ねえ、お月さまってどんなあじ?
その夜、ウサギとカメは並んで腰をおろし、静かに空を見上げていた。
草の匂いを含んだ夜風が頬をすり抜け、
土手の木々はかすかに葉を揺らす。
虫の声が川のせせらぎに溶け合い、
澄んだ空には、まん丸のお月さまが、夢を見るように浮かんでいた。
手を伸ばせば、触れられる気がした。
でも、月の光は──やっぱり遠いまま。
絵本のページがふと思い浮かぶ。
小さな動物たちが、重なるようにして月をつかもうとしていたあのシーン。
(お月さまって……どんなあじ?)
無邪気な疑問に答えをみつけようと、必死に手を伸ばす動物たち。
指が触れそうになるたびに、
その分だけ高くのぼっていくお月さま。
その追いかけっこが、たまらなく可笑しくて……。
「動物たちを応援しながら読んでいたわ。
どんな味がするかって、わたしも知りたかったんだもの……」
カメはなにも言わず、
澄んだ瞳で夜空を見上げていた。
その静けさが、ウサギの心をやさしく包む。
「大人になるって、切ないわね。
だって……お月さまは食べられるお菓子じゃなくて、こうして見上げるものだって、気づいてしまったから」
風が通り過ぎ、スカートの裾を揺らした。
カメは持っていたアールグレイのペットボトルを、そっとウサギに手渡した。
ウサギの視線がカメの横顔をかすめ、
すうっと夜空へと逃げる。
すまし顔で見下ろす月と目を合わせたまま、ボトルにそっと口をつけた。
ウサギは小さく息を吐く。
「でもね、月って、分かちあえるものだって知ったの。ひとりで見上げる月と、いま、この瞬間はぜんぜん違うもの……」
水の音がふいに大きくなった。
虫の声が静まり返り──まるで、ふたりと一緒に月を仰いでいるかのようだった。
「いま、何を考えているか分かる?」
ウサギは小首を傾げて、
いたずらっぽく問いかけた。
「わたしね……やっぱり、
お月さまの味が気になるわ。だってほら、あんなに美味しそうよ?」
虫たちが賛成の声をあげる。
ウサギが背伸びして指先を伸ばすと──
お月さまは、ひょいっと高いところへ逃げていった。
<お月さまってどんなあじ?>
マイケル・グレイニエツ 絵と文/いずみちほこ・訳/らんか社
