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「壊すより、活かすほうが難しい」〜古民家リノベーションという選択の覚悟〜

「これ、全部壊して新しくした方が早いんじゃないですか?」

そんな言葉を、お客様や現場の職人から聞くことがある。

確かにその通りだ。
解体して、ゼロから新築のように作り直す方が、手間も計算も少ない。
設計も工事も、何倍も楽になることだってある。

でも私は、それでも“残す”選択をしたいと思う。



ある現場でのこと。
古い天井を見上げると、一面に貼られた無垢の天井板があった。
色味も、節の出方も、まったく同じものがない。
年月を経て深みを増したその板は、ただの天井材ではなく、空間そのものの表情をつくっていた。

差鴨居もまた然り。
天井の高さを絶妙に切り分け、空間に“重心”を与えるその横架材は、
構造だけでなく、この家らしさの象徴のような存在だった。

職人のひとりが言った。
「これはもう、新しく作るのは無理ですね。今の材じゃ、ここまで出ないです。」



残すことを選べば、当然その分、難易度は上がる。
• 傷んでいる部分をどう補修するか
• 高さや幅に制約が出た時、どう納めるか
• 残す部分に“主役の風格”をもたせるための設計と演出

…手間は増える。悩みも増える。
でも、その分だけ家は深くなる。



壊して作り直すことも、一つの正解かもしれない。
でも、“活かす”という判断の裏には、過去を受け止める覚悟がいる。

私は、家の中に残された「時間」と「手の痕跡」を、
見なかったことにはしたくない。

だからこそ、無垢の天井板も、差鴨居も、
新しい空間の中に堂々と残していく。
それが、次の住まい手の“豊かさ”につながると信じているから。



壊すより、活かす方がむずかしい。
でも、活かした家には、“深さ”がある。
手間の向こうに、愛着が育つから。



あなたの家にも、「活かせるもの」が眠っていませんか?
壊す前に、一度だけ見上げてみてください。
そこには、受け継がれるべき何かが、静かに佇んでいるかもしれません。

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