【ショートストーリー】飲み友達どまり
平日だというのに、店のカウンターは満席で、大将は愛想よく手際よく調理をする。厨房の小型プリンターからは、ベロッベロッと注文が吐き出され、バイトの子はドリンク注文を次々と捌いていく。
「お待たせしましたー、生2つです。」
「ありがとー。」
「かんぱーい!」
L字のカウンターの短辺の方には、50代くらいの男女が和やかに仲良さげに飲んでいた。
「いやぁ〜、それにしても嬉しいなぁ。二人でこうして飲めるなんて。誘ったら来てくれるんやなぁ、アサちゃん。大将に頼んで、席確保してもらってよかったよ。」
男性はすでに赤ら顔で、うまそうにジョッキを傾ける。
「そりぁ〜くるでしょ。熊さんのおごりでしょう?来てみたかったのよ、ここ。」
と女性、アサちゃんもウフフといい飲みっぷりで答える。
私も二杯目の生ビールを飲み終えそうで、そろそろ日本酒に…とリストを眺めているそのうちに、なんとなくアサちゃんと熊さんのトーンが密やかになった。
「やっぱり、俺は、いくつになっても男として、アサちゃんみたいな素敵な女性と二人きりでこうやって飲んだりしたいなぁ〜と思ってるよ。デートはいいよなぁ。」
二人はすでに2合徳利をはさんで、盃を交わしている。トロンといい感じに酔ったアサちゃんの目は妙に色っぽく、さらさらの髪をかき上げながら、けれども、
「いやいやぁ〜。こうやって、男とか女とか関係なくて、気兼ねなく楽しく飲めるのがいいんじゃん。ねぇー、大将〜?これ、美味しい!」
とキュートな笑顔で、和物を上品な箸使いで頬張る。
「いや、俺はね。こうやって二人きりってドキドキしてるよ。アサちゃん美人でモテるのに、俺の誘いに乗ってきてくれるなんて。二人きりで飲めるなんてさ。」
赤ら顔の熊さんは無邪気に嬉しそうに言う。
「そりゃね。大将のお店、来てみたかったし。モテるのよ〜、私。彼氏もいるし。」
聞き捨てならない一言に、思わず私も、日本酒リストから顔をあげてしまい、一緒に飲んでいた友達とも目が合ってしまう。
(アサちゃん…彼氏もちじゃん笑)
(熊さん…撃沈じゃん笑)
ヒソヒソと囁き合い、リストに隠れてヒクヒクと肩を揺らす。
「彼氏?え?…彼氏?アサちゃん、彼氏いるの?」
絵に描いたように慌てる熊さんを、さらりと交わすようにアサちゃんは、
「いるよー、そりゃいるでしょ〜。モテるもの。」
と笑う。
「え…彼氏いるのに、ん?俺の誘いにのってきたの?え…二人きりで飲んだりするの?」
「飲むよ〜。だって、熊さんと飲むの楽しいもん。この歳になったらさぁ〜、気のあう飲み友達と楽しく飲めるのって、最高じゃん。ねぇ?大将?あ、百合根の天ぷらください。」
カウンター越しに大将は、
「ありがとうございます。アサコさん、モテますねぇ。百合根の天ぷら!さすがアサコさん!宮城名産なんですよ〜。」
と言いながら、熊さんを気遣う優しい視線を送る。男同士のなんとやら。
「楽しいお酒と美味しい料理、もうこの歳になったら男女の関係なんて煩わしいこといらないよね〜。」
と、アサちゃんは、熊さんの盃になみなみとお酒を注いでいた。
それに唇をつけて大人しく啜る熊さんのお酒は、さぞかしキリリと辛口だろう。
「一服してくるわ。」
と熊さんが席を外しているその間、
「大将〜。また来たいとき、直接連絡していい?大将の連絡先おしえて。」
と聞こえてしまったものだから、私はせめて、一番フルーティで甘口の大吟醸を注文することにした。
いくつになっても、恋心というのは切なく愛おしいものですな。書きながら、日本酒が飲みたくなりました。熊さんに乾杯🍶笑。
みくまゆたんさん、コッシーさん、よろしくお願いします。
こちらの企画に参加しております。
