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議論できる資料が最強である

提案が通りやすい人の特徴を観察すると、
「説明して、わかってもらおう」、というより、
「議論して、わかってもらおう」、そんな雰囲気があります。

一方で、企画を何度も手直しさせられている人もいる。質問に答える。指摘に対応する。また質問が来る。また修正する。気づけば、Q&Aへの対応そのものが仕事になってしまいます。
その姿を見ていると、いつの間にか自分の企画を考えているのではなく、承認者の頭の中を再現しようとしているようにも見える。

だからこそ、あえて言いたい。
「提案する資料を作ろうとせず」
「議論できる資料をめざそう」

この視点を持つだけで、私たちの仕事の進め方は変わるはずです。ぜひ最後までお読みいただけるとうれしいです。


第1章:提案会=議論会

提案や報告の仕事をどうイメージされるでしょうか。
私たちは新人のころは、仕事は図のような流れで進むものだと思ったりしないでしょうか。

では空白になっている工程2・5・10に、あなたなら何を入れるでしょうか。

私はここの3つが仕事の本質だと思います。

なぜそう思うのか。
まずは提案会で何が起きているのかを考えてみましょう。


提案会では、
まず「何をするのか」を理解してもらいますよね。
次に「なぜそれをするのか」の説明。
ここまではすべて説明です。

しかし、その先。
本当にその考え方でよいのか。他の選択肢はないのか。その根拠は十分なのか。提案会では必ずそうした問いが生まれます。
つまり議論です。

だから「提案会って議論会じゃないのか?」と思えるわけです。

そう考えるようになってから、資料の見え方が変わりました。
いや。正確には、
その前の「考える時間」の見え方が変わったのです。

何を深掘りするか。どこが論点にするか。
資料を作る前に、すでに議論は始まっています。(脳内で)

だから本当に必要なのは、
「提案するための資料」ではなく、
「議論するための資料」

報告も提案も結局は対話です。たとえ質問が一つも出なかったとしても、相手の心の中では「本当にそうだろうか」という対話が続いている。
そのくらいのイメージで提案会を捉えています。

第2章:議論とは

では議論とは何でしょうか。
ここでは「私はこう考える」という仮説を持ち、
その主張に合意できるかを対話することと、言ってみましょう。

その場合、議論とは事実を説明することではなくなりますね。仮説がなければ議論は始まりません。

特に重要そうな場所が3つ見えてきます。

  • 工程2:「思考の骨格を描く」

  • 工程5:「仮説を育てる」

  • 工程10:「議論する」

提案を議論と考えると、
この3つを行き来しながら前に進んでいるように見えます。

工程2:思考の骨格を描く

何を調べるのか。深掘りするか。
どの論点を見るのか。
どこに向かって考えるのか。
最初に地図を描く。
私はこれを思考の骨格と呼んでいます。

工程5:仮説を育てる

市場を調べる。
顧客を調べる。
競合を調べる。
しかし事実だけでは提案にはなりません。
最後は、
事実と経験と思いを混ぜながら、
「私はこう考える」
という仮説を作る必要があります。

工程10:議論する

提案会は説明会ではありません。
仮説を相手と一緒に磨く場です。
だから資料の目的は説明ではなく議論になるのです。

第3章:仕事の罠

① PREPの罠

社会人になると、報告資料で困ったときに必ず耳にする言葉がありますよね。
PREP

  • Point:結論から話せ。

  • Reason:理由を説明しろ。

  • Example:具体例を添えろ。

  • Point:最後にもう一度結論を言え。

有名なフレームワークです。
他にもSDSやCRFなど、世の中にはさまざまな説明の型があります。

説明フレーム

私もよく使います。分かりやすい。新人の頃はPREPばかり意識していた時期もありました。しかしそれらにはひとつ落とし穴があります。

PREPは「伝える技術」であって「考える技術」ではないのです。

PやRに込める中身が事前に十分に磨かれていなければ、情報は並ぶだけ。どれだけ型を使ってもつながりません。並べた情報ばかりに質問が来る。そのたびに説明が増える。でも仮説は深まらない。

説明のフレームは、整理された説明を作ってくれます。しかし議論の土台までは作ってくれません。

報告の成否は、PREPの段階で決まるのではありません。
PREPより前。
何を調べるのか。
何を根拠にし、
何を論拠にするか。
そして何を主張するか。

考える段階で、すでに決まっているのです。

② AIスロップの時代

そして、この問題は生成AIの登場によってさらに大きくなりました。最近は生成AIに依頼すれば市場調査もできる。競合分析もできる。提案資料も作れる。
便利な時代になりました。


少し前のこと。
ある後輩から「相談させてください」と会議を設定されました。提案資料に上長から指示が入り、私が進めているテーマに相談してほしいと言われたとのこと。

元の提案資料も見せてもらいました。

何をしたいかは書かれています。
市場の分析。
類似技術の分析。
情報も並んでいます。
でも、なぜその施策なのか。そこがつながっていなかったんです。困りました。議論を始めるための前提が見えなかったからです。

