夏の階段は少しだけ気まぐれ
セミの大合唱が、
坂道いっぱいに降りそそぐ昼下がり。
照りつける陽射しを体中で浴びながら、ノノは小さな階段を登っていた。
「三十七……三十八……三十九」
最後まで登りきると、
ノノは額の汗をハンカチで拭いながら、
登ってきた階段を振り返った。
「あれ?」
「どうしたのよ」
あとから登ってきたウサギと目が合った。
「……降りる時は四十段だったわ」
ウサギはやっとのことで登りきると、
魂が抜けたような顔で携帯扇風機の風を浴びていた。
「……数え間違えたのよ」
けれど、
ノノは眉間にしわを寄せ、不服そうに階段を見下ろしていた。
「もう一回!」
ノノはゆっくりと、
一段ずつ数えながら階段を降りていく。
「十七……十八……」
途中から曲がっている階段の先で、
ノノの姿が見えなくなる。

しばらくすると──
「四十!」
小さな悲鳴が聞こえてきた。
そして再び、
小さな足音を響かせながら、
階段を登ってきた。
「三十七……三十八……三十九」
そこで固まった。
「……なんで?」
ノノはお化けを見るような目で、
ウサギを見つめた。
「夏休みだからって、
わたし、だまされないわよ!」
「誰もだましてないわよ」
「じゃあ、どうして同じにならないの?」
「……暑いからよ」
ウサギのだるい声を聞き流すように、
ノノはさっきよりさらにゆっくりと、一段ずつ数えながら階段を降りていく。
「十七……十八……」
その固い声は、
セミの大合唱で聞こえなくなる。
しばらくして──
「四十……ぇぇぇぇ!」
セミの声にも負けない悲鳴が、
坂道いっぱいに響いた。
ウサギはあわてて、
階段を駆け降りた。
「ほら、頭も体もちゃんと冷やしなさい♡」
階段に腰をかけて、
ノノは冷たい紅茶を飲んでいた。
ウサギは気づかうようにノノの背中をさすっている。
「……もう帰る?
こんなところでウロウロしてると、
本当にお化けが出てくるわよ」
ノノはゆっくり首を振った。
「今度こそ、
三十九にしてみせるんだから」
ノノはすっくと立ち上がった。
「ジジジジジーーー!」
まるで応援するかのように、
セミの声がひときわ大きくなる。
夕暮れにはまだ、
少しだけ時間が残っていた。
けれど──
セミたちの応援は、いつまでも終わりそうになかった。

