見出し画像

「本当に価値あるエージェント」とは何か

株式会社Sync Ascentという会社で代表取締役を務めている島田と申します。

自己紹介

私は商社業界から離れてから創業フェーズの株式会社アサインに参画し、創業者直下でのエージェント業務とマーケティング組織の立ち上げに携わってきました。

その後のヘッドハンティングファームでも、エージェントとして、また事業立ち上げの責任者として、有難いことに数多くの経験を積ませていただきました。

仕組みが何もない創業期に、転職エージェントという仕事と顧客へ正面から向き合った経験。
そして今、HR企業を経営する側として、この仕事の価値を問い直す日々。
その両方の立場から、私はずっと同じ問いを考え続けています。

本当に価値あるエージェントとは何か。

今日は、この問いへの私なりの答えを書きます。

転職は当たり前になった。しかし、支援の品質は追いついていない


転職は、当たり前の選択肢になりました。
転職プラットフォームの発展、動画メディアの普及、テレビやタクシーのCM。転職の情報は、意識せずとも日常に流れ込んできます。転職のハードルは、かつてなく下がりました。

これ自体は、良いことです。問題は、その裏側で起きている構造の変化です。

終身雇用は事実上崩壊し、キャリアの舵取りの責任は、会社から個人に移りました。誰もが、本当の意味でキャリアに真剣にならざるを得ない時代になったのです。

ところが、その真剣さを受け止める側はどうか。

エージェント会社は急増し、経験の浅い担当者が、多くの方の人生の岐路に向き合っているのが現状です。

誤解のないように申し上げると、経験年数そのものを問題にしたいのではありません。私自身、創業フェーズから始めた人間です。プロ意識を持って業界知見を貪欲に吸収し、一人で抱え込まず、知見のあるマネージャーの視点を借りながら目の前の一人に向き合う。それができれば、経験年数を問わず価値ある支援はできます。これは私の実感です。

問題は、そうした体制も姿勢もないまま、「紹介して、決めて、終わり」という支援が量産されていることです。求職者の真剣さは上がり続けているのに、支援の品質が追いついていない。



非対称性

この非対称こそが、いまの人材業界の最大の歪みだと私は考えています。だからこそ、「価値あるエージェント」を定義することには意味がある。以下、私の考える条件を一つずつ書いていきます。

条件① 求人票に載らない情報を、自らの目で取りに行く


一つ目は、企業の「中」に入り込んでいるかどうかです。両面型か片面型かという体制の違いは、本質ではありません。

求人票やコーポレートサイトの情報——年収レンジ、業務内容、福利厚生——は、誰でもアクセスできる情報です。

これを右から左に流すだけなら、エージェントは要りません。検索エンジンで十分です。

エージェントにしか届けられない情報は、その先にあります。

経営者がその事業に懸けている想い。なぜこのポジションが、なぜ今、開いているのか。配属先マネージャーの人柄と、どういう人を評価し、どういう人と衝突してきたか。会議の温度感、意思決定のスピード、失敗への向き合い方といった現場の空気。


情報の氷山

これらは言語化しづらく、求人票には決して載りません。しかし、入社後の活躍と満足を左右するのは、条件面よりむしろこちらです。

「年収は上がったのに、なぜか消耗していく」——転職の失敗の多くは、この水面下のミスマッチから生まれます。

だから、価値あるエージェントは、この情報を自らの目と足で取りに行きます。経営者と話し、現場に足を運び、時にはその会社で働く人と食事をする。そこまでやって初めて、「この方にこの環境が合うか」を語る資格が生まれる。私はそう思っています。

条件② 求人を紹介するのではなく、キャリアの方向性から逆算する

二つ目は、支援の起点をどこに置くかです。

多くの支援は「いま出ている求人」から始まります。手元の求人リストと職務経歴書を突き合わせ、マッチしそうなものを送る。効率的ではあります。しかしこれは、求人が主語であって、その人が主語ではありません。

価値ある支援は、順番が逆です。

まず、その方の価値観と資質に向き合う。何にやりがいを感じ、何に消耗するのか。どういう環境で力を発揮できるのか。そして5年後、10年後、どこへ向かいたいのか。


支援の起点

もちろん、キャリアのすべてを逆算で設計することはできません。市場は変わり、本人の価値観も変わる。数年前には存在しなかった職種が、今の花形になっていることも珍しくない。

それでも、「ある程度の方向性に向かって走る」ことは十分にできます。

完璧な地図は描けなくても、コンパスは持てる。目の前の転職を、その方向性の中の一手として位置づける。そうすれば一回の転職の成否を超えて、キャリア全体の資産になる選択ができます。

その上で問われるのが、「内定が出る場所」ではなく「活躍できる場所」を提供できるか。

この二つは似ているようで、まったく違います。

条件③ 資質を見極め、時には「行かない」という選択肢を示す

三つ目は、少し踏み込んだ話です。

たとえばコンサルティングファーム。市場は拡大を続け、転職市場でも常に人気の高い選択肢です。難易度の高い仕事、相対するのは役員層。成長できる環境があることは、私も間違いなく認識しています。

しかし、ここに落とし穴があります。「成長できる環境」と「自分が成長できる環境」は、イコールではないということです。

あの世界で上に上がっていくのは、コンサルで求められる資質を素質として持っている人です。環境がどれだけ優れていても、そこで生かせる能力が自分にあるか。それが問われます。

だから私はこう考えています。営業が得意な方は、無理にコンサルに行く必要はない。営業を極めればいい。エンジニアはエンジニアとして、それぞれの土俵で突き抜ければいい。

