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ディレイニー『アインシュタイン交点』を読む

古本屋で見つけた一冊です。
ブックオフではなくて、古書とかも置いてある本当の古本屋で見つけたもので、サンリオSF文庫なんかもちょっとあるようなところです。

ディレイニーという作家は、黒人でゲイで失読症を患った、それでも華麗な文体を使いこなす、なんというか異端の属性に満ちた男だというのが、ぼくの印象です。

『アインシュタイン交点』は1967年に書かれた小説で、人間の内宇宙を追求する、いわゆるニューウェーブSFに属する小説で、とにかくアメリカ60年代の気分というのものが、そこかしこに感じられる。
おそらく文明崩壊後であろう世界が舞台となっており、その世界では過去の文明の遺物としてビートルズのメンバーが神話化されていたりするのだ。

主人公はロ・ロービー。羊飼いの青年で、山刀に笛が仕込まれた楽器を持ち、生まれつき手足や顔のバランスがおかしく、醜い。
彼が醜い、というか障がい者のような特徴を持っているのは、放射能の影響なのか、そこらへんははっきりしないが、この世界では人類の大半が不具者となっている。
そのなかでもさらに異常者は容所に隔離され、かろうじて健全だと判断される者は「ロ」とか「レ」とか「ラ」といった苗字のようなものを与えられる。どことなくコードウェイナー・スミスの小説を思わせるスタイル。
ゼラズニィの小説を読んだときも、スミスの影響を感じて、想像以上に絶大な影響力のあった作家なんだなぁ。

そのロービー青年が、口が聞けないヒロインと出会い恋に落ちるのですが、まもなくそのヒロインは殺されてしまい、ロービーは復讐のために地下のコンピューターにアドバイスをもらい、ドラゴンライダーの集団と共に都市を目指す…。

プロット自体は、ファンタジー小説、神話のようで、実際、ロービーはギリシャ神話のオルフェウスに準えて書かれた主人公だ。楽器を持っているというところも共通していて、オルフェウスは竪琴を、ロービーは山刀の笛を持っている。

妻を助けに冥界を旅するという物語が下敷きになっているのだが、しかし、結末は果たしてそうなのか、ぼくにはいまいち不明だ。
さっきから歯切れの悪い文章が続きますが、この小説、なめらかで彫琢された文章と明快なストーリーなわりに、解読が難しく、表に書かれてあることはわかるんだけど、裏のメタファーが全くわからないという、超難物なのです。

アンソロジストのジュディス・メリルも、再読しないと、本作の巧妙な仕掛けに気がつかないとまで言っていて、ネットの感想とかも漁っているのですが、みな頭を抱えているようで、さまざまな解釈がみられます。

訳者である伊藤典夫も巻末で、例外ともいえる長大なあとがきを残し、ディレイニー作品の論評と解釈、翻訳にまつわる苦闘のメイキングストーリーを語っていて、これ自体単体で読めて面白い。というかアツい。

20年近くかかって、ようやく翻訳が完了したらしく、作者ディレイニーの挑戦と訳者伊藤のバチバチの攻防があって、出版されたこと自体に感動する。
難解な海外文学を翻訳する人には、本当に頭が上がらないというか、尊敬の気持ちが改めて湧き上がる。
伊藤典夫といえば、例の国書刊の鈍器本、20000円して2000円も税金が取られる、あの本、もちろんSFファンはみな買うのですよね……。

今回の読書は250pくらいしかなかったのに、えらく大変な本だった。
でも他の作品にも俄然興味が湧いてきたので、『ノヴァ』とか『バベル17』そして『ダールグレン』にもいつか挑戦します。
『アインシュタイン交点』はいったん本棚に封印し、ジュディス・メリルにならって再読したいと思います。

参考文献

伊藤典夫氏へのインタビュー

大野万紀氏の書評

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