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トマトはひそかに増え続ける。

この夏、赤いトマトが私のもとに
たくさん集まってきたのだった。

スーパーマーケットで3個180円で買った翌日、
家庭菜園が趣味という知り合いから、
たくさん獲れたからあげるよと
トマトを4個もらった。
そのまた次の日には
職場の人からもトマトを持たされた。
「近所の農家の人がね、大きくなり過ぎちゃって
店頭に出せないからってくれたのよ」
と、その人は言い、
巨大化した真っ赤なトマトをせっせと袋詰めしては、皆のロッカーにぶち込んでいった。
握りこぶしふたつ分くらいあるトマトは、
あたりを圧倒していた。
手のひらに乗せるとずっしりと重い。
どうしたらこんなに大きくなるのだ。



家に帰ってから重さを計って見ると、
なんとトマト1個で480グラムもあった!
何しろこれ以上は無理、
というくらいの熟し具合だったので、
早急に食べなければならなかった。
少々不恰好でも、
切ってしまえばわからないもの。
ヘタをとって輪切りにし、
イタリアンドレッシングをかけてから
冷蔵庫に入れる。
トマトがよく冷えた頃、
カットしたモッツァレラチーズを添えると
小洒落た夏の一皿になるのだから、
かたちの良い悪いは意味をなさない。

とにかく私の冷蔵庫は、
トマトでいっぱいになった。
サラダやパスタだけでは間に合わない量だ。
炒め物にもトマト(卵とトマトの中華風炒め)。
スープにもトマト(ミネストローネに
生トマトをプラス)。
付け合わせにもトマト(主菜のかたわらには
いつもトマト)。
トマトづくしのトマト定食だ。
いよいよとなったら、
みそ汁に入れたり茶碗に盛ったり
しなければならないのではないか、
という恐れすら感じた。
順番待ちのトマトたちは、
まだたっぷり控えている。
それなのに、食べ終わりそうな頃になると、
どこからともなくまたトマトがやってくる。
無限トマト状態だ。

今の時点で
我が家にトマトはいくつあるのだろうかと
数えてみたところ、
大小合わせて11個もあった。
それはおかしい。
最初に自分で3個買い、
そのあと知り合いから4個もらい、
その次に職場の人から巨大トマトを
2個もらった。
数が合わないではないか。
私の知らないところで
トマトは勝手に増殖しているようだ。
明日は何個になっているのだろうと、
細く開けた扉越しに冷蔵庫を覗く。


トマトに追われているとはいっても、
決して嫌な気分ではない。
どのトマトも甘くてとても味が濃い。
このところの生育条件が良いのだろう。
トマトが集まると太陽の匂いがした。

トマトの栄養といえば、リコピンである。
強力な抗酸化作用、美容効果、老化防止や
生活習慣病予防にも良いといわれている、
あのリコピンだ。
リコピンは生食よりも加熱調理をした方がいい。油とともに食べることで吸収率がアップする。
トマト煮込みやトマトスープ、トマトパスタなどは、余すことなくトマトの栄養をとることができそうだ。自然の恵みはありがたい。

私の父は、よく庭で野菜を栽培していた。
夏場に実る野菜は多かった。
トマト、茄子、きゅうり、とうもろこし、枝豆。
それらが次から次へと実るので、
収穫するのに大忙しだった。
もちろん食べるのも。

夏休みには野菜の収穫が、
私たち子供の仕事として割り振られていた。
ざるとハサミをもって庭へ出て、
充分に熟したものを選んでは
ハサミでチョキンと枝から切ってゆく。
おかげでどれが一番美味しい頃合いなのかを
見極める目は養われたと思う。
実地訓練が一番効果的なのだ。
トマトでいえば、とにかく赤いこと。
これに尽きる。
それから緑色のヘタがピンと立ち、
ハリのあるつややかなものが良い。
手のひらに乗せてみた時に重みがあるのは、
中身が詰まっている証だ。

思えば子供の頃の夏休みの食卓も、
夏野菜ざんまいだった。
庭で取れた野菜が毎日(ほば毎食)登場した。
それは正真正銘採れたてで、
細胞がまだヒクヒクしているような
新鮮なものだったのだ。
なんと贅沢なことだろう。
いいかげん飽き飽きしてゲンナリしながら
食べていたけれど、
あの夏野菜たちが
夏バテしない体にしてくれていたのだった。


今、たくさんのトマトを前にして思う。
トマトたちよ、
安心して増え続けるがいい。
私はどこまでも付き合う覚悟はできているから。
そうして立派な夏のからだになって、
この猛暑を乗り切ってやるのだ。


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鈴懸ねいろ 文章を書いて生きていきたい。 ✳︎ 紙媒体の本を創りたい。という目標があります。

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