

  • 温度上昇が早く、反応も速い。

  • 対応:前半の温度制御を慎重に行い、糖のリアクションをコントロールする。


■ ウェット工程の役割
第1回でも述べましたとおり、焙煎初期のウェット工程(2〜5分、豆温115℃まで)で、
芯まで水熱を通す処理を行うことが、後の熱伝導を安定させます。
この工程によって、芯まで熱が届く環境が整い、
水分保持と熱伝導のバランスがとれた状態で次のフェーズに移行できます。

■ 芯まで熱が届いていれば、水分は「保持」できる

芯まで熱を通したうえで水分をある程度残しても、
それは「生焼け」ではなく、「構造的に安定した芯残し」として機能します。
この芯残しによって、冷めても味が崩れにくい焙煎が実現します。
これは、高温抽出でも風味のバランスを保つうえで非常に重要な要素です。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

では、また。




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