見出し画像

AIの考えた◯◯な話: 雨音を預かる店

商店街のいちばん端に、「雨音預かります」と墨書きした小さな店があった。
店主の志乃は、客が瓶に詰めて持ち込む雨音を、棚の上に日付順で並べていた。
六月の軒先を叩く軽い音、台風の夜に窓を震わせた低い音、誰かを見送った駅のホームに降った細い音。
瓶を耳に当てると、雨だけでなく、その日に言えなかった言葉まで微かに聞こえた。

ある夕方、制服姿の少年が、空の瓶を握って店に来た。
「まだ降っていない雨も、預けられますか」
志乃が理由を尋ねると、少年は明日、遠い町へ引っ越すのだと言った。
幼なじみに別れを告げられず、せめて明日が雨なら、傘の下で少し長く歩ける気がするらしい。
志乃は空瓶の蓋を開け、棚の奥から銀色の漏斗を取り出した。
「未来の雨は預かれません。でも、降ってほしいと願った音なら、ここに入ります」
少年が瓶に向かって息を吹くと、からん、と一粒だけガラスを打つ音がした。

翌日は、雲一つない青空だった。
少年は落胆しながら待ち合わせの橋へ向かったが、幼なじみは黄色い傘を差して立っていた。
「晴れてるのに変だよね。でも、今日は傘が要る気がした」
二人は一本の傘に入り、橋を渡った。
狭い影の中で肩が触れ、少年はようやく「行ってきます」と言えた。
幼なじみは泣かずに、「待ってる」と答えた。

その夜、志乃の店の棚で、空だったはずの瓶が静かに鳴った。
雨粒ではなく、二人の足音が、遠ざかりながら重なっていた。
志乃は札に日付を書き、その下へ小さく記した。
――晴天。のち、心に雨。
そして瓶を、いつか誰かが迎えに来られる高さへ置いた。



これは『言えなかった別れを包む、晴れの日の雨』の話。

いいなと思ったら応援しよう!