資料はきれい。きれいすぎる気もした。
「AIかな?」
そんなことが頭をよぎった。

その後のフォローには思った以上に時間がかかりました。


工程2・5・10を飛ばしたままAIで作られた資料ほど、議論が始まらなくなります。表から分かるように、AIに任せるだけでも仕事が進んでしまう、いえ進んでいるように見えるからです。

AIは、

  • 情報を収集する

  • 情報を整理する

  • 資料を作る

ことが得意。
しかし、

  • 思考の骨格を描く

  • 仮説を育てる

  • 議論する

ことは代替できない。

実際にMITの研究でも、
AIを早い段階から利用すると、認知負荷は下がる一方で意味形成やアイデア統合が弱くなる可能性が示されました。

(MITの研究を解釈したコロンビア大の記事)

簡単に言えば、考える前にAIを使うと楽にはなる。
しかし、自分の考える力は育ちにくい。
ということです。

そりゃそうだ。

③ 簡単に進む企画資料

一つ実験をしてみます。
AIに次の相談をしてみましょう。

【相談事項】
ビジネスアイディアの企画
【方向性】
YouTubeにて本の内容を整理して紹介する副業
【ポイント】
既存のチャンネルとの違いは、本の内容を図解して紹介すること

それ以上は深掘りせず、AIに相談してみます。
AIは質問を返してきますね。

Q:どんなジャンルの本を中心に扱いたいですか?
A:心理学・人間関係
Q:ターゲット視聴者のイメージは?
A:20〜30代の社会人
Q:図解のスタイルのイメージは?
A:シンプルなデジタル図解

そして数分後。AIはたたき台を作ってくれます。

それらしい。
企画書のたたき台っぽい。

しかし、しばらく眺めていると違和感が出てきます。
「これって本当にやりたいことだろうか?」
いや。もっと正確に言うと、
「これで本当にビジネスは成立するのだろうか?」

なぜ心理学?なぜ図解?なぜ20〜30代?
競合との差別化になるの?
そうした問いは残ったまま。AIはさくさく企画書を作ってくれます。

しかし、
企画が成立するかどうかまでは考えてくれません。
むしろ成立する前提で、きれいな企画書を作ってしまう。
だから危険。

企画を考えているつもりで、企画書を作っているだけになる。そして一度企画書ができてしまうと、人間の思考はそこで止まりやすい。
私はこれを見て、
「思考の骨格がないままAIを使う危険性」
を強く感じます。

第4章:議論できる資料をめざす

① 思考の骨格をAIに渡す

罠にかかる原因は何でしょうか。

私はその原因の多くが、
思考の骨格がないままAIを使ってしまうこと、だと思っています。

仕事はユーザーニーズだけを調べればいいわけではありません。業界だけを調べればいいわけでもありません。技術。競合。社内事情。事業性。多くの論点がつながっています。私は仕事を考えるとき、まずこんな地図を頭の中に置いています。

企業の骨格

たとえば、
MBAを学ぶと次から次へとフレームワークが出てきます。3C、PEST、マーケティング。などなど。

初見のころは大変です。
また増えた。そんな感覚でした。
でも、地図の上に配置したらどうでしょうか。

すべてが関係性の中にあることが見えてこないでしょうか?

  • 事実を分解して整理するフレーム

  • ポジショニングを座標化するフレーム

  • 人間の行動の流れのフレーム

結局は全部、この地図のどこかを説明している。

だからこそ、思考の地図を持つ意味が見えてきます。


先ほどの実験とは別に、今度はAIへの依頼を少し変えてみます。
企画の相談に加えて、次の依頼も追加します。

【追加依頼】
添付した「企業の骨格(上述)」のフレームを使って企画をブラッシュアップしてください。
・足りない論点
・深めた方がよい論点
・見逃している論点同士のつながり
を確認してください。

すると面白いことにAIは企画書を書く代わりに、

  • ターゲットが未定義

  • 収益モデルが曖昧

  • 競合分析が不足している

  • 視聴後の行動設計が弱い

といった論点を整理し始めます。

企画書そのものは一歩も前に進んでいません。
しかし、
何が分かっていて、
何が分かっていないのか。
どこを深掘りすればよいのか。
それが見えるようになります。

AIは企画を作ってくれたのではなく、
企画を考えるための議論する相手に変わります。
ここに、AIの本当の使い方がある。
だからAIに渡すのは、
資料の構成ではありません。
思考の骨格です。

② 情報は常に図でまとめる

思考の骨格を持っていても、それだけでは十分ではありません。仕事を進めると情報はどんどん増えていきます。
AIを使えばなおさら情報は集まる。
しかし人間の頭は大量の情報を同時には扱えません。

