人間の条件|人生のエネルギーはどこへ消えるのか
[1] PROLOGUE|導入
テーマ概要
私たちは生きるために日々エネルギーを使っています。
その多くは「労働」に費やされ、便利なテクノロジーやAIはその労働をさらに効率化していきます。一方で人が自由に創造することや人と向き合い語り合う時間は、少しずつ失われてはいないでしょうか。
政治でも経済や効率を重視した「社会的」な議論が中心になり、私たちはどんな世界をつくりたいのかという「公共的」な対話は影を潜めつつあります。
しかし人は一人で完結する存在ではありません。人と人との間に生まれる行為や言論、そして関係性があってこそ人間らしく生きることができます。
孤独が広がる現代を、私たちはどう生きればよいのでしょうか。
20世紀を代表する政治哲学者ハンナ・アーレントは、『人間の条件』を通してその問いを私たちに投げかけています。
参考資料
人間の条件、ハンナ・アーレント、ちくま学芸文庫
[2] CORE|本編
図の解説 - 紙芝居形式
図解ツールをパーツごとに分解し、詳しく解釈しながら説明していきましょう。
テーマ説明:全10枚

人間に備わる活動力(エネルギー)は何に使われるのでしょうか。
その大半は「労働」に使われます。労働をして消費財をつくり、それを消費する。この営みは生きるための必要性に支えられ、何度も繰り返されます。そしてそれは何よりも私的な活動です。

労働には苦痛が伴います。
生きるための苦痛です。しかしその苦痛は生命のリアリティを感じさせ、次の活動へ向かうエネルギーにもなります。

人のエネルギーは「創造」(仕事)にも向けられます。
人は有用なものを生み出すという目的のもと、イデア(設計図)をもとに制作物をつくります。イデア(設計図)があるからこそ、同じ制作物を何度でもつくることができます。そうして人がつくる人工的な世界は、永続性や耐久性を持つようになります。道具や法律、現代であればビジネスモデルもその一つです。
こうした文明やテクノロジーは労働の苦痛を和らげます。一方で生命のリアリティを感じる機会は少しずつ減っていきます。

現代ではテクノロジーによってさまざまなオートメーションが実現されています。
それは労働を支えながらも、時には労働そのものを支配するようになります。人は苦痛から解放される一方で、生活のために働き続けることになります。
そしてオートメーションは創造の目的そのものにも少しずつ影響を与えていきます。自由な創造よりも、オートメーションをさらに発展させるための創造へと変わっていくこともあります。

人が創造したものは人工的な世界を形づくっていきます。その世界は人と人との間に適度な境界をつくり、「行為や言論」(活動)が生まれる場になります。
人はただ同じ空間にいるだけでは会話をしません。満員電車では多くの人が無言で揺られています。しかしテーブルを囲めば、お互いを意識し自然と会話が始まります。テーブルは人を分けるからこそ、人と人を結びつけているのです。

この世界には多様な人が存在しています。
その多様さがあるからこそ世界のリアリティが生まれます。人は行為や言論を交わすことでお互いの違いに気づき、自分自身のアイデンティティも実感していきます。そして人はただ生まれるだけではありません。それぞれが、この世界で新しい何かを始める存在でもあるのです。

人と人とが出会い新しいことが始まると、それはもう元には戻せません。
起きた出来事は巻き戻せず、ときには罪深い結果を生むこともあります。また未来は誰にも予測できません。だからこそ人は未来をコントロールしたいと考えます。法律やルールも、そのための一つの方法だと考えられます。

だからこそ人と人との間には、約束と許しが必要になります。
約束は、予測できない未来の中に少しだけ予測できる領域をつくります。そして過ちを許し合うことが、お互いの信頼を育てていきます。

人には本来、個人や家族と過ごすような私的な領域があります。
しかし現代では、その領域は経済活動とともに社会へと広がってきました。その結果、公的な領域よりも「社会」という領域の比重が大きくなっていきます。
そして社会は人々を少しずつ画一的な方向へ導いていきます。さらにその画一性に反発するかのように、人々は私的な領域をより重視するようになります。本来、公的な場で育まれていた人と人との関係もその影響を受けて縮小していくのです。
思考回路 - 図解全体像

このように、人の活動力(エネルギー)は「労働」「創造」「行為・言論」の三つへと配分されます。
しかし現代では労働の比重が大きくなり、人と人との交流は少なくなっています。アーレントは、人間とは「人と人との間」で生きる存在だと考えました。だからこそ行為や言論という活動を忘れてはならないのです。
[3] INSIGHT|考察
図解をまとめての感想
ニュースを見ても政治の議論を見ても、アーレントが70年以上前に指摘した問題が今まさに現実になっていることを感じます。
世界経済の中で日本が生きていくためには、経済の議論は欠かせません。そして私たちも生きるために人生の多くを労働へ費やさなければなりません。それは現代でも避けられない現実です。
しかし一方で、オートメーションはあらゆる場所で広がっています。
90年代のIT化ではExcelのような表計算ソフトが計算や事務処理を自動化し、ホワイトカラーの働き方を大きく変えました。そして今その流れはAIへとつながっています。
企業では「AIをどう活用するか」だけでなく、「AIを導入すること」そのものが目的になってしまう場面もあります。アーレントが警鐘を鳴らしたように、私たちが生み出した制作物がいつしか私たち自身の目的を決め始める。その構図は決して昔話ではありません。
そしてこの本を読んでいて気づいたことがあります。
私はものづくりが好きです。図解を描き、仕組みを考え、何かを生み出す時間は、とても楽しいものです。だからこそふとすると人との交流よりも、一人で創造に没頭する時間を選んでしまいます。
しかしアーレントは人間とは「人と人との間」で生きる存在だと言います。この一文は、AIへの警鐘以上に、自分自身へ向けられた言葉のように感じました。
効率や生産性では測れない、人と向き合い、語り合い、ともに世界をつくっていく時間。その営みこそが人間らしさなのだとアーレントは教えてくれます。
人間に与えられた創造性は、AIによって
拡張されるのでしょうか。
それとも、奪われるのでしょうか。
あるいは、支配されてしまうのでしょうか。
だから私は「AIを使うこと」が目的にならないように生きていきたいと思いました。
何をつくるのか。
そして、誰と世界をつくるのか。
その問いを忘れないために、この本は何度でも読み返したい一冊です。
[4] NAVIGATION|関連情報
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