【NY連銀】関税コストの9割は米国民が負担

関税を巡る議論が止まりませんが、先日、ニューヨーク連銀が非常に興味深いレポートを公表しました。テーマは「2025年の関税コストを実際に負担しているのは誰か?」というものです。
記事:Who Is Paying for the 2025 U.S. Tariffs? - Liberty Street Economics

多くの政治家が「関税は外国が支払うものだ」と主張しますが、データが示す現実はそれとは大きく異なります。投資家としても、またビジネスパーソンとしても無視できないこのレポートの内容を、分かりやすく解説します。


1. 2025年、アメリカの関税に何が起きたのか?

2025年を通じて、アメリカの輸入にかかる平均関税率は、年初の2.6%から年末には13%へと急上昇しました。

特に動きが激しかったのは4月から5月にかけてです。中国製品に対して125%という驚異的な関税引き上げが行われ、その直後に115%分が撤回されるという、市場を揺るがす「激震」がありました。

ここで一つ注目すべきは、「法律で定められた関税率(法定税率)」と、実際に徴収された「実効税率」の差です。例えば、カナダからの輸入には35%の関税が設定されていますが、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)などの例外措置により、実際には83%の品目が免税されています。つまり、ルール上の数字と実態には乖離があるものの、全体としての負担が激増したことに変わりはありません。

2. サプライチェーンの激変:中国からメキシコ、ベトナムへ

高い関税を回避するため、輸入業者は必死に動きました。その結果、アメリカの輸入構造は劇的に変化しています。

2017年にはアメリカの輸入の約25%を占めていた中国製品ですが、2024年には15%まで低下。そして2025年の最初の11ヶ月でさらに5ポイント下落し、ついに10%を切る水準まで落ち込みました。

中国がシェアを落とす一方で、その椅子を奪ったのがメキシコとベトナムです。企業は「高い関税を払うくらいなら、調達先を変える」という選択を鮮明に打ち出しています。

3. 「関税の帰着」:誰がコストを飲み込んでいるのか

経済学には「関税の帰着(Tariff Incidence)」という言葉があります。これは、関税というコストを「外国の輸出業者」と「国内の輸入業者(および消費者)」のどちらが負担しているか、という問題です。

理論上は、外国の業者が「市場シェアを失いたくない」と考えて販売価格を下げれば、外国側が負担することになります。しかし、ニューヨーク連銀が詳細なデータを分析した結果、驚くべき事実が判明しました。

「関税コストの約90%は、アメリカ国内の企業と消費者が負担している」

レポートによると、2025年1月〜8月にかけては、関税負担の94%がアメリカ側にかかっていました。つまり、10%の関税がかけられても、外国の業者は価格をわずか0.6%しか下げなかったのです。

4. 年末にかけての変化と今後の展望

興味深いことに、2025年の後半になると、外国の輸出業者も少しずつ価格を下げ始めました。11月時点の分析では、国内負担の割合は86%まで低下しています。

とはいえ、依然として圧倒的多数のコストはアメリカ国内で吸収されています。12月時点の平均関税率13%を当てはめると、関税対象となった商品の価格は、対象外の商品に比べて約11%も余計に上昇している計算になります。

結論:私たちが学ぶべきこと

このレポートが示唆するのは、関税は「魔法の杖」ではないということです。 輸入コストが上がれば、それは企業の利益を圧迫するか、最終的な製品価格に転嫁されて消費者の財布を直撃します。

サプライチェーンを中国から他国へ移す動きは加速していますが、それ自体にも多大なコストがかかります。私たちは、こうした「目に見えにくいコスト」が経済全体にどのようなボラティリティをもたらすのか、冷静に見極める必要があるでしょう。

いいなと思ったら応援しよう!