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できたての、その先へ

帽子を揺らすゆるい風が、
道具街を歩くウサギとカメの間を、するりとすり抜けていく。

連なる店の軒先には、
所狭しと料理道具が並んでいた。
さまざまな形をしたお皿や、
きらりと光る包丁。
そして、ザルやたわしという脇役たち。

通り抜けていく人の波を、
道具たちはただ静かに、眺めていた。

「……不思議よね」
パフェが並ぶショーケースの前で、
ウサギはそっと足を止めた。

「だって、
スプーンを入れる前が一番きれいなのに、
すぐに食べてしまうんだもの」

「……美味しいって、罪よね」

すると、
ふいにショーケースのすきまから、
微かな声がこぼれ落ちた。

「……一度ぐらい、食べられてみたいな」

ショーケースの向こうで、
生クリームがほんの少し、
ため息をつくようにうつむいた。

ガラスの扉をくぐり抜け、
匂いの消えた空間にふたりはすべり込んだ。

ふわふわのパンケーキが、
ウサギの足を止めた。

「……このケーキたち、
甘い顔してこっち見てる」
「甘い顔?」

「だってほら。
“おいしそう?”って、そんな顔しているわ」
「誘惑に負けそうだね」

「ねえ、食べちゃう?」

カメは小さく息をついた。
「……わかるけど。
それだけは、思いとどまってほしい」

ラーメンがふたりに手を振った。
ふたりはつられるように、どんぶりのそばへ歩いていった。

「……つやつやね」
「……伸びないからね」

「ラーメンのくせに、
時間に負けないなんて。
ちょっと反則じゃない?」

ラーメンは、寂しげにつぶやいた。
「ずっと美味しいままなのに、
誰もすすってくれないんだ……」


「……味見してあげよっか?」
ウサギが声をかけると、ラーメンは顔を上げ、透明な湯気をあげた。

「ご、ごめんなさい。
……できることなら食べてあげたい。
それは、ほんとに本心よ」

店をあとにすると、
夕方の光が、頬をかすめる。
そばにある小さなカフェから、甘い香りがふわりと漂ってくる。

「……もう、限界だわ」

ウサギは導かれるまま、
本物の甘い香りにすうっと吸い寄せられていく。

永遠のできたては、
扉の向こうで──
ほんとうの姿にそっと変わった。

ウサギは、その甘い香りを胸いっぱいに吸いこんだ。

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