トートバッグいっぱいの呪いを。11.
♢
半井さんの話を聞いて、花蓮さんはパパのことが好きなのだとわかった。
パパはどうだろう。
僕たちよりも花蓮さんを好きになったりするのだろうか。
僕たちの写真の前で手を合わせて、ごめん、この人と新しい家族になることを許してほしい、
なんて言われたら、僕はどうしたらいいかわからない。
パパが笑って暮らしていてくれたら僕も嬉しい。でも、いつまでも僕だけのパパでいてほしいのだ。僕は物分かりがいい方じゃない。
生きていれば心も変わってゆくのだろう。それが悲しい。
僕たちは永遠にパパを愛してるのに、パパはいつか、僕たちがいないことに慣れてゆく。
そして、他の人を選ぶ日がくるのならば、未来なんてものは来なくていい。
時間よ止まれ。
じっとしてろ。
ママはどうして花蓮さんに呪いの折り鶴を作らないのだろう。この家に来ることが怖くなる呪いとか、パパと付き合うと良くないことが起こる呪いとか、いくらでも呪いの言葉を書くことができるのに。
「パパはひとりぼっちになっちゃったのよ。カイと私をいっぺんに失くして。ただいまって帰ってきても、誰も返事をしない。毎日ひとりきりでご飯を食べて、そうやって歳をとって、寂しいおじいさんになっていくんだよ。可哀想だと思わない?」
「パパはひとりじゃないよ。僕たちはここにいる。ずっとパパのそばにいる」
「そうね。でも、パパには私たちの声は聞こえないし、姿も見えないの」
透明な僕はパパに何もしてあげられないという現実が、こんなに苦しいなんて。
生きている人同士でなければできないことがあることを恨んだ。
「あの人がいることで、パパが辛い思いをしなくてすむのなら、それもいいかもと思うのよね」
そんなことを言うママを嫌いになりそうで、僕は自分の頭をぽかすか殴った。
「パパは僕たちだけのパパだよ。花蓮さんが優しい人でも、パパにはあの人を好きにならないでほしいんだ」
「人はひとりでは生きていけないのよ」
ママがどうしてそんなことを言うのか、僕にはわからない。
「それなら僕はパパに呪いをかける。パパが僕たちのそばから離れない呪いだよ。花蓮さんへの呪いじゃないよ。それならいいでしょう」
ママが見つめるなか、僕は猛然と折り紙に書き殴っていった。
パパが花蓮さんを好きにならない呪い。
パパが花蓮さんと付き合ったら良くないことが起こりまくる呪い。
パパと花蓮さんが会おうとすると、電車が止まったり道路が渋滞する呪い。
パパと花蓮さんが会う予定の日は大雨で洪水になる呪い。
花蓮さんと会おうとするとパパのお腹が痛くなる呪い。
気持ちとは裏腹に、折り鶴は明るいカラフルな山を作った。
何かに取り憑かれたように(幽霊の僕がいまさら何に取り憑かれるというのだ)太陽が昇ってから沈むまでの間、僕は呪いの言葉を何十、何百と書き連ねていった。
(12.へ続く)↓
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文章を書いて生きていきたい。
✳︎
紙媒体の本を創りたい。という目標があります。
