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その手紙は、アール・ヌーヴォーのドレスで夢を見ていた…

「みなさんこんばんは。
“ウサギのティースプーン”のお時間です。
今夜も、紅茶の香りといっしょに、ちょっぴり時間の外からお届けします」

ウサギのしっとりした声が、
静かなスタジオの空気に溶けていく。

「ちょっと変わったお便りが届いています。
今日のお便りはパリから。しかも……“120年前”の日付です」

>わたしは──
いまいる世界から出ることができません。
>外の世界はどんなふうに変わるの……?

震えるように細い文字が、
花と蔦で埋め尽くされた紙にそっと書かれていた。

「アール・ヌーヴォーのデザインね。
ということは、アール・デコのことは知らないの……ね?」

ウサギはカップを傾け、
ひと口、紅茶を飲むと、リスナーに向かって静かに語り始めた。

「先日ね、アール・デコの展覧会に行ってきました。100年前の衣装なのに、驚くほど“今っぽくて”びっくりしたの」

「でもね──それは、
この手紙が出されたアール・ヌーヴォーの頃は、“当たり前”ではなかったの」

「ところが、時代が変わっていくと、
女性たちは歩きはじめたの。テニスをして、旅に出て、海で泳ぐまでしちゃう」

「お洋服も変わったわ。
生地は軽く、スカートは短く、見えるようになった靴が“オシャレ”を主張したの」

ウサギは少し間を置き、つづけた。

「外の世界は、それはそれは素晴らしいわ。
まだ誰も知らない服を選んで、まだ見ぬ景色を見にいくの。
──その時はきっと、あなたにも来るわ」

「さて、そろそろお別れのお時間です。
今夜のお話は、いかがだったでしょうか……。では、また次回お目にかかりましょう」

番組が終わると、
小さなスタジオに静寂が訪れた。

(考えてみると──
カメくんって、アール・ヌーヴォーの世界にいるわよね。なんとなく曲線っぽいし、そして重い。背負ってるものが……)

ウサギはもう一度手紙を見つめた。
「扉が開くのは、もうすぐよ……」

ウサギはスタジオの扉を押した。

まだ見ぬ時代を、
そっと開くかのように……

❖ アール・デコとモード ❖
三菱一号館美術館

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