一枚の原稿用紙から、一冊の本が生まれるまで
「空き家をめぐる記録」を書きながら、ずっと引っかかっていた言葉がありました。
定期借地権。
十八年間暮らしたわが家が、その契約の家だったと知ったのは、家を手放すときでした。契約を進めたのは両親で、当時の私は二十歳になるかどうか。家の事情は何も知らないまま暮らしていました。
もともとは、三枚の原稿用紙に収める手記として書き始めた話でした。書いているうちに、自分が何も分かっていなかったことに気づきます。
あの家は何だったのか。
預けていた保証金は、なぜ「無理ですね」と言われたのか。
そして、なぜ後になって書面には「返還される」と書かれていたのか。
投稿する段になって、章のタイトルにも迷いました。最初は「借家のような、落ち着けない家だったのかと思った」と書いていました。どこか、恨みのような気持ちがにじんでいたと思います。
けれど制度を調べていくうちに、言葉が変わっていきました。
「今になって思えば、いつか返すことが前提の家だったのだ」
一般定期借地権は、期間が終われば土地を返す。しかも建物を壊して、更地にして返す。それを知ったとき、ようやく腑に落ちたのです。「わが家になると思っていた家」は、初めから「いつか返す家」だったのだと。
その気づきを追いかけて、疑問をぶつけ続けた記録が、一冊の本になりました。
*
『わが家を探した記録|定期借地権の家だった』

対談形式です。
聞き手は私。
答えてくれるのは「案内役」——対話AIです。専門家の解説書ではありません。当時の私が知りたかった順番で、いちばん素朴なところから始めています。
制度の話だけではありません。
執行官の一言に絶望した日のこと。
競売の三点セットを読んで希望が戻ってきたこと。
返還された保証金が、なぜか二重に振り込まれていたこと。
そして、契約から五十年——その節目を、まだ誰も迎えていないという事実。
巻末には、小さな用語集と、これからの定期借地権について考えた一章も添えました。
知ることは、自分を守ること。
何も知らないまま暮らしていた自分を、責める必要はありませんでした。大事なのは、気づいたときに、後からでも確かめること。知るのに遅すぎるということはない——この本を作りながら、私自身が教わったことです。
公開しました。
▷ BOOTH(PDF版)
※A5・縦書き/全39ページ/目次・用語集つき
▷ Kindle版
※縦書き/文字サイズを変更できます(リフロー型)/目次つき

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