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【エッセイ】春雷サラウンド。

外に一歩踏み出した途端、大粒の雨が落ちてきて、それは見る間にどんどん勢いを増して、まるで怒っているみたいにバチバチと音を立てて降り始めた。一歩踏み出した足を引っ込めるくらい。

車までは大股で20歩ほど。

走るか。

ぴょこぴょこと、出来立ての水たまりを飛び越えて、忍者のように走る。シュタタタ…と心で効果音をつけ、速やかに車に乗り込んだけれど、案の定、びしょ濡れになった。

打ち付ける雨音の乱暴なこと。

ワイパーは忙しく行ったり来たりをするものの、視界は泣いているみたいに歪み、何度も瞬きをするけれどどうにもならなかった。
道路は瞬く間に川のように流れはじめ、それは道順を無視して、ただただ高低差だけを顕にしていく。

満開だった桜木は濡れそぼり、花びらは帯になって列になってゆっくりと流れ、おそらくどこかを詰まらすのだろう。

稲妻まで走り出したら、ドルビーサラウンドの車内に閉じ込められ、突然怒り出した空を見上げ、
「わぁ」とか「うぉ」とか言うしかないのだった。

駅には迎えの車が溜まっていて、小さな傘に縮こまった人々がキョロキョロとおどおどと、それぞれの車に乗り込んでいく。止まっては進み、進んでは止まる。そこここでブレーキランプの赤がボヤけて光る。砂嵐のようなノイズの中で。

ザザーーーーッ

バタンッ


「おかえり」

ワイパーは雨を掻き、桜色の小川の流れに逆らって、坂道を泳ぎのぼっていく帰り道。
ヒビ割れた空から漏れた閃光の眩しさに比例するすこし遅れて響いてくる重低音の大きさ。その対の等しさを期待して、「おぉ」となる。

薄紅の夢の終わり。
クライマックス。

大丈夫、これははじまりで、
きっと気付けば新芽と若葉が息吹くのだから。

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