だから私は情報を集めたら「必ず」図にします。図にすることで気づいてなかった視点、見えていなかった関係性が見えてきます。

思考を深めるために図を使うなら、思考の段階に応じて使う図も変わってきます。

  • 分解:対象を細かくし、具体化する

  • 分類:整理し、抽象化し、比較する

  • 流れ:推移や変化を捉える

  • 因果関係:相互作用を理解する

私は図解を使いながら、この階段を一段ずつ上っていきます。


たとえば、先ほどの実験に今度はAIへの依頼を追加します。

「本のジャンルをMECEに分解してください」
そして、それを表として整理・可視化してください。

するとこのようなアウトプットをくれます。

最初は漠然と「心理学系の本がいいかな」と思っていたものが、

  • 人間理解

  • 人生・哲学

  • コミュニケーション

  • 学習・思考法

  • キャリア・仕事術

といった形で分解されます。選択肢が広く見えるようになる。同時に、「自分は本当にどこに興味があるのか」も見えてきます。
つまり図解は情報を整理するだけではありません。思考の対象そのものを明確にしてくれるのです。

全体を見ながら絞り込みができる。だから私は、情報が増えるほど図にします。


議論できない資料には共通点があります。

  • 情報はたくさんある。でも乱雑でつながっていない。

  • あるいは少ない観点だけを深掘りしている。

だから、
「で、あなたはどう考えるの?」
という問いに答えられない。

図は情報を整理するためだけの道具ではありません。気づいていない視点を発見し、見えていない関係性を見つけるための道具です。
そしてその関係性の中から仮説を育てていく。

だから図解とは、
思考をきれいにまとめるためのフレームではなく、議論に耐えられる仮説を育てるためのフレームです。

③ 仮説の空白を埋める

思考の骨格を描いても。図解で整理しても。まだ提案にはなりません。最後に必要なのは、
「私はこう考える」
という仮説です。

仮説とは、
「正しい答え」ではありません。
検証できる考え」です。

例えば、
「〇〇市場は成長しているから、このコンテンツを投入する」
だけでは意見ですよね。しかし、
「成長している〇〇市場にこのコンテンツを投入すると、初週は〇〇viewの見込みがある」
なら検証できます。

データを集められる。顧客に聞ける。結果を確かめられる。それは市場実験による検証です。

そして議論とは
ある意味、対話による脳内シミュレーションでの検証です。仮説の正しさを証明する場ではありません。

だから仮説は最初から正しさを問われることではない。むしろ間違っていても構わない。でも、検証できなければいけない。

議論できる資料とは、情報が多い資料ではありません。検証可能な仮説が置かれている資料です。そして最後に仮説を置くのは、AIではなく人間の役割ではないでしょうか。

第5章:なぜ議論できる資料が最強か

ここまで議論とは何か。なぜ説明資料では足りないのか。そして議論できる資料を作るための考え方についてお話ししてきました。
では、最後に議論できる資料であることがなぜいいのか、そこを考えていきましょう。
理由は2つあります。

① 手戻りが減る

一つ目は、手戻りが減ることです。

説明資料では、Q&Aの確認が続いていく。
それだけで時間が終わってしまうことも少なくありません。
一方、議論できる資料には、
論点・仮説・主張。
その関係性が整理されています。
だから質問が来ても、
論点のどこを見ているのかが分かる。
回答も速い。議論も深い。
会議が情報確認の場ではなく、意思決定の場になるのです。

② 承認が早くなる

二つ目は、承認が早くなることです。

人は資料そのものを信頼しているわけではありません。
人の思考を見ています。
論点を押さえているか。
抜け漏れはないか。
なぜその主張に至ったのか。
そこに一貫性があるか。

議論を重ねるうちに、
「あ、この人はちゃんと考えているな」
という評価が積み上がる。

そして一度得た信頼は次の提案でも生き続けます。
仕事で本当に価値があるのは、資料の完成度ではなく思考への信頼なのだと思います。

そして承認されるのは資料ではなく、その背後にある思考、考えられる人物なのか、ではないでしょうか。
だからこそ承認が早くなる。

第6章:最後に

近年ではAIを仕事に活用することが当たり前になりました。

新人であっても。いや、新人だからこそ。
私たちよりも自然にAIを使いこなしていくのかもしれません。

ただ、今回の実験を通じて改めて感じたことがあります。AIは思考を代替する道具ではない。思考を発展させる道具なのだということです。

思考の骨格がないまま使っても、それらしい企画書は作れます。
しかし、
その企画は本当に成り立つのか。
なぜその施策なのか。
他に見落としている論点はないのか。

そうした問いは残ったままです。

一方で、思考の骨格を持った状態でAIを使うと、AIは答えを作る存在ではなくなります。
問いを返し、論点を広げ、仮説を磨く相手になります。

これからの時代、
AIを使える人と使えない人ではなく、
AIと一緒に考え成長できる人と、
AIにただ考えてもらうだけの人。

その差が大きくなるのでしょう。

だからこそ、あえて言いたい。
「提案する資料を作ろうとせず」
「議論できる資料をめざそう」

AIは資料を作れる。
でも、議論は作れない。

思考の骨格を描き、
仮説を置き、
相手と対話する。
その役割だけは、まだ人間の仕事です。
だから私は、
議論できる資料が最強である
と考えています。

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