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ガスライティングに負けない脳を作る

1944年の映画『Gaslight(ガス燈)』では、夫が妻に対して「部屋のガス灯が暗くなっている」という事実を否定し続け、妻を「自分の感覚が狂っているのでは」と疑わせる。

ガスライティングは「相手の知覚や記憶を意図的に揺さぶり、自信を奪い、現実感を失わせる」行為のことだ。これは支配や洗脳に近く、被害者が加害者の現実解釈を受け入れるまで追い込む心理的操作である。

残念なことに、日常生活にもこのガスライティングのテクニックを用いて相手の認知を狂わせにかかる人たちが存在する。

個人間では、恋人や配偶者の支配関係が典型だ。相手が「あなたが言った」と主張していない言葉を何度も押しつけたり、「そんなことは起きていない」と事実を否定し続けたりする。被害者は次第に自分の記憶や感覚を疑い、加害者の現実解釈に依存していく。家庭内モラハラやドメスティックバイオレンスの一部では、この操作が体系的に行われている。

次に組織レベルでは、パワーハラスメントや内部通報への圧力などが挙げられる。職場での「そんな問題は存在しない」「お前の勘違いだ」という対応が繰り返されると、当事者は客観的な証拠があっても、自分の感じ方がおかしいのではと錯覚する。長期的には職場文化全体が沈黙を選ぶようになり、現実が歪んで共有される。

社会レベルの例では、国家やメディアによる情報操作がそれに近い形を取ることがある。事実を段階的に否定・改変し、国民の記憶を曖昧にしていく。たとえば歴史的事件の公式説明を頻繁に変更したり、矛盾する発表を重ねて「何が本当か分からない」状態を作る。結果として人々は疲弊し、判断を放棄する。

また、警察の自白強要では、長時間の取り調べで事実認識を繰り返し否定され、「記憶違いではないか」「本当はこうだったのでは」と誘導される。被疑者は次第に自信を失い、現実よりも取調官の語る筋書きの方が“真実らしく”感じられてくる。この状態を心理学では「誘導的記憶形成」と呼び、典型的なガスライティングである。

悪徳商法もこの類である。時間を理由に決断を迫り、業界の常識だとか、他の客もそうやっているというように権威や同調圧力を用いて判断力を奪い、かつ人の判断力の下がる夕方を狙って、契約書類に判をつかせる。

オレオレ詐欺も同様で、被害者の感情と現実認識を操作する。詐欺師は「あなたの息子が今すぐ危険だ」と強い恐怖と罪悪感を同時に刺激し、冷静な判断を奪う。途中で「もしかして詐欺かも」と気づいても、被害者は自分の判断力を疑い、「ここで信じない方が悪い親なのでは」と心理的圧迫を感じて行動してしまう。この認知不協和(Cognitive Dissonance)を突く点が、ガスライティング的だ。

悪人たちはガスライティングが大好きだ。ガスライティングは人間のセキュリティーホールで、悪人たちはそこに腕をつっこみ、人を喰い物にする。

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