晴れた日に | #シロクマ文芸部
晴れた日に、あなたに会いに行こうと思っている。
そう決めてから、私はずっとここに座っている。家の軒下の、古い木の縁。背中に当たる柱は、昼の光を吸ってほんのり温かいのに、頬を伝う雫だけがなぜか少し冷たい。
指先でそっと拭うと、すぐにまた視界がにじんだ。
光が柔らかく広がって、庭の向こうの景色がぼやけていく。
きっと、まだ晴れていないのだろう。
だから、こんなふうに世界が滲んで見える。
唇に触れた雫を舌先で感じると、ほんの少しだけ塩の味がした。
不思議だ。空から落ちてくるものは、こんな味だっただろうか。
軒下には、朝の空気の匂いがまだ残っている。
湿った土の匂いというより、洗ったばかりの布に似た、どこかやさしい匂いだ。風が通るたびに、その匂いがふっと漂ってくる。
私は膝を抱えて、ゆっくり瞬きをした。
晴れた日に。
晴れた日に、あなたに会いに行こう。
そう言ったのは、私のほうだった。
だから今日は、ここで待っている。
世界がちゃんと乾いて、空気が軽くなって、顔を上げても視界がぼやけなくなったら、そのとき歩き出そうと思っている。
そのとき、きっとあなたに会いに行く。
指先で頬をもう一度拭う。
冷たい雫は、何度拭っても、また静かに流れてくる。
おかしいな。
こんなに長く続くものだっただろうか。
膝の上に落ちた雫が、小さな丸い跡を作る。
それを見ていると、胸の奥が少しだけ苦しくなる。
でも、きっともうすぐだ。
晴れたら、私は歩き出す。
晴れたら、あなたのところまで行く。
あなたはきっと驚くだろう。
急に来たねって、少し困ったように笑うかもしれない。
それでもいい。
その顔が見られるなら、それだけでいい。
軒下の空気は、思っていたよりもやわらかい。
頬をなぞる風は、冷たいというより、どこか乾いていて、ゆっくりと肌を撫でていく。
指先で目元を押さえる。
少しだけ、温かい。
さっきより視界が明るくなった気がした。
ぼやけていた光が、ゆっくりと形を取り戻していく。
ああ、きっともうすぐだ。
もうすぐ晴れる。
私は背中を柱から離して、顔を上げた。
そのとき、ふとベランダのほうに目がいく。
白いシャツが、ゆるく揺れていた。
隣にはタオル。薄い布の端が、光を受けてやさしく揺れている。
そういえば――
朝、洗濯物を干したままだった。
私はもう一度、頬を拭う。
さっきよりもずっとゆっくりと。
そして小さく息をついた。
そろそろ、取り込まなきゃ。