これは、エージェントにとって勇気のいる話です。人気企業への転職を後押しした方が、決定は出やすく、売上にもなる。「あなたはコンサルに向いていないかもしれません」と伝えることは、短期的には何の得にもなりません。

それでも、資質に正面から向き合い、時には「行かない」という選択肢まで提示できるか。エージェントがその人の側に立っているかどうかは、ここに最もはっきり表れます。

条件④ 選考対策は「お化粧」ではなく、本質を伝えるサポート

四つ目は、選考対策の捉え方です。

選考対策と聞くと、「よく見せるためのテクニック」を想像する方が多いかもしれません。想定問答を暗記し、弱みを隠し、実績を盛る。いわば、お化粧です。私は、それは選考対策ではないと思っています。

お化粧で通った選考は、入社後に必ず剥がれるからです。実態以上に見せて入った環境では、期待値とのギャップに本人が苦しむ。それは支援ではなく、ミスマッチの先送りです。

私の考える選考対策の出発点は、こういう認識です。

ビジネスパーソンは、自分の業務で成果を上げるプロではあっても、それを面接で伝えるプロではない。

考えてみれば当然です。日々磨いているのは営業なら営業の専門性であって、「初対面の相手に、30分で自分の価値を伝える」技術ではない。面接は、彼らにとって完全にアウェーの競技なのです。だから、素晴らしい実績を持ちながら伝えきれずに落ちていく方が後を絶たない。本人にとっても、採り逃した企業にとっても、大きな損失です。

私たちの仕事は、盛ることではありません。その方の中に既にある本質的な魅力を、面接という場で正しく発揮できる状態に引き上げること。持っていないものを塗るのではなく、持っているものを曇りなく見せる。それが本来の選考対策です。

転職して終わり、ではない。伴走者であり続けること

ここまでの条件を満たせば、十分に価値ある支援だと思います。しかし、もう一段先があります。

転職の成功は、ゴールではありません。その方のキャリアにとっては、スタートです。

入社後、想定と違うことは必ず起きます。壁にぶつかることも、次の岐路が訪れることもある。そのとき、これまでの文脈を知った上で相談に乗れる存在がいるかどうかは、大きな違いを生みます。

だから私は、支援が終わった後も、定期的に食事をしながら近況と方向性を聞き続ける関係でありたいと思っています。一回の取引相手ではなく、キャリアの伴走者として。

支援した相手から、学ばせてもらう

そして、伴走を続けていると、面白いことが起きます。関係が一方通行ではなくなるのです。

ご支援した方が、私自身は経験したことのない業界に飛び込み、知見を身につけ、実績を残される。そうなったとき、立場は逆転します。今度は私が、その業界のリアルを学ばせていただく番です。

その業界で実際に何が評価されるのか。どういう人が活躍し、どういう人が伸び悩むのか。外から眺めているだけでは決して分からない一次情報が、伴走してきた関係だからこそ、生の言葉で入ってくる。

この学びは、そのまま次の支援の質になります。紹介の精度が上がり、入社後の活躍支援にまで踏み込めるようになる。


学びの循環

つまり、価値ある支援とは、一人を送り出して終わる「直線」ではなく、支援した方からの学びが次の支援に還元されていく「循環」です。この循環を回せているエージェントこそ、本当に価値があると私は思っています。

最後に 誰よりも仕事をしているエージェントが、結局強い

最後に、身も蓋もない話を一つ。ここまで条件を並べてきましたが、結局のところ、誰よりも仕事をしているエージェントが強い。ある意味ブラックな話になりますが、笑わずに聞いてください。

求職者の方は、転職活動の間、ずっと不安の中にいます。選考への不安、この選択でいいのかという将来への不安。日中は現職をこなし、夜と週末に選考準備をする。その渦中で、キャリアを本音で相談できる相手は、ほとんどいません。上司には言えない、同僚にも言いづらい、家族は心配するだけ。エージェントが唯一頼れる存在になっていることが、実に多いのです。

だからこそ、これが効きます。質問にすぐ返事が来る。面接直後に電話でフォローが来る。遅い時間でも、土日でも、必要なときに声が届く。

冷静に見れば、労働時間的には完全にアウトです。働き方改革とは真逆を向いています。それでも、不安の真っ只中にいる方にとって、「聞けばすぐ返ってくる」という事実がどれほどの安心か。その安心が、そのまま信頼になります。

そしてこれは、根性論ではありません。コミュニケーションが速く回るから、本音や迷いがリアルタイムで入ってくる。信頼があるから深い情報が集まり、深い情報があるから、本当に適切な選択肢をご提案できる。レスポンスの速さは、支援の精度に直結しているのです。

綺麗に言えば「顧客に向き合う覚悟」。身も蓋もなく言えば「ある意味ブラックに働ける人」が、この仕事では強い。実際に成果を出しているエージェントを見ても、例外はほとんどありません。

まとめ

私の考える「本当に価値あるエージェント」の条件です。


価値あるエージェントの条件

一、求人票に載らない情報を、自らの目と足で取りに行く。

二、求人ではなく、その人の価値観・資質・方向性を起点にする。

三、資質を見極め、時には「行かない」まで提示する。

四、選考対策はお化粧ではなく、本質を伝えきるサポートと捉える。

五、転職して終わりではなく、伴走者であり続ける。

六、支援した方から学び、次の支援に還元する循環をつくる。

七、そして誰よりも動く。不安に寄り添うスピードが、信頼をつくる。

キャリアの責任が個人に移り、誰もが真剣にならざるを得ない時代。だからこそ、この水準の支援ができるエージェントの価値は、これからますます高まっていくと私は信じています。


いいなと思ったら応援しよう!