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火遊びレニエ 40

翌日、おれは校長室へ呼び出された。理由はわかっていた。先週の試験の成績が悲惨だったからだ。
ルメー校長が重々しく宣言した。
「レニエ、この成績では進級はさせられない」
ルメー校長は大きく嘆息した。以前は全科目トップだったのに・・という気持ちがこもっていた。
おれは、ああ、やっぱりな・・と思った。前回の試験はちんぷんかんぷんだったからだ。これは初めての経験で最初は焦ったが、次第に新鮮な感じがした。結果、今回初めてフランソワが全科目トップになった。
校長室の脇のソファーにいつものように座っているフルニエ副校長が沈黙を破った。
「レニエ、原因は模擬合戦で負けたショックかね? それとも以前、ドミニクやオリヴィエが騒いでいた恋煩いかね?」
そんな質問に意味があるのだろうか? と、おれは内心反発したが黙っていた。
「模擬合戦であれば敗因をよく分析して報告書にまとめて提出しなさい。それが学びになる。その後は気にせぬことだ。もしご婦人への思いが原因なら、その方のためにも精進することだ」
おれはフルニエ副校長の方をじろっと見た。珍しくまともなことを言っている。こんなおっさんにまともなことを言われるほど今のおれはおかしいのか。これは重症だ。
ルメー校長が割り込んできた。
「レニエ、私はこの学校だけでなく様々なところで、恋煩いのために学業が手に着かなくなった若者を数多く見てきた。これは誰もが通る道だ。何も恥じることはない」
校長は一息ついた。
「しかし、その恋情に流されて本分をおろそかにしてはならん。情に流されるというのは、特に軍人としてはあってはならんのだ。わかるな? それが命取りになるどころか、隊の全滅、国家の滅亡につながりかねんのだ。ここは己を律することを学べ」
かつてマロン・グラッセの菓子に釣られていた2人組が、そろいもそろってまともなことを言って、おれがただ納得するしかないとは。おれは世のはかなさ、人生の不確かさをしみじみ感じながら聞いた。
「己を律するとは、具体的にどうすることなのですか? 自分で意識するだけでどうにかできるものなら、恋とは言わないのではありませんか?」
最後の方は反発だった。それができるなら苦労はしないさ。
ルメー校長とフルニエ副校長は顔を見合わせて、どちらが話すか目で相談していたが、副校長が口を開いた。
「相手のことを思って何も手に着かないなら、相手が誇りに思えるような男になると心に決めるのだ。自分が崇拝するお方にふさわしいのは、落ちこぼれか優秀な人間か明らかだろう?」
正論過ぎてぐうの音も出ない。この状態はジョルジェット嬢には知られたくないのだ。彼女の知っているであろう、何をやっても優秀な男の印象を壊したくない。
おれは目を閉じてジョルジェット嬢の顔を思い浮かべた。聖母マリアのような、ピンクのピオニーの花のような笑顔。絵を描いているときの真剣な表情。シャクトリ虫を素手で捕って得意気になっている顔。個展をしたときの興奮した様子、絵が売れたときのうれし泣き・・・
そうだ。あの人のためにおれはしっかりしないといけないのだ。あの人がおれの隣で何の心配もなく絵に打ち込めるようにしなければならないのだ。そのためには、成績ごときで問題になっているわけにはいかないのだ!
おれは目を開けて校長を見て、副校長へ視線を移した。
「わかりました。レニエ・ド・ジャルジェ、これから猛勉強いたします」
ふたりはおれの真剣な眼差しに驚いたようだったが、一瞬二人で顔を見合わせただけで、ルメー校長が締めた。
「うむ、それでよい。次の試験では挽回するように。ただ、現況はお父上に報告せねばならん。週末に帰省したときに、お父上ともよく話しなさい」
「承知しました」
おれは固い決意でそう答えたが、週末はその話どころではなくなっていた。

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