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火遊びレニエ 3

翌日は、先週の試験の結果が一斉に貼り出された。いつものことだがおれは全科目トップである。
夜、おれとドミニクと同室のオリヴィエでこっそり抜け出してパリの酒場へ飲みに行った。部屋から外へ出るあまり知られていないルートを通り、守衛を買収してあるので明け方までに帰れば大丈夫である。
大勢の酔客でにぎわっている酒場はうるさくて、ここで飲んでいる分にはあまり目立たないのでいい。
「しかしよう~、世の中不公平だよな」
かなり酔っ払ったオリヴィエが嘆いている。
「だってさあ、レニエは勉強もしないのに全科目トップだろう? 武芸もだし、何でだよぅ」
「そうだよな、まったくぅ」
ドミニクも相当酔っ払って相槌をうつ。
「まあ、授業はちゃんと聞いてるけど」
おれは静かに赤ワインを飲みながら答えた。
「あぁん? それだけしかしてないだろう? こっちはもっと勉強してるのにぃ」
ドミニクが不満をぶつけるとオリヴィエも続いた。
「それに顔だっていいしな。家は裕福な大貴族だし、お前に無いものって何だよ?」
「そうだ。火遊び相手のマダムも今3人いるんだっけ?」
おれは黙ってドミニクの言葉に頷いた。
「まあな、オリヴィエ、こういう奴は中年になったらデブデブに太ってツルッパゲになって見る影もなくなるんだ。そういうもんだ」
「そうかな。レニエに限っては案外今のままじゃないのか」
オリヴィエは納得できないらしい。
面白いのでおれは黙って聞いている。
「さもなくば、結婚相手がすごいイモ姉ちゃんで、こわ~い性格で尻に敷かれるとか」
親友の不幸を望む男・ドミニクが想像力をたくましくしている。
「ハハハ! だったらいいな!」
「オリヴィエ、わかったぞ、レニエに無いもの。謙虚さと挫折の経験だ!」
「確かに!」
オリヴィエが大笑いした。うん、確かにおれは謙虚ではないし、挫折の経験もないな。ドミニク、いいこと言う。
「おい、レニエ、お前、何かできないことあるのかよ?」
ドミニクがこっちへ絡んできたので、素直に答えた。
「エスパニョール(スペイン語)」
「そうか! そうだったな!」
ドミニクはスペイン国境近くの出身なので、子供の頃からスペイン語ができる。彼はその事実に気づいてすこぶる機嫌が良くなったようだ。
「お、やったな、ドミニク! レニエに勝てるものがあって! おれも何かないかな?」
「う~ん・・」
ドミニクは考え込んだ。オリヴィエは年中ニキビが絶えない垢抜けない顔だし、背も低い方だ。成績も家柄も普通である。条件だけでいえば凡庸だが、おれは口を開いた。
「オリヴィエは士官学校きってのロマンチストじゃないか?」
「あ、それがあったじゃないか!」
ドミニクも賛同した。オリヴィエは懐から詩集を取り出した。
「そうだ。士官学校や俗世間なんかにいると心が汚れるから、詩や美しい古典の悲恋物語を読んで心を清めているんだ・・」
オリヴィエは手を胸に当てて上を見た。あたかも天上の聖母マリアを見つめるように。
そしてうっとりとした声で言った。
「恋文の代筆ならいつでもしてやるよ・・うんとロマンチックな手紙で、どんなご婦人のハートもいちころさ・・」
「おう、じゃあ、今度頼むわ」
ドミニクが冗談か本気かわからない言い方をした。まあ、でもおれには必要ないな。この顔で十分だ。おれにない謙虚さをもって表現すれば、なかなかの男ぶり、普通に表現すれば絶世の美男だからな。
世の中なんかチョロい。思い通りにならないものなんてあるのか?
おれはニヤリとして赤ワインを飲み干した。